代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

パリ協定とWTO協定どちらを取るのか?

2021年01月24日 | 自由貿易批判
マクロン大統領が、ブラジルからの大豆の輸入制限という手段をとっても大豆の国産化を図った場合、ブラジルは「WTO協定違反」として、フランスをWTOに提訴することになるだろう(トランプ政権の妨害のおかげで、WTOの上級パネルは現在機能していないが)。WTOのこれまでの判例から判断すれば、ブラジルが提訴すればブラジルが勝ち、フランスは負けるはずである。  しかし、今世紀後半に炭素排出を実質ゼロにするというパリ協定を満たすためには、アマゾンをこれ以上破壊してはならない。  問題なのは、パリ協定とWTO協定のどちらが大事なのか、という点である。私たちはパリ協定を優先すべきであり、森林を農地転用して生産された作物や牛肉などを、もはやこれ以上輸入してはならないのだ。 . . . 本文を読む

社会的共通資本とベーシックサービスとグリーンニューディールの統合

2020年12月28日 | エコロジカル・ニューディール政策
 ユーチューバーの北畑淳也さんが運営する「哲学入門チャンネル」に呼んでいただきました。今回はポスト新自由主義の社会を展望するということで、社会的共通資本とベーシックサービスとグリーンニューディール政策の考え方を統合するという話をしてきました。以下、動画を張り付けておきます。話のアウトラインは以下のような感じになっています。 (1) 宇沢弘文先生が目指していた脱成長の定常社会とはどのような状態か . . . 本文を読む

丸山茂徳氏がすべきことはクズ本の出版でなく謝罪である

2020年12月26日 | 温暖化問題
なぜ日本の「知識人」なるものは、自分の言論活動にちゃんと責任を負えないのだ。なぜ間違ったことを言っても、どこ吹く風で、平気な顔をしている人間が多いのだ。なぜ日本人は、こうした「知識人」たちを許すのだ。地質学者の丸山茂徳氏は、2008年に書いた『「地球温暖化論」に騙されるな!』(講談社)で次のように主張していた。「この問題は、おそらく10年もしないうちに決着がつくと思います。21世紀の地球の気温変化は2035年頃が最低値となる寒冷化を示します」。あれから12年。地球は寒冷化するどころか、気温上昇はとどまるところを知らない。IPCCの予測通りだ。「寒冷化」という予測が外れたのだから、科学者としての良識があるのであれば、丸山氏は世間を騒がせたことに対して謝罪すべきであろう。 . . . 本文を読む

【書評】斎藤幸平著『人新世の「資本論」』(集英社新書、2020年)

2020年12月14日 | 運動論
私は、いまさらマルクスなんか読んでも未来は何も見えないと考えている。このブログでもたびたびマルクスを批判してきた。それゆえ「資本論」がタイトルに入る本など、敬遠してほとんど読んでいなかった。しかしこの本に関しては、内容はほとんど環境問題についてということなので、読んでみた。  本の内容を簡潔に述べれば、晩年のマルクスは、『資本論』までに自ら構築した理論の誤りに気づき、成長神話を捨て、エコロジーの原則に立脚して、循環型で自然と調和していた資本主義以前の農村共同体を評価し、それを発展させる形での「脱成長コミュニズム」という境地に達していたということ。そして、その晩年のマルクスのビジョンを活かして未来社会を構想しようということである。 . . . 本文を読む

日米修好通商条約に関税自主権はあったという問題

2020年12月11日 | 歴史
問題は、日米修好通商条約の付属文書である「貿易章程」の末尾にある次の文章である。  和文正文 右(注:関税率規定)は神奈川開港の後五年に至り日本役人より談判次第入港出港の税則を再議すへし 英文正文 Five years after the opening of Kanagawa, the import and export duties shall be subject to revision, if the Japanese government desires it.  和文では、5年後には日本側が提起次第、関税率規定を再議すべしとなっていて、関税率の改訂には再交渉が必要ということになり、日本に関税自主権があるとは言えないことになる。  しかし英文の方を見て欲しい。英文の方を訳せば、「神奈川開港から5年の後、日本政府が望めば、輸入・輸出税は改訂される必要がある」という意味になる。つまり日本が関税率を改訂する(revision)と希望すれば、法的義務としてアメリカ側はそれを承認せねばならないのだ。すなわち、関税率を決める権利は日本側にのみ帰属するのであるから、日本に関税自主権はあることになる。 . . . 本文を読む

ポスト新自由主義に向けた日本の税制改革

2020年12月09日 | 政治経済(日本)
いま日本が取り組まねばならない二大課題は、(1)拡大しすぎた格差を是正し人びとの暮らしを守ること、(2)温室効果ガスの排出ゼロを目指して産業構造とライフスタイルを根本的に変えていくこと、であろう。これは別段日本のみならず、人類が生き残りかけて取り組まねばならない二大課題である。そのために必要な税制改革は、金融所得への課税率をアップ、グッズ減税バッズ課税の原則の導入である。 . . . 本文を読む

百田尚樹氏が意外にもアンチ長州史観なのに驚いた

2020年11月26日 | 長州史観から日本を取り戻す
百田尚樹氏をベタ誉めした上で、やはり問題は残るのだ。それは日米修好通商条約の評価である。徳川政権の近代化努力を高く評価する百田氏でも、この条約に対する評価の低さだけは、従来の右派左派に共通する「不平等条約史観」を踏襲してしまっているのだ。 それにしても百田氏が、ここまでのアンチ長州的な認識を示しているということは、この間の、薩長史観見直しの大きなうねりが、日本人の歴史認識を大きく変えてきているということだろう。あとは「日米修好通商条約=不平等条約」という史観の誤りを正すことができれば、明治維新史は完全に書き変わる。 . . . 本文を読む

まじめに検討すればベーッシクインカムは若者に支持されない

2020年11月25日 | 政治経済(日本)
 ごく平均的な大学生に真剣に検討してもらえば、大方はBIなど空想的で、無意味な議論だと結論する。 反対派は、その論拠として  ①財源がない。  ②かりにBIが導入されたらブラック企業はすぐにその分で賃下げするから支給の意味はなくなる。  ③社会保障が削減される。  ④ニートが増える。  ⑤ギャンブル、酒、タバコなどの依存症が増える。  などを挙げていた。 . . . 本文を読む

トランプは帝国であることを止めた歴史的な大統領

2020年11月12日 | 政治経済(国際)
戦後の歴代大統領の中で新しい戦争を始めていないのはトランプだけというのは、あながち誇張ではない。バイデンは、トランプの武器輸出がイエメン内戦を劇化させていると批判しているが、それを言うのであれば、オバマ政権時代に副大統領である自分の責任をまずは自己批判すべきであろう。バイデン新大統領が自己批判をした上で、トランプが布いた「脱帝国化」の途を継承するのであれば、それは称賛されるだろう。バイデンも、新しい戦争を始めないという点で、トランプのレガシーを継承して欲しいものである。いずれにせよトランプは、アメリカの戦争中毒を終わらせ、脱帝国化の途を歩み始めた歴史的な大統領と言えることは間違いない。 . . . 本文を読む

大熊孝先生の『洪水と水害をとらえなおす』が毎日出版文化賞受賞!

2020年11月08日 | 治水と緑のダム
近年、水害が起きるたび、ダムとスーパー堤防が必要だと叫ぶ声が高まる。実態をよく知らないまま、ダムとスーパー堤防に過剰に期待している「国土強靭化」論者の方々にこそ、この本を読んでいただきたい。著者は「究極の治水の形は400年前にある」として、戦国時代から江戸時代に発達した治水技術を再評価する。すなわち、相対的に被害の少ない場所を決めて、洪水を越流氾濫させ、流域全体の被害を分散、軽減するというシステムだ。越流してきた水は水害防備林で受け止め、被害を軽減すると共に、越流した水をゆっくりと川に戻していく。伝統的な知恵を取り戻し、それを発展させることにこそ、未来の治水の形があるのだ。 . . . 本文を読む

トランプ政権4年間の評価は80点

2020年11月07日 | 政治経済(国際)
4年間を総括してみると、80点というところであろうか。木村太郎氏よりは採点が辛いが、トランプが平和に貢献したという点について、心情的に木村太郎氏に賛同するものである。選挙終盤でトランプがコロナにかからなかったら、トランプが逆転勝利していたのではないかと思う。あそこまでコロナへの無策ぶりを徹底的に印象付けてしまったのが痛かった。  というわけで、トランプ大統領、お疲れさまでした。トランプ政権は終わっても、いちど進んだモンロー主義への途は巻き戻すことはできない功績となるでしょう。 . . . 本文を読む

赤松小三郎所有の測量器具一式

2020年10月14日 | 赤松小三郎
左上の写真は、今日で言うところの「トランシット」に相当する測量器具である。初めて見た時には、あまりの精巧さに、にわかに江戸時代の国産品とは思えなかった。江戸時代の末期には、すでに近代化の歩みが着実に始まっていたことがうかがわれる。  赤松小三郎が、これらの器具を使って、藩士たちに手ほどきをしていたのだろう。余談だが、老中を務めた藩主の松平忠固の四男の松平忠厚は、廃藩置県後にアメリカに渡り、アメリカにおいて新しい測量器具を発明してその名を全米に轟かせた。明治の初期から、測量学の世界の最先端で活躍した忠厚のような人物が出たのも、これらの測量器具を見ていると頷ける。 . . . 本文を読む

流域治水と耐越水堤防

2020年10月11日 | 治水と緑のダム
「耐越水堤防を地道に整備し続けていれば、(昨年の台風19号水害でも)かなりの破堤は防げたと推測できる」と指摘。「決壊の可能性のある堤防を放置したまま、多額の費用をかけてダムを造り続けたことが本末転倒だった」 . . . 本文を読む

ラジオドラマ『小三郎伝』合情記・みなとかおる 作

2020年10月10日 | 赤松小三郎
 このたび赤松小三郎が出てくる音声ドラマが制作されました。以下の『日本史別天地』というサイトの第1作目として制作されたそうです。興味のある方、ぜひ聴いてみてください。 日本史別天地 『小三郎伝』合情記 https://anchor.fm/devision-division/episodes/ep-ekinv9  原作はみなとかおるさんです。みなとさんは、拙著を読んで評価して下さり、そこから赤松 . . . 本文を読む

水戸学国体論の国家観とマルクス主義の国家観

2020年10月06日 | 政治経済(日本)
 日本学術会議の任命拒否事件も、中国の軍事的強大化に対して対抗しようとして、日本学術会議に軍事研究をさせようと、それに反対しそうな学者をあらかじめ排除しようという意図で行われたことだろう。学問を国家が支配している中国の共産党国家に対抗するために、自らが中国のようになっていく。対抗すればするほど、お互いに似た者同士の醜悪な国家へと変貌していくのである。  この悪循環を断ち切るには、お互いの経済にマイナスでしかない軍拡競争の愚を認め合い、軍事費の歯止めない拡大に、両者合意のもとに、互いにブレーキをかけるしかないだろう。 . . . 本文を読む