代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

ネオニコ系農薬規制に住友化学が反論

2013年05月29日 | 利益相反 その傾向と対策
 前の記事でEUによるネオニコチノイド系農薬の規制の意義について述べた。以前からこの問題を精力的に取材している環境とCSRを扱うビジネス・マガジン『オルタナ(alterna)』によれば、農薬メーカーの住友化学(米倉弘昌経団連会長の出身企業)がさっそくEUのネオニコチノイド系農薬規制を「行き過ぎ」と反論しているとのこと。下記記事参照。

http://www.alterna.co.jp/11101

 同社は、「ミツバチの大量死、大量失踪とネオニコチノイド剤の因果関係が認められないにもかかわらず、予防的措置の考え方の下に使用規制するものだ」「ミツバチ大量死の原因は特定されておらず、農水省もネオニコチノイド系農薬が主たる要因とは認識していない」などと反論しているとのこと。

 これだけ甚大な被害を出している問題に対して「予防的措置の考え方の下に規制する」ことの何が問題だというのだろうか。もはや一刻の猶予もない。因果関係が特定されるのを待っていては遅すぎるからこその予防原則の適用である。これを否定するのは生命倫理観や科学的リテラシーが根本的に誤っているとしか言いようがない。

 実際には、『サイエンス』『ネイチャー』などにもネオニコチノイド系農薬がミツバチに影響を及ぼすことを実証した研究論文が掲載されており、EUはそうした研究に基づいて規制に乗り出したのだ。
 日本でも金沢大学の山田敏郎教授らが「ミツバチ大量死はネオニコ系農薬と強い相関」があるとする研究論文を発表している(下記記事)。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130305-00000301-alterna-soci

 もし住友化学や農水省が、こうした研究に基づくEUによる規制措置が不当だというのであれば、「ネオニコチノイド系農薬はミツバチの大量死と何ら因果関係はない」と科学的に立証するのは同社や農水省の責任である。

 しかしながら、農水省は傘下の御用研究機関に「ネオニコチノイド系農薬が主要因とは特定されてはいない」といった曖昧な意見を述べさせて、因果関係の特定を先延ばしさせようというサボタージュをしているのが実態のようである。因果関係は特定されていないのではなく、国が、特定をサボタージュしていると言うべきであろう。

 しかもその御用研究機関にしても、「ネオニコチノイドが主要因とは特定されていない」という結論にもなっていない意見を述べるだけ。「ネオニコチノイドが主要因ではない」と断定できていないのだから、予防原則を適用するのに拒む理由にはならない。

 前掲の『オルタナ』の以下のサイトに、長崎県からの報告で「ミツバチが生きた島、死んだ島」という動画ニュースがある。ぜひご覧になっていただきたい。ネオニコチノイド系農薬を空中散布した島からはミツバチが消え、空中散布していない島ではミツバチは元気という内容だ。

http://www.alterna.co.jp/8142

 上記論文の他に、これだけの状況証拠があれば、規制を阻む理由は何もないだろう。米倉さん、何か反論ありますか?

 


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1 コメント

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疫学的には (たんさいぼう影の会長)
2013-06-02 19:39:55
今日買ってきた本の冒頭に、ネオニコチノイド被害と思われる事例が大量に上がっていました。目立った被害が認められなかった例も含めて十分にレビューをすれば、おそらく疫学的因果関係を示すことは容易でしょう。
http://pen.co.jp/index.php?id=674
農薬を売っている企業が、いったん認可された農薬の規制に対して反論をするのはある意味で当然です。だからこそ、学界が十分な実験的検討を行い、行政がこれを根拠にしっかり規制をする必要があるのです。したがって今回の事例で最も問題なのは、学界、とくに公的な研究機関のネグレクトだと思います。
問題は成果公開の方法です。環境毒性関係の学会誌が企業によって口を封じられているならば、他の学会に越境し(神宮字氏らによるアキアカネへの影響の立証がこれ)、あるいはより広範な学問分野をカバーする雑誌への投稿(Natureなどは案外こういう論文を扱っているそうです;通すのはたいへんですけど)によって成果を公開していくのがよいでしょう。
ちなみに、魚はネオニコチノイドの影響をあまり受けないようで、ニゴロブナ仔稚魚はネオニコチノイドの箱施用剤を用いた田んぼでも異様に高い生残率を誇っています。たぶん、捕食性昆虫の一部が箱施用剤の影響で激減していることも有利に働いているのでしょう。
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