女房がいきつけの東京の美容院の美容師が出演する
コンサートのチケットをもらったというので、
夫婦そろって東京の板橋まで出かけた。
なぜそのコンサートに私までもが行ったかというと、
息子が所属するグリークラブが出るからです。
「H*K*音楽芸能学院創立二十周年記念発表会」
というコンサートだった。
息子のステージでうたう姿を見たかった。
それが、間違いだった。
コンサートを進行する品のない司会者の話で知ったのだが、
H*K*というひとは、
今年亡くなった演歌歌手の初期のヒット曲を、
1曲だけ作曲したひとらしい。
その曲は、昭和32年に発売されたというから、
今の若い人はほとんど知らない作曲家だ。
私は、かすかに知っていた。
最初に、H*K*の挨拶があった。
それが、司会者に負けず教養を感じられない
品性のないものだった。
挨拶が終わって学院歌が、
ステージにいる教え子たちによってうたわれた。
なぜかそこにグリークラブがいた。
息子もいた。
女房は「いる、いる」とよろこんだ。
「昨日は浅草で漫才をやってきた」という司会者が、
次々にうたうひとを紹介し、
紹介された高齢の女性たちが、着飾って現れ、
それぞれにうたった。
伴奏はカラオケ。
何を“音楽芸能学院”で習っているのか、
発声のまずい声で、音をはずし、リズムをずらした
生徒たちの歌が続く。
女房のとなりのおばさんたちが、
あたりを気にとめない声で話している。
ひとりのひとは通路にしゃがみ込み、
何かを探しはじめた。
しばらくすると、みかんのいい匂いがした。
おばさんたちが楽しそうに、みかんを食べていた。
確か、会場に入る扉に「会場内飲食禁止」
という張り紙があったはずだ。
通路は、ひとが常に歩いていた。
煙草を吸いに会場を出ると、そこにもひとが沢山いた。
これはいったいなんなんだ。コンサートじゃないのか。
午後1時に開演だった“発表会”。
グリークラブのうたう時間はいつなのか。
すでに4時を過ぎている。
煙草を吸って会場に戻ると、
グリークラブがステージに上がっていた。
4時半だった。
清楚な歌がはじまっても、
相変わらず通路を人が歩いているし、
話声はおさまらない。
グリークラブが一所懸命、
聴いたこともないH*K*の作曲した歌をうたう。
なんでR大のグリークラブが、
こんなコンサートに出演したんだ。
グリークラブの歌が終わって、
私と女房は逃げるようにして、会場を出た。