高齢者の日常生活を支える介護保険には、介護度が軽い人向けのサービスがある。これを保険制度から離し市町村に委ねることになりそうだ。予防介護は大きな柱だが、その理念が後退しないか。
介護の必要度の低い高齢者を早い段階から支え、重症化を抑え、自立した生活を送ってもらう。そのため予防重視は二〇〇六年の改革で介護保険の重要な柱になった。それを撤回してしまうのか。
厚生労働省は、社会保障制度改革国民会議の提言を受け、予防介護サービスを保険給付から市町村の事業に移すことを検討中だ。対象は軽度の要支援1と2で約百五十四万人いる。
要支援者が求める支援は掃除や買い物、配食、見守りなど多彩だ。厚労省は「自治体の方が地域ニーズに応えられる」と言うが、要支援者の急増で保険財政が今後厳しくなるとの事情がある。狙いは給付費抑制だ。国民会議も効率化・重点化策として挙げている。
介護保険のサービスは一定の報酬を保証した専門職の介護事業者が提供するが、厚労省が自治体に求めるのはNPOや住民などのボランティアに担ってもらうことで費用を抑える事業だ。
自治体はニーズを知りメニューをそろえる力量が問われる。受け皿の担い手がいなければ地域づくりにも取り組まねばならない。
地域で住民の互助が地域をつくり高齢者の介護を支える方向は求められている。だが、実現には時間がかかる上、自治体の力量にも差がある。地域間で提供されるサービスに差がでかねない。
「軽度の切り捨て」「予防軽視」にならないか心配になる。
予防に役立たなければ重症化が進みかえって医療や介護の費用がかかる。厚労省は受け皿づくりへの十分な支援をすべきだ。
厚労省は事業を保険財源で賄う考えだ。保険は、保険料を払った個人に約束した給付を保証する仕組みが原則である。介護保険のサービスに使われるから保険料を負担している。介護分野に使うとはいえ、介護保険から外す自治体の事業に充てることはその原則に反しないか。
以前、年金財源を本来の年金給付とは別の保養施設建設に充てる“目的外使用”が問題化した。使用目的を広げるのなら保険料負担をする国民の理解が要る。
なるべく介護を受けず自立して地域で生活することが多くの高齢者の願いだろう。安心できるサービス提供を目指してもらいたい。