脇役が光るのが人気ドラマの常。今回の朝ドラも例外ではない。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘した。
* * *
世の中はまだ「五代ロス」の余韻に浸っているかもしれない。
NHK朝ドラ『あさが来た』で五代友厚を演じたディーン・フジオカが巻き起こした爽やかな風。その後もあちこちの番組にヒッパリだこの状態を見ると、その風は「旋風」と呼ぶべきかも。
でも私には「五代様」以上に「ロス」を恐れる存在がいる。『あさが来た』の世界をずっと支えてきた人。ドラマのスタート当初から4か月も出続けているのに、過度には目立たず、きちっと脇で空気を締めてきた、いぶし銀のような存在。両替商・加野屋の屋台骨の一つに、間違いなく数えられるあの人。
そう、「雁助」さんだ。
最近は多少、露出も増えた。友近演じるうめとのロマンス話で顔アップの機会も増えたけれど。それだって合計すればほんの数十分程度? さして長くはない。しかし、雁助が画面から「いなくなる」となるとなれば、影響は実に大きい。
雁助の口調、身のこなし、表情の作り方。使用人の筆頭である大番頭はこうあって欲しいというフィット感。生粋の大阪弁、滑らかな商い言葉は言うに及ばず。眼光鋭く、コワモテ。安易な妥協はしない。銭を扱う商いとは、こういう人が大番頭として締めるところをビシっと締めるから成り立つのだな、と納得させられてきた。
その「両替商」という商いが消滅し、近代的な「銀行」に転換する。時代の波の中での劇的変化を、「雁助」の存在がまさに象徴している。存在は噛みしめるほどに深い。「雁助ロス」の喪失感を考えると怖ろしい。
「雁助」を好演しているのが山内圭哉という役者さん。カツラがあまりにも自然で、着物姿もこなれていて、時代劇か松竹新喜劇などで地道に活躍してきたベテラン舞台役者かな? という第一印象だった。
ところが。なんと、子役あがりと聞いてビックリ。映画『瀬戸内少年野球団』(篠田正浩監督)にも出ていて今はパンクミュージシャンでもある個性派と聞き、二度ビックリ。ますます今後の活躍に期待したくなる逸材だ。
雁助とは、単なる脇役ではない。見る者の印象に強く残る「名脇役」だ。
主役の周囲にいる付け足し的な存在ではなくて、その脇がいるからこそ中心(加野屋)が輝くという効果を、最大限発揮している。たとえば寅さんにおける、おいちゃんやタコ社長みたいに。あるいは小津安二郎監督『東京物語』の、東山千栄子や杉村春子のように。
振り返れば、昨年は『下町ロケット』で中小企業の経理部長役を演じた立川談春の演技が、名脇役として話題を集めた。山内圭哉と立川談春、どこか共通点がある。腹の底に、土台、型のようなものを持っている。肝が据わっている。
山内氏は児童劇団での新劇、立川氏は落語--いずれも基本的な型を自分の中に叩き込んだ上で、それをアレンジしたり、ズラしたり、ぶっ壊したりしているゆえの安定感ではないか。
ドラマの中に「名脇役」を発見する時の楽しさといったら、ない。いよいよドラマというコンテンツが、映画という文化に匹敵する娯楽となってきたと言っていいのかも。次の名脇役はさて、どのドラマの中に見つかるだろうか?