またしても東宝のSFシリーズを取り上げるときがやってまいりました。
池部良、田崎潤、上原謙、平田昭彦、志村喬。
そっくりそのままそれは「地球防衛軍」や「海底軍艦」の配役だったりするわけで、
わたしはこの人たちを今まで何回描いたことか、と遠い目になってしまいました。
「妖星ゴラス」。
宇宙開発が世界の注目を集め、話題に追随する創作物が世界中に溢れつつあった
1962年というこの時代、妖星ゴラスの地球への衝突を回避して地球を破滅から救うべく、
日本の科学者(と申し訳程度のアメリカ人科学者)が必死の奮闘を続けるというストーリー。
監督はあの多猪四郎監督です。
これはもう「地球防衛軍」「海底軍艦」と並ぶ、突っ込みどころ満載三部作の一角として
今日まで当ブログの好餌になる運命を帯びる日を待っていたとしか思えません。
わたしがやらねば誰がやる。
という意気込みで、さっそく始めたいと思います。
タイトルロールに流れる音楽は、もろ伊福部明先生の「ゴジラ」のパクり、もといオマージュ風。
これは盗作と言われてもしかたないのでは、とマジで心配になるくらいです。
さて、ここは地球。(そらそうだ)
地球時間の1979年という設定です。
・・といえば、スリーマイルで放射能事故が起き、サッチャーが英首相になって、
ソニーが「ウォークマン」を発売し、「エイリアン」「地獄の黙示録」が上映された年ですね。
この映画では、この頃には宇宙開発が日本でも本格的に進み、
宇宙省が創設されて、宇宙探査船のパイロットが職業として成立している、
という前提のもとにストーリーを進めております。
その近未来にのある夜、イカした真っ赤なオープンカーを飛ばして
月明かりしかない海辺にやってきたのは、見目麗しい二人のうら若き女性。
一人は宇宙局のベテランパイロット、園田を父に持つ娘の智子(白川由美)。
もう一人はその親友の野村滝子(職業不詳)です。
ちなみに智子は祖父もまた航空宇宙の専門家(志村喬)というお嬢様ですが、
そのお堅い肩書きのわりにこの登場シーンは派手すぎる気がします。
しかも友人の水野久美演じる滝子が「夜の海で泳ぎたい」と水着もないのに言い出し、
「見てるのはお月様だけ♡」
というや二人で服を脱ぎ出します。
BGMがなぜかハワイアン調になり、「海底軍艦」の冒頭シーンのような
顕な下着姿の女性を期待してワクワクしていた(にちがいない)
男どもの期待は、次の瞬間、あっさりと裏切られるのでした。
閃光と轟音、そして上昇するロケットが。
富士山麓にある宇宙港から土星探検の宇宙船「JX-1隼号」が発射されたのでした。
カーラジオの臨時ニュースで、艇長と副艇長の名前とともにその離陸が報じられます。
この二人、宇宙船艇長の娘と副艇長の恋人ですが、なんと驚いたことに、
この瞬間まで打ち上げの時間も、父と恋人が乗っていることも知らなかったようなのです。
これはあれかな、宇宙時代の到来で、ロケットの打ち上げなど、
新幹線の出発みたいに珍しくもなんともなっているという設定なのかしら、
と思ったのですが、隼号が出発したのは「第一次土星探検」という
史上初のミッションだというではありませんか。
それなら、本来家族は出発日時を知っているだろうし、それどころか、
NASAのように発射見送りを許されているものではないでしょうか。
当然ニュースで告知されているはずだしね。
という具合に、しょっぱなから口を酸っぱくして突っ込まざるを得なくなり、
大変心苦しいのですが、善意で?解釈すると、次からのシーンが
シリアスで地味なため、せめて最初だけでも
お色気らしきものを盛り込んでみましょうということのようです。
余計なお世話だ(笑)
さて、こちらは世紀の偉業を成し遂げようとする隼号。
日本国宇宙省管轄の宇宙船で、JX型ロケットの1番機です。
ウィキペディアによると、建造には1979年当時で11兆6千億円が費やされた
単段式のロケットであり、撮影のための模型は1m弱の大きさとなっております。
キャビンはこのとおり、広々として居住性抜群。
メンバーに一つずつパネル付きデスク完備です。
無事に発射打ち上げが成功したばかりのキャビンなのですが、
シートベルトは今時普通車にも見られないような胴体だけを締めるタイプ。
しかもヘルメットはバイク隊のお巡りさんのようなデザインです。
船内は勿論与圧完備、おそらくGも軽減することができる、すごい仕組みがあるようです。
と、相変わらずちょっとバカにしていたわたしは、ここであることに気がつきました。
「土星の探査が17年後に可能となっている」
というこの映画の「予言」は実は当たっていたことです。
実際に探査機「パイオニア11号」が土星に接近したのはまさに映画の舞台1979年のことであり、
翌年の1980年にはボイジャーが同じく土星の探査を行っているのです。
もちろん、探査機ですから無人で「隼号」のように3〜40人も乗せてはいませんが。
アナログ計器
Angular velocity、角速度は、ある点をまわる回転運動の速度を、
単位時間に進む角度によって表したものです。
早い話ロケットがどれくらい移動したかということだと思います(適当)
こちら、隼号艇長、園田雷蔵(田崎潤)。
田崎潤が演じる軍人的な役柄には、必ずと言っていいほど美しい娘がいますが、
その娘というのが先ほどの白川由美であるわけです。
そしてこれが副艇長の真鍋秀夫。
真鍋は滝子の恋人で、二人は彼がミッションから帰ったら結婚する予定・・・
としっかりわかりやすいフラグ要員です。
彼らにはおそらく自衛隊や海保のような階級があるはずなのですが、
ここではそこまで細かくディティールを設定しておりません。
想像するに、彼らのほとんどは、宇宙局創立に伴う宇宙飛行士部隊組織の際、
自衛隊から志願してきたパイロットではないかと思われます。
そのとき、隼号に緊急の連絡がありました。
地球に接近する、質量にして地球の六千倍の大きさの惑星、
「ゴラス」(発見された途端命名されている)が発見されたと。
園田艇長はすぐさまミッションをゴラスの観測に切り替える決意をします。
しかしすぐに異変が起こりました。
隼号がその星に強い引力で引き寄せられているのです。
写真はこの時代のロケットに搭載されている観測用のスコープで、
旧型潜水艦の潜望鏡のように片目で覗くと、宇宙船の外殻から
バブルウィンドウに守られた観測用カメラが出てくる仕組みです。
必死で船体をゴラスから反航させ、エンジン全開で踏ん張ろうとしますが、
引力に抗うことができず、吸い込まれていく状況にパニくる乗員たちを、
神宮寺大佐は、じゃなくて園田艇長は叱咤します。
「部署につけ!脱出不可能ならどうしようというのだ!
酒飲んで歌でも歌いながら死のうというのか」
自分たちは命に代えてもこの星のデータを取って後の世に遺すべきだ。
言い終わった艇長の頬には涙が流れていました。
そうこうしている間も、隼号は3.57Gで引き寄せられています。
しかし、キャビンでは皆普通に立ったり座ったり歩き回っています。
神宮寺、じゃなくて園田大佐は、じゃなくて艇長は宣言しました。
「隼号の任務はこれをもって終了する。
皆よく頑張ってくれた。ありがとう」
すると一人の乗員が、
「バンザーイ」\(^o^)/
「バンザーイ」\(^-^)/
そして泣きながら全員が・・
\(^-^)/\(^-^)/\(^-^)/\(^-^)/
この頃のスタッフはまだ戦中派が多かったこともあり、
旧軍の最後の突入を思わせるシーンでの万歳ということになったのでしょう。
それは一向に構わないのですが、この構図ったらあまりにも間抜けです。
カメラワークって、大事。
そして、隼号はゴラスに飲み込まれました(-人-)ナムー
折しもその時日本は12月25日。
あの打ち上げの日から季節は夏から冬に変わっていました。
クリスマスで賑わう街を遊び歩く園田智子と滝子の行手に、
家事ロボットのサンドイッチマン(死語)が立ち塞がりました。
この時代、家の雑用はロボットがやってくれるようになっているようです。
この時から42年後となる2021年現在、我が家ではおそうじロボット、
ルンバ三代目と初代拭き掃除ロボット、ブラーバが掃除だけはやってくれています。
しかし、もちろん家具の下などは自分でやることが前提ですし、
そもそもこいつら、何回作動しても玄関の5センチの段差を見分けられず、
落ちて動けなくなったり、オフィス用椅子の脚の間に入り込んで
出られなくなったりと、正直結構なバカです。
1962年当時近未来の科学として想像されていた人間型ロボットという存在は、
AIという人工知能の発達によって、存在する必要が無くなったかに思えます。
人間型のロボットがもし未来に存在するならば、それは他ならぬ人間が
進化した「アンドロイド」というものなのかもしれないなあ、と思ってみたり。
「おまわりさん呼ぶわよ」
中の人は宇宙省のパイロット、滝子の幼なじみ、金井(久保明)でした。
どうして国家公務員であるパイロットがバイトなぞしているのかというと、本人曰く
「欲しい上にも欲しいのがゼニってやつでね」
うーん、こんなバイトまでしなきゃいけないほど薄給なのか?
しかもこのセリフ、パイロットのくせにあまりに下賤すぎやしませんかね。
これが宇宙省パイロットの制服。
明治時代のおまわりさんかな。
この時代、公務員パイロットは狭き門で合格率は800人に一人。
しかし滝子に言わせると、
「たかが運ちゃんじゃない。徳川時代の雲助よ」
おいおい、何ちゅう差別発言や。
っていうか、なんで徳川時代限定?
クリスマスムードに浮かれて自宅に帰ってきた智子は驚愕しました。
なんと実家で通夜がすでに始まっていたのです。
誰のって、そりゃ隼号艇長の園田雷蔵、智子パパのですよ。
よりによってこんなときに限って、娘は真っ白な毛皮の下に真っ赤なドレス。
っていうか、ここまで通夜の用意が進み、関係者に連絡し、
弔問客一同が集まっているというこの瞬間まで、
どうして娘に一言の訃報どころか事故の連絡もなかったわけ?
智子、もしかしたら昨夜は外泊か?お泊まりだったのか?
気まずそうに彼女から目を逸らすのは(考えすぎかしら)
宇宙省の科学者、河野(上原謙)、田沢(池部良)両博士。
隼号の遭難はあっという間に政治案件になりました。
法務大臣(小沢栄太郎)は、ゴラスを早期に発見できなかった責任を
死んだ園田艇長に押し付けようという考えです。
それどころか、土星探査の目的を急遽変更したことさえ、
宇宙省の命令ではないのか、と与党内野党的粗探しを始めました。
「これは内閣の命取りになりますよ」
左、総理大臣
そこで呼ばれたのが宇宙省の科学者二人です。
カバンからペラッペラの便箋5枚くらいの報告書を出して配り、さらっと
「ゴラスは今のままだと地球に衝突します」
そして、なぜか各国の学会から寄せられた隼号への感謝の電報の束を取り出します。
とにかくこれはもはや内閣はもちろん日本だけの問題ではありません。
Xデーは、2年2ヶ月後と決まりました。
さて、場面は変わってここは宇宙省管轄の富士山麓宇宙港(そう看板に書いてある)。
手前に見えているのは1950年代から70年にかけて自衛隊で使われていたヘリ、
チョクトー(日本での名称はHSS-1)だと思います。
宇宙港の検問所には、60年代式のビンテージ車に乗った報道陣が駆けつけました。
記者たちは博士の行方を追い回しています。
後ろの景色は微妙にパースが狂っているのですが、書き割りかな?
宇宙港では飛行士の無重力訓練が粛々と行われています。
しかし、飛行士たちは無重力室でふざけて殴り合いしたりして態度悪すぎ。
案の定ひとりはサンドイッチマンの金井です。
二人の上部には体を吊っている黒いワイヤが一瞬はっきりと見えます。
体の組成データ採取中の鳳号乗員(二瓶正典)。
そこに、両博士らを乗せたヘリコプターが到着しました。
機体に書いてある「HIBARI」で調べたところ、これは
ベル川崎H-13H「ひばり」
という機体で陸自にが採用していたものであることがわかりました。
すると二瓶らはなぜか検査をブッチして部屋を飛びだします。
ヘリには、彼らの鳳号隊長が乗っていたからです。
「どうでした?」
と問いかけると、鳳号艇長(平田昭彦)は無言で首を横に振りました。
つまり鳳号の出発は見合わせということです。
「ちくしょー!」
そこで彼らは何やら相談すると、駐機中のヘリに飛び乗って離陸しました。
ヘリの操縦ってそんなに簡単にできるものなの?
それともやっぱり金井さんって陸自のヘリパイ出身だったりする?
手前に日劇のミュージックホールがありますから、有楽町上空です。
その後この建物は有楽町マリオンになりました。
ここで男どもがご機嫌で歌う歌というのが、あの「ジェットパイロット」もかくやの
御座敷小唄的マイナーソング(マイナーは短調という意味ね)です。
「俺ら(おいら)宇宙のパイロット」
狭い地球にゃ 未練はないさ 未知の世界に 夢がある夢がある
広い宇宙は 俺のもの俺のもの はばたきゆこう 空の果て
でっかい希望だ憧れだ
オイラ宇宙の オイラ宇宙の オイラ宇宙のパイロット!
(2番以降省略)
めまいするくらいの昭和臭です。
宇宙パイロットって、宇宙飛行士ですよね。アストロノーですよね。
そのイメージと対極の「おいら」「でっかい希望」「地球にゃ」という言葉のセンス。
まあ、時代と言ってしまえばおしまいですが、やっぱりまだこの頃は
「加藤隼戦闘機隊」の世代が社会の中心だったってことなのね。
彼らがヘリで目指したのは宇宙省の屋上でした。
宇宙省長官(西村晃)に中止の撤回を直談判しようっていうのです。
しかし西村、中止などにはなっていない、と断言します。
ただ国会で特別予算が下りるまで飛ばせないのだと。
「わしも辛い立場なんだ」
博士コンビはあちこちを飛び回って苦労しています。
移動のタクシーの中で河野博士がふと運転手にゴラスについて尋ねると、
「昔から星が衝突するなんて話いくらでもあったけど、
今まで一度だってぶつかった試しなんぞありませんや」
と楽天的。
河野博士は嘆息しながらこう呟くのでした。
「徒然草だったかな、『蟻の如く集い、東西に急ぎ南北に走る』。
人間はいつの時代でもただ目先のことに追われて生きていくようにできているらしいね」
まあ、衝突が確定事項だったとしても、逃げるところもないしね。
彼らが足を向けたのは園田艇長の自宅でした。
しかし園田家、主を亡くして間もないというのに喪中の沈鬱な気配は全くなく、
娘息子も、息子を亡くした艇長の父もニッコニコで彼らを迎えます。
智子さんなどウキウキしながら、田沢博士にお酒を勧め、
「ゴラスが今すぐにでもぶつかるってわけじゃないんでしょ?」
うーん、それは確かにそうですが、そういう問題じゃないかと。
田沢博士もニヤニヤしながら
「それもそうですが」
もしかして園田艇長の死って、すっかり設定から消えてないか?
そこで、園田家の息子が重大なヒントとなる発言をします。
「地球のどこかにでっかいロケット据え付けて、宇宙船みたいにして飛ばせば? 」
ゴラスを破壊できなければ地球が逃げるしかないじゃん、というわけです。
んなあほな、と映画を見ている誰もが思った瞬間、田沢博士の表情が変わりました。
地球の軌道そのものを変えてしまうこと。
この惑星衝突の回避方法が生まれた瞬間でした。
・・おいおい。
続く。
学生時代に、週末(まだ土曜は半ドンでした)にカッターを借り、バーベキュー道具一式を積んで、横須賀沖の猿島まで行ったことがあります。猿島は無人島で、夕方最後の遊覧船が出ると観光客はいなくなり、キャンプ不可?なので、今から考えると無許可?だったと思いますが、40年前のことでもあり、誰にも何も言われませんでした(笑)
バーベキューの後、お約束の夜間戦闘訓練(肝試し。猿島は砲台があった要塞なので、かなり怖かったです)の後、横須賀の街の明かりが煌々としている中、誰かが「夜の海で泳ぎたい」と言い出し、泳ぎました。当時、東京湾は今より汚れていて、身体にうっすら油が付く感じでしたが、夜光虫がいて、腕を搔いたり、足を蹴ったりすると、キラキラ光って、とてもきれいだったのを覚えています。
>隼号がその星に強い引力で引き寄せられているのです。
この当時も知られていたのではないかと思いますが、惑星等の大質量を利用して、推進剤を用いずに加速(減速)出来る航法(スイングバイ)があるので、落ち着いて計算したら、帰還出来たのかもしれません。「はやぶさ」も使っている手です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%90%E3%82%A4
スペースシャトルの実物大モックアップを見学させて頂いたことがあります。発射や帰還時に乗員が座る座席は、この映画と大して変わりませんが、無重力の宇宙空間を漂っている間には、どっちが上(あるいは下)というのがなく、壁や床を決めることが無意味なので、あらゆる場所に収納や機器が据え付けられているのに感動しました。
>「地球のどこかにでっかいロケット据え付けて、宇宙船みたいにして飛ばせば?」
隼号のようにゴラスまでたどり着ける手段があるので、後の「アルマゲドン」や「ディープインパクト」みたいに「核兵器でぶっ飛ばす」方が実現性が高かったんじゃないかと思うのですが、反核兵器から始まった東宝特撮映画では、それはダメだったのでしょうか。
志村喬の日本SF映画史に残る名台詞は次回以降のお楽しみということで…(ヒント:お正月)