代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

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大熊孝先生の『洪水と水害をとらえなおす』が毎日出版文化賞受賞!

2020年11月08日 | 治水と緑のダム
 日頃私も多くの教えを受けている大熊孝先生の『洪水と水害をとらえなおす』(農文協)が、本年度の毎日出版文化賞を受賞した。
 水害多発時代を迎え、国交省も従来の河道主義治水を放棄して、流域治水へと転換する中、いよいよ大熊治水論を社会が本格的に実践していかねばならないのだと、時代が後押ししてくれているようだ。この本を選出した審査委員にも敬意を表したい。

 「数十年に一度」の規模の豪雨が毎年のように列島を襲うという「気候非常事態」に直面している今日、今後の治水対策はいかにあるべきか、そして人間と川はいかに共生していくべきかを論じたのが本書である。2018年の西日本豪雨水害や昨年の台風19号水害まで、直近の水害の調査結果も盛り込んでいる。今後の水害に対する心構えをつくる上でも、必読書と言ってよいだろう。
 この本の特色は、たんに水害への技術的対処策を述べたものではない点にある。本書は、日本人がどのような自然観をもって歴史の中で川と向き合い、災害に対処してきたのかという哲学的・歴史的叙述から始まる。日本列島の歴史の中で育まれた民衆の自然観が生んだ防災哲学を再評価し、自然を征服して水害を抑えようという「国家の自然観」を乗り越えることこそ、未来の治水を考えるために必要な鍵があるというのが本書のメッセージである。著者が長年にかけて構築してきた治水論の、現段階での到達点である。

 近年、水害が起きるたび、ダムとスーパー堤防が必要だと叫ぶ声が高まる。実態をよく知らないまま、ダムとスーパー堤防に過剰に期待している「国土強靭化」論者の方々にこそ、この本を読んでいただきたい。
 本の中で大熊先生は、「洪水調整用ダムは、計画規模の降雨に対しては、土砂で洪水調節容量が減らないかぎり、それなりに機能を発揮している」(166頁)としつつも、いつか作り直さなければならないコンクリートの耐用年数の問題、ダム建設から数十年が経過すると堆砂によって必要な治水容量が確保できなくなるという堆砂問題、さらに近年はダムの治水容量を超えてしまう豪雨が頻発し緊急放流をせざるを得ない事態が相次いでいること等を指摘し、「根本的にはダムによる治水はやめるべき」と断言する。
 
 ではどうすればよいのか? 大熊先生は、「究極の治水の形は400年前にある」として、戦国時代から江戸時代に発達した治水技術を再評価する。すなわち、相対的に被害の少ない場所を決めて、洪水を越流氾濫させ、流域全体の被害を分散、軽減するというシステムだ。越流してきた水は水害防備林で受け止め、被害を軽減すると共に、越流した水をゆっくりと川に戻していく。伝統的な知恵を取り戻し、それを発展させることにこそ、未来の治水の形があるのだ。

 
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