代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

新刊紹介『日本を開国させた男、松平忠固 -近代日本の礎を築いた老中』(作品社)

2020年06月20日 | 松平忠固
 日本開国の父・松平忠固の本がようやく刊行されます。前著『赤松小三郎ともう一つの明治維新』が刊行されたのが2016年12月ですから、2冊目を出すまでにずいぶん時間がかかりました。何せ先行研究がほとんどないので、一次史料と格闘するのに時間を要しました。
 6月26日の取次搬入とのことです。日本史の教科書を書き換える必要があるという内容です。歴史教科書が実際に書き変わるまでには時間を要するでしょうが、読んで下されば、開国をめぐる歴史教科書の記述が確かに間違っていることに納得していただけると思います。歴史に関心がある方、読んでくださると嬉しく存じます。
 本の帯に、歴史学者の岩下哲典先生とジャーナリストの佐々木実さんが推薦文を寄せてくださいました。お二人の推薦文を以下に紹介させていただきます。

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岩下哲典(歴史学者、東洋大学文学部教授、近著に『江戸無血開城』吉川弘文館など)
 開国期の老中や大老と言えば阿部正弘・堀田正睦、井伊直弼が有名で、松平忠固(忠優とも、信州上田藩主)はほとんど知られていない。本書では、忠固こそが、日本の「開国」の舵取りだったとし、これまで私たちがよく知っている「日本開国史」に異議申し立てを行う。徳川斉昭や一橋派、また薩長政権たる明治政府の外交政策にも厳しい目が向けられる。江戸城大奥や上田藩の官民あげての生糸・蚕種輸出の話しは興味深い。とくに明治初期、上田が蚕種の輸出で全国シェア4割だった事実にも驚かされた。庶民や女性にも目配りした、幕末維新史啓発の書である。忠固の未刊日記や確実な史料・文献を用いているし、読みやすい工夫が随所に施されている。多くの皆様に手に取っていただきたく思う。ネットにあがる読後感が楽しみである。



佐々木実(ジャーナリスト、竹中平蔵の評伝で大宅壮一ノンフィクション賞、宇沢弘文先生の評伝で城山三郎賞、石橋湛山ジャーナリスム賞など受賞)
 世界との交易を見据え、鎖国の扉を押し開いた“開国の父”はなぜ幕末史から消されたのか?
 日米修好通商条約は不平等条約ではなかった。ハリスとの交渉を主導したのは井伊直弼ではなかった。ペリー来航後、徳川政権末期に老中としてただひとり開国を唱えつづけた松平忠固。政敵の徳川斉昭や井伊直弼との暗闘を闘い抜きながら、信州上田城主として、輸出品としての生糸の生産を奨励した。だが、明治維新を神話化するためには、「幕府は無能」でなければならず、“開国の父”は闇に葬られる運命にあったーー。〈交易〉を切り口に、著者は「不平等史観」を鮮やかに覆す。本書は、世界資本主義へデビューする日本の姿を克明に描いた開国のドラマである。

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 ネットではすでに予約注文も始まっています。

作品社のHP
http://www.sakuhinsha.com/history/28126.html

版元ドットコム
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784861828126

Rakutenブックス
https://books.rakuten.co.jp/rb/16363227/

ヨドバシ.com
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amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/4861828120


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10 コメント

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正しい(と自ら信じる)ことを主張する (renqing)
2020-06-22 13:47:06
ブログ主 様
新著、出版おめでとうございます!

我がことのように嬉しいです。かつて、久野収は近代日本における「天皇制」の顕教と密教を語りました。

欧米の学者だってもちろんありますが、日本の学者はひど過ぎます。大学の講義では自説を語り、学界では通説を語る。生き延びるために。そういう手合いは、およそ intellectuals として死んでいます。そういうことが横行するから、列島アカデミズムから、学問の世界を変えるような新機軸がでないのです。別の投稿とも発言が被りますが、塩沢先生の顰に倣い、よい模範とし、理論的に正しく、倫理的にも正しいと信じられることを公言する。これをすべての intellectuals が実行できれば、世の中、まあまあ良い方向へ進むのではないか、信じます。
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それはまさに忠固の言葉です ()
2020-06-23 00:30:40
>大学の講義では自説を語り、学界では通説を語る。生き延びるために。

 私も、これがゆえにすっかり学会嫌いになって久しいです。官僚たちが安倍に忖度するがごとくで、学会のボスに忖度しながらまともな研究なんかできるわけがないのに。保守とかリベラルとか右とか左とか関係なく、日本社会はあまねくそうですから。
 学会になんか行かない方がよほど良い研究ができます。しかしそういう研究は、学会では評価されるわけもないので、在野の人びとの良識ある公正な判断に委ねるしかありませんが・・・。
 この本の主人公は、忖度することを全くしなかった、近世と近代とをとわず日本社会の中でも稀有な政治家だと思います。
 「正しい(と自ら信じる)ことを主張する」というrenqingさんの表題、まさに忠固が家臣に語っていた言葉です。「自分は天下のために正しいことを実行するのみ。勢州(阿部正弘)や老侯(徳川斉昭)が何と言おうが、われ関せず」と。
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「政治家」松平忠固 (renqing)
2020-06-23 01:37:38
ブログ主様
「この本の主人公は、忖度することを全くしなかった、近世と近代とをとわず日本社会の中でも稀有な政治家だと思います。」
「自分は天下のために正しいことを実行するのみ。勢州(阿部正弘)や老侯(徳川斉昭)が何と言おうが、われ関せず」と。
 おそらく、明治期、アカデミック史学の成立に際して、歴史の絨毯の下に塵埃として掃き込まれた、優れた無名の士がまだまだいるでしょう。彼ら/彼女らを黄泉の世界から召還し、今こそ自由に語ってもらう。それが同時に、「維新神話」の虚妄を白日の下に晒すことにもなる。松平忠固の事績を考えますとその感を強くします。赤松小三郎と松平忠固は今、ブログ主様の口と筆を借り、「長州史観」を弾劾し、蘇りつつあります。これが一つの真っ当な鎮魂のあり方でしょう。松平忠固とともに本書の出版を祝すものです。
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「天下」にコミットする匹夫 (renqing)
2020-06-23 13:25:34
ブログ主様
松平忠固が言う「天下」は、儒家思想的な概念です。上記URLの弊記事「天下を保つ匹夫(顧炎武)/ Is Gù Yán wǔ a democrat?」をご笑覧ください。
儒家思想が例えば西欧思想より全面的に優れている、なんていう夜郎自大の、頭の悪そうな考えは当方持ち合わせはありません。しかし自らを育てた思想基盤に優れた点があるのであれば堂々と主張することは、西欧人が自己の知的伝統を称揚するのと同様に自然な事、当然なことであると思います。

この顧炎武の、精彩を放つ、強烈な叱咤激励にはいつも感銘を新たにします。儒家思想は、ポスト戦国の列島の、まだ硝煙冷めやらぬ、血塗られ殺伐とした17世紀初頭に、人倫秩序を再建設するための「言葉」と「思想」を人々に与えました。その250年間の精華の一つが、松平忠固や横井小楠なのだと思います。

「国家統治の安寧秩序を保つことが貴族たちの責任だとしても、天下(人間としての人倫世界)を保つことは匹夫(最下層の人々)にだって責任があるのだ」
この思想は、noblesse oblige なぞを遥かに超える人類への遺産だと思います。徳川期の人々は、このテキスト上の言葉の数々を、ある種「真に受けて」、自らに高い倫理観を要求し実践しようとしました。その歴史実験がトータルの帰結としてたとえ不成功に終わったのだとしても、現代人に笑う資格があるでしょうか。
長州/薩摩軍事革命評議会権力は、自らの正統性を捏造するために、徳川人/旧幕時代を徹底的に冷笑しました。あまつさえ、自らを、「徳川土民」に対する「名誉白人」として、恥ずかしげもなく。だから、その後裔であるアベ crony capitalism 政権は、一片の(儒家的)倫理観、(列島伝来の「恥」)廉恥心も持ち合わせがなく、必要があれば習近平に色目を使い、「おいで」と呼ばれるとトランプに尻尾を振ることができる。こんな下等な人物を再選し続ける日本列島の住民の感覚は、かなりおかしくなっています。これも「官僚、学界、マスコミ」等の、「リアリティの管理者」たちの150年間のメンテナンスの《精華》なのでしょう。
 まずは黒々と墨で塗られた「隠された」事実を掘り起こすことが迂遠なようで一つの近道だと思います。頑張りましょう。必ず道は開けます。
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忠固の「天下」 ()
2020-06-24 01:36:13
 顧炎武の言葉の紹介ありがとうございました。いや知りませんでした。偉大な思想家ですね。

 ちなみに忠固が家臣に語っていた言葉、私の意訳で伝えていましたが、正確には以下のようなものです。

「おのれは天下ある事を知りて老公・勢州ある事を知らす。天下の為と思へる事は、何事か憚るへき。老公と勢州の否応は、我関る所にあらす」

 これは忠固の家臣が越前藩士の中根雪江に語った言葉を、中根が記録したもので『昨夢紀事』第二巻(日本史籍協会、1920年)、196頁にあります。
 忠固が交易の開始を訴え、斉昭と阿部に反対されてた際に発した言葉です。

 たしかに阿部と斉昭は「君臣」の「国」しか考えておらず、忠固は全人民を含めた「天下」を考えての発言のように思えます。
 本の中では、この言葉についてあまり深く考察していませんでしたが、顧炎武の言葉を知っていたら、もう少し踏み込んだ考察もできていたと思われます。
 今後renqingさんが、さらに深めて考察していってくださると幸いに存じます。
 
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江戸モラリズムへの死刑宣告者 (renqing)
2020-06-24 03:45:06
ブログ主様
「今後renqingさんが、さらに深めて考察していってくださると幸いに存じます。」

励ましの言葉、ありがとうございます。江戸人のモラルから明治人のイモラルの問題は、私の大きな課題です。自分なりに決着がつけられるとよいのですが。一つ、江戸モラリズムの破壊者への評言を引用しておきましょう。
「道徳主義のみの観点から江戸文化を見るのも誤りであろうが、それはなお経済原理のみで江戸の文化を割り切るよりは、誤りは少なくてすむようにも思う。江戸が江戸であるかぎり、道徳は常に経済よりは何がしかは優先して考えられていたはずだからである。それが江戸人の常識というものであった。その常識を根底から払い去ったもの、すなわち江戸の息の根をとめたもの、それが福澤諭吉であったように、私には思えるのである。」
中野三敏『十八世紀の江戸文芸―雅と俗の成熟―』1999年岩波書店、p.65
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橋爪大三郎氏の書評(毎日新聞) (renqing)
2020-10-18 00:24:28
ブログ主様

塩沢先生から、下記の情報をご教示頂きました。

今週の本棚:橋爪大三郎・評 『日本を開国させた男、松平忠固 近代日本の礎
を築いた老中』=関良基・著 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20201017/ddm/015/070/005000c

上記、有料(購読契約)なので、日曜日、図書館で全文読んでみます。
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橋爪大三郎氏の書評 (renqing)
2020-10-18 19:04:44
ブログ主様
毎日新聞「今週の本棚」欄の、橋爪氏の書評、拝読。概ね宜しいのですが、最後部分に見逃せない「誤記」?と思しきものがありまして、若干の懸念を、率直に記事化しました。折角の三大紙での書評なのでケチをつけようとは思わないのですが・・・。杞憂であればむしろ幸いです。
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歴史学者でなく社会学者の書評なのがミソですね ()
2020-10-18 22:58:35
renqingさま
 コメントありがとうございました。私も出版社からもらったメールで知って、買い求めて拝読しました。橋爪さんが書評すると事前に予告が出て、出版社は、即、在庫が切れると判断して3刷を決定したそうです。
 毎日新聞の書評欄、歴史の本の担当は磯田さんなのですが、「やはりプロの歴史学者としては、歴史学者でない人間の書いた本は取り上げたくないんだろうなあ」と思っておりました。
 もしかしたら、「磯田さんがやらななら私が・・・」といった感じで、社会学者の橋爪大三郎さんが取り上げてくれたのかも知れません。いずれにしても、ありがたいことで、感謝の一言に尽きます。
 ちょうど丸山真男批判がブログで盛り上がっていたので、橋爪大三郎さんの『丸山真男の憂鬱』を買い求めて読んでいたところでした。痛快な丸山批判で、スカッとする気分になります。橋爪さんへの御礼もこめて、私も近々、『丸山眞男の憂鬱』の書評をするようにします。

 最後の部分、さすがのrenqingさんの深読みですね。私は全く気にせずに読んでいました。「明治国家」を単なる元号としての明治の意味で使っていれば、橋爪さんの書き方でよいと思います。薩長政権の意味で「明治国家」という言葉を使っているのなら、若干ニュアンスが代わってきますね。
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女と男の大奥: 大奥法度を読み解く (renqing)
2021-05-15 01:01:03
ブログ主様
以下、新刊情報です。お知らせまで。

女と男の大奥: 大奥法度を読み解く
福田 千鶴 (著)
吉川弘文館 (2021/6/19)
※江戸城の本丸奥にあり、将軍の家族が暮らしていた後宮=大奥。愛憎と陰謀渦巻く男子禁制の世界のイメージが根強いが、実態はどうだったのか。江戸時代を通して十四度発令された大奥法度(奥方法度・女中法度)を読み解き、その歴史・職制・機能を分析。多くの男たちが出入りしていた事実を明らかにし、「女たちの大奥」という固定観念を問い直す。
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