代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

ベーシックインカムからベーシックサービスへ

2020年08月30日 | 新古典派経済学批判
 宇沢弘文先生のベーッシクインカム批判の投稿に対し、以下の質問をいただきました。シェアいたします。


一つ目は、執筆されたのが1973年オイルショックの翌年であり世界中がインフレ退治に躍起になっている時代であり、デフレがなかったこと
二つ目は、現在のIT技術や大量生産を可能にする工作機械の存在により資本を持つお金持ちがさらにお金持ちになりやすい経済環境があること

 当時と現在では、経済環境・技術環境が大きく違う為もし仮に現在まで宇沢先生がご存命でいらっしゃったらと思うとどのような意見を述べられたか気になる所存です。



 大変に富な知識に裏打ちされた鋭いコメントありがとうございました。
 IT技術やAIを用いた生産性の向上が、ベーッシックインカムを可能にする条件になると考えておられる論者が多いようです。しかし、これは地球の資源と環境の物理的制約を無視した議論のように思えます。資源・環境制約から生産性の無限な解放というのは不可能です。AIによる生産性の向上があっても、財を生産するための資源量そのものの制約はAI技術では克服できません。それこそ資源制約によってインフレが発生したオイルショックのような事態は今後も起きるのです。とくにレアメタルの枯渇はIT製品そのもののインフレ原因になるでしょう。

 宇沢弘文先生は工業製品に比べて、穀物、水、医療、エネルギーといった生活必需性の高い財とサービスほどとくに価格が高騰しやすい点を問題にしています。
 これらはいずれも資源・環境制約が強く効いてくる財であることが分かるかと思います。食料、水、エネルギー、鉱物資源などは地球の資源・環境的制約に規定されているので、AI技術が発生しても生産性の向上には上限があり、資源枯渇が進めば、それによる価格高騰は避けられません。それこそナウル的状況になります。

 宇沢先生は、同じだけの財源があったとして、それをベーシックインカムに使うよりも、食料や水や住宅やエネルギーなどを社会的共通資本として管理することを通して、それらの生活必需財の価格を公共料金として下げるように予算を使った方がよいと言っています。
 現金をもらって生活必需財を買うのと、その分だけ生活必需財の価格が下がることと、効果は同じと思われるかも知れませんが、前者がインフレの発生を伴うのに対して、後者はインフレを伴わないのですから、後者にお金を使った方が生活者は助かるはずということです。

 新自由主義イデオロギーの根幹は、公共サービスというものを廃絶して、「万物の商品化」を押し進める議論です。ベーッシクインカムの議論とは、万物の商品化を前提として、そのための所得を、という議論ですから新自由主義イデオロギーの軍門に下っているのです。

 最近、ベーシックインカムではなく、公共料金を引き下げるベーッシクサービスをという議論が起こってます。たとえば財政学者の井手英策氏などがそう主張しています。医療や福祉など社会保障を無償に近づけていく考えです。これは「万物の商品化」の流れを反転させ、生きるための基礎的サービスを「脱商品化」しようという考えです。ベーシックインカムは生活必需財のインフレによって格差をさらに拡大させますが、ベーシックサービスであれば、格差を縮小させるでしょう。

 宇沢先生の考えは、この「ベーシックサービス」の考えと同様のものと思います。宇沢先生は現在ご存命だとしても、そのように主張するでしょう。
 
 グリーンニューディールとベーシックサービスの考え方を統合すると、医療や福祉、住宅、水、穀物、交通、エネルギー分野などの生活必需財分野を社会的共通資本化し、環境に配慮した循環型で温室効果ガスを発生しない供給体制を構築し、安価に供給することで格差の拡大に歯止めをかけるという発想になります。

 以下のサイトで私の友人の政治学者である田中信一郎氏も、宇沢弘文やベーシックサービスの考え方を紹介しながら、ポストコロナの社会システムを展望しています。これも参考にしてみてください。

田中信一郎「ポストコロナの世界で私たちが目指すべき社会の姿とは?」
https://news.yahoo.co.jp/articles/0ee38702996e9cb3d6b6b79e0032387abd5bffb7
 

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3 コメント

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無題。 (遍照飛龍)
2020-09-03 17:37:01
まずは、一気にカンフル剤として、ベーシックインカムのように、金をばら撒く。

それを早急に辞めて、ベーシックサービス

てのが、現状ではいいのかな・・て思えます。

「万物の商品化」は、最終的には「人命の商品化」につながり、それを意図的に進めている意思も見えたりしてます。

ベーシックインカムでは、「食料・水の商品化」は止めれず、挙句の「人命の商品化」となると思う。


大変無知な私ですが、勉強になりました。ありがとうございます。
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コメントありがとうございました ()
2020-09-05 23:44:41
遍照飛龍さま

 コメントありがとうございました。ベーシックインカム礼賛論は大変に危険と思い書いた記事です。私がここで書いても拡散力弱いのが歯がゆいですが、ご理解いただき、書いてよかったです。
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Unknown (水鏡仁)
2021-09-06 13:29:54
水鏡仁です。お久しぶりです。
内容とは若干ずれがありますが、新古典派経済学にとどめをさせそうな事実に気付きましたのでご一読ください。
内容は、計算の順序は一般に変えられないという初歩的数学法則に経済学が反しているというものです。この算数レベルの法則に反しているため、ミクロ経済学の抽象化した法則のほとんどが事実として成り立ちません。
自然科学の抽象化が可能なのは、物理的に同時であり、順序が表記上のものに過ぎないからです。

https://suikyojin.hatenablog.com/entry/2021/09/03/163958
https://suikyojin.hatenablog.com/entry/2021/09/05/134936
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