まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

ドラマ「八日目の蝉」最終回

2010-05-05 19:54:50 | kakuta

小説は、手放した時点で自分(作家)のものではなくて、もう手にとった人のもの。
100人が読んだら100人の感想、もしくは何か思うことがあればいいな。

これは、「対岸の彼女」がドラマ化された際、角田光代さんのインタビューからの抜粋です。
今回のエントリーでは、「八日目の蝉」について、私なりの感想をまとめてみました。

            *  *  *  *  *

八日目まで生き延びた蝉は、どんな思いで周りの世界を眺めるのだろうか?
八日目の蝉に重ね合わせてみたとき、希和子はどんな思いで後半生をおくるのだろうか?

哀しみとか苦しみとかを突き抜けてしまった後に残る、「がらんどう」のような空虚感?
それとも、懸命に生き抜いた七日間の記憶が純化された、安らぎに似たような心境?

            *  *  *  *  *

腕の中で赤ん坊は、あいかわらず希和子に向って笑いかけていた。
茶化すみたいに、なぐさめるみたいに、認めるみたいに、許すみたいに。

海は陽射しを受けて、海面をちかちかと瞬かせている。
茶化すみたいに、認めるみたいに、なぐさめるみたいに、許すみたいに海面で光は踊っている。

            *  *  *  *  *

愛する人と結ばれ、子どもを授かり、幸せな家庭を築きあげたかった希和子。
あなたの母になるために、逃げて、逃げて、そして、逃げとおすことが出なかった希和子。

そんな彼女が戻ることの出来る場所は、きっと「ここ」しかなったのでしょう。
正と邪、善と悪、あらゆるものをすっぽりと包み込んでくれる海の見える「あの」場所しか。

            *  *  *  *  *

原作を損ねることなく、そこに新たな演出を加えた浅野妙子さんのすばらしい脚本。
本を読んでいる時には大して気にもとめなかった、幾つかの視点を教えられた気がしました。

特に、かけがえのない「子育て」の期間を強奪されてしまった実母、恵津子のこと。
事件後もつきまとう母親としての苦悩、再読の際にはあらためて考えてみようと思います。


ラ・フォル・ジュルネ びわ湖 「熱狂の日」音楽祭 2010

2010-05-03 13:58:20 | concert

2010年5月1日(土)・2日(日)@ 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
西日本では初めてのイベント。 今年のテーマは、「ショパンとモーツァルト」です。

            *  *  *  *  *

● びわ湖ホール声楽アンサンブル 沼尻竜典(指揮)
モーツァルト: アヴェ・ヴェルム・コルプス ニ長調 K.618
モーツァルト: オペラ「魔笛」序曲 他

音楽にも「見せる」要素があるとすれば、華やかなステージ衣装もそのひとつ。
びわ湖をイメージしたような、水色と白をあしらったドレスの美しさに目を奪われました。

シューマンの合唱曲、モーツァルトの弦楽五重奏曲、そして、モーツァルトの合唱曲。
敬虔な祈りが込められた「アヴェ・ヴェルム・コルプス」は、心が清められるような演奏。

あらためて聴くと、シューマンも美しい合唱曲を数多く残している作曲家です。
学生の頃に歌ったことがありますが、当時はドイツ語の歌詞を覚えるのに四苦八苦でした。

            *  *  *  *  *

● 小曽根真(ピアノ) / オーヴェルニュ室内管弦楽団 アリ・ヴァン・ベーク(指揮)
モーツァルト: ディヴェルティメント ニ長調 K.136
モーツァルト: ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調 K.271 「ジュノム」

どこかで聴いたことがあるような曲が流れてきたなぁと思っていたら、前の公演と同じ曲。
びわ湖では、今年が初めての開催。 まぁ、こういう偶発的な「事故」もあるかもしれない?

小曽根さん颯爽と登場! 標題の「ジュノム」は、女性ピアニストの名前なんだそうです。
彼女に対するロマンス的な感情よりは、むしろ、軽快でみすみずしい印象を与える曲でした。

オケとの協奏部分の小曽根さんは、少しテンポを変えてみたり、装飾音を少し加えるぐらい。
やがて、カデンツァになると、小曽根さんの本領発揮! 会場は大いに盛り上がりました。

            *  *  *  *  *

当日は、読売新聞から記念の号外(これも、演出のひとつ?)が出るくらいの大盛況でした。
来年以降も、ますます魅力的なイベントとして発展していきますよう、応援したいと思います。

Kc370034


長谷川等伯展

2010-05-01 16:41:06 | art

2010年4月10日(土)~5月9日(日) @ 京都国立博物館
桃山時代の巨匠、長谷川等伯(1539~1610)没後400年の特別展覧会。

            *  *  *  *  *

■ 山水図襖(ふすま)
襖絵を断り続けてきた住職の留守を狙った等伯が、一気呵成に描き上げてしまった作品。
しかも、その襖というのが無地ではなく、桐の文様があらかじめデザインされたものでした。
意図したものなのか、偶然の産物なのか? 桐の文様がしんしんと降りしきる雪のようです!

■ 松に秋草図屏風(びょうぶ)
鮮やかな金地を背景に、自由奔放に咲き乱れる秋の草花がリズミカルに描かれています。
秋草の細長く、しゅっと伸びた葉。 その優美でしなやかな曲線に目を奪われてしまいます。
余分な力み・気負いを全く感じさせないながらも、細部に至るまで緊張感が漲っています。

■ 枯木猿猴図(こぼくえんこうず)
荒々しくなぐり描きしたような枯れ枝に、繊細な毛並みにおおわれた手長猿という構図。
左に描かれた一匹の猿は楽しそうに枝から枝へと渡り歩き、躍動感に溢れています。
右の方の母と子猿の微笑ましい姿は、観る者の口もとを思わずほころばせてくれます。

■ 仏涅槃図(ぶつねはんず)
縦10m×横6mという巨大なサイズの仏画は、途中で角度を付けて展示されていました。
安らかな永遠の眠りにつくお釈迦様の周りに集う、たくさんの弟子や信者の方たち。
森の動物たちも皆、お側に控えています。 彼らの悲痛な慟哭が聞こえてくるかのようです。

■ 柳橋水車図屏風(りゅうきょうすいしゃずびょうぶ)
柳に橋、そして水車、いかにも純日本風の三点セットで構成されている屏風図なのですが、
どこかしら、現代に通じるようなアート感覚・デザイン性を感じさせる作品です。
銀座あたりのギャラリーに飾ってあったとしても、全く違和感を覚えないような気がします。

■ 松林図屏風(しょうりんずびょうぶ)
濃い墨で描かれた前景の松、荒々しいタッチの松葉。 その背後に薄墨で描かれた松林。
樹間には、たっぷりと水気を含んだ霧がたちこめています。 どこまでも続く幻想的な風景。
落葉松はさびしかりけり。 旅ゆくはさびしかりけり。 北原白秋の詩のイメージです。

            *  *  *  *  *

こんな風に書くと、じっくり作品と対峙して、ゆっくり鑑賞してきたように思うでしょ。
実際は入場まで数十分の長い行列、中に入れば、バーゲン会場のような混雑ぶりでした。

Tohhaku


ナイト・ミュージアム

2010-05-01 16:35:19 | diary

長谷川等伯の特別展(京都国立博物館)は、金曜日のみ夜8時まで開館しています。
時間に余裕があれば、本館裏手にある「東の庭」まで、ぜひ足をのばしてみて下さい。

正面玄関前の華やかさとは裏腹に、静かな静寂が闇を包んでいます。
適度の照明にベンチがいくつかあって… はっきり言って、ここはカップル向き♪

金曜日の夜は、「博物館DEデート」というのも、なかなか素敵です。
次の展覧会までには必ずお相手を見つけておこう! かたくかたく心に誓ったのでした。

Kc370032