代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

水道民営化の悪夢 PPP、PFI、コンセッションは不効率・不公正の温床

2018年06月01日 | 新古典派経済学批判

 安倍内閣は今国会に上程している「水道法改正」や「PFI法改正」で、水道管は公有にしたまま、水道施設の運営権(コンセッション)を民間に委託するという「上下分離式」の「コンセッション経営」を推進しようとしている。
 水道事業にかんして「PPP(官民連携)、PFI(Private Finance Initiative)、コンセッション」など経営を民間に委託することを可能にすべく懸命の努力が行われている。
 
 新古典派経済学者のあいだでは当然ながら、PPP、PFI、コンセッションなどを礼賛する声は大きい。その信念の根拠は、「公共性と効率性は両立可能である」という命題がある。彼らは、「(PFIで)官側が公共性を明確に定義し、その履行を正確にモニタリングすれば公共性が実現できないことはあり得ない」と考えている。
 
 「理論的に可能である」ということと、「実際にそれが行われるか」は別問題である。少し考えただけでも、自治体が直接水道を経営するのと、民間に経営させて自治体がそれをモニタリングするのと比較すれば、関与するアクターが増大して不透明性が増え、余計なモニタリングコストが発生する分だけ、かえって不効率になる可能性があることは容易に判断できるだろう。

 そして実際、そうなのである。
 イングランドの水道民営化の事例を見てみよう。イングランドではサッチャー政権下で1989年に水道事業の民営化がされた。民営化はしても、政府は公共性を担保すべく、三つの規制機関を設置して、水質検査や料金が適正かどうかなどを審査している。水道料金の上限規制を設け、料金引き下げ命令も可能なシステムになってる。
 これによって地域独占になることが必然的な水道経営について、料金が独占価格で恣意的につり上げられていくのを防ごうということだ。これは新古典派が理想とするところの「効率性と公共性の同時実現」の試みであるように思われる。
 
 ちなみに、日本の水道法改正案の中では、イングランドのような価格の規制などのスキームは全く盛り込まれていない。

 さて、イングランドの民営化の結果は以下のようなものだ。民営化後、ただちに水道料金は急上昇。規制機関であるOfwatは2000年の料金審査で水道料金を12%値下げさせた。しかし、その公的機関の規制をあざ笑うかのように、その後再び料金は急上昇し、25年で料金は3倍になった。その間のインフレ率は2倍であるから、実質で1.5倍ほどの値上げである。
 さらに、ロンドンのシンクタンクの「センターフォーラム」の『Money down the drain(資金は排水溝へ)』というレポートによれば、ロンドン水道を請け負うテムズウォーター社は、規制当局の目をごまかして事業収益をケイマン諸島のタックスヘイブンなどに逃がして節税しつつ、老朽施設の更新のための投資を怠っていた。その結果、料金上昇を招きつつ、漏水件数も増加している。
 以下参照。
https://www.centreforum.org/assets/pubs/money-down-the-drain.pdf




 PPP、PFIはかえって不効率であり、納税者・消費者に余計な負担をかけるだけなのだ。イギリスで、国営と民営どちらが良いかを問う最近の世論調査を見ると、水道の国営を求める声は59%、鉄道の国営を求める声も60%に達している。

国営と民営のどちらが良いかを問うイギリスの世論調査結果

出所)https://yougov.co.uk/news/2017/05/19/nationalisation-vs-privatisation-public-view/



 2017年9月のイギリス労働党大会で、「影の財務省」であるマクドネル氏は以下のように声明している。
PFI事業は納税者に長期間に亘り莫大なコストを負担させ、民間事業者に巨大な利益をもたらした。我々(労働党)が政権を獲得する場合、新規PFI事業について一切契約を行わない。既存のPFI契約及びPFI事業に関わる職員を、公有化する」と。
 (参照 http://blogos.com/article/260276/

 新古典派スキームがこれだけ惨憺たる結果に終わると、左派政党となったイギリス労働党が政権に返り咲く日も遠くないのではないか。
 
 労働党だけではないのだ。
 最近、英国会計検査院(NAO)、ヨーロッパ会計監査院(ECA)が続けて発表したレポートでは「PFIでの入札価格は40%割高であり、コスト削減効果もなく、透明性も悪化」「問題点が改善するまで、PPPを広い分野で集中的に使うべきではない」と勧告しているそうだ。
 岸本聡子さんの最新レポートをNPOのAMネットが翻訳している。以下のサイトをぜひ参照されたい。

 http://am-net.seesaa.net/article/459530694.html


 PPP、PFIの本家であるイギリスで、それらの信頼が完全に失墜する中、日本ではPPP、PFIが最新スキームであるかの如くもてはやされているわけだ。私たちは一周遅れのトップランナーなのである。

 巷では、「問題山積する中、いつまでもモリ・カケにこだわっているべきでない、前に進むべきだ」などという声も聞かれるが、ろくな法案が出てこないからこそ前に進めてはならないのだ。これら新自由主義、いやクローニー資本主義スキームをこれ以上進めてはならないからこそ、即刻、安倍内閣を退陣させなければならないのである。




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1 コメント

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改悪ですね (Iwataya)
2018-06-11 07:29:16
やたらと規制改革といって、実は民間企業への利権をばらまく政権の状態をよくあらわしているのがこの水道問題でしょうね。水問題は関先生のご専門ですのであらためて過去のブログなどから勉強させていただきます。
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