まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

京都市交響楽団 第673回定期演奏会

2022-11-22 18:54:47 | kyokyo
2022年11月19日(土)14:30 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : リオ・クオクマン / 管弦楽 : 京都市交響楽団


            *  *  *  *  *

● R・シュトラウス : 歌劇「ばらの騎士」組曲
この曲は、広上=京響のCD「名曲ライブシリーズ3」に収録されているので、比較的、家で聴く機会の多い、馴染みのある作品です(2012年7月、第559回定期)。当時、快進撃を続ける広上=京響の勢いそのままに、ゴージャスなサウンドを楽しめますが、その反面、要所要所でケレン味を効かせた、いわゆる「広上節」が、いくぶん野暮ったく、悪く言えば押し付けがましく聞こえなくもない。

当然、その録音との比較になりますが、今回のクオクマン=京響の演奏は、すっきりとまとめられ、スマートで洗練された印象を受けます。音楽的な好みの問題になるとは思いますが、私としては、クオクマン=京響の方を良しとしたいと思います。もちろん、その後10年での京響の演奏力の向上も忘れてはいけません。

自在にテンポを動かし、オーケストラをドライブしていくクオクマンさん。その躍動感あふれ、切れ味の鋭い指揮姿は、ビジュアル的にもとてもカッコよく、惚れ惚れとした気分にさせてくれます。また、京響との相性の良さも、十分に感じ取ることができます。

● ラヴェル : バレエ音楽「ラ・ヴァルス」
タイトルの「ヴァルス」とは、フランス語で「ワルツ」のこと。ラヴェル自身が偏愛するヨハン・シュトラウス2世へのオマージュとして構想されたとのこと。しかしながら、当代きっての管弦楽法を身に付けた作曲者の手に掛かると、「予定調和」的なウインナー・ワルツも、斬新で刺激的な曲想に大変身。次にどんなフレーズや響きが登場してくるのだろうかと、わくわく感たっぷり。まるで「音楽のビックリ箱」のような作品でした。

クオクマンさんは、2018年6月の第624回定期、2020年2月の第642回定期に続いて、今回で3回目の京響定期への客演指揮となります。京響の演奏力、個々のプレーヤーの技量や個性を十分に掌握した感のある、安定した指揮・演奏を披露。京響も氏のタクトに応え、充実したパフォーマンス。前日の「フライデー・ナイト」と併せて、連続の本番演奏できるメリットも大きい。

ラヴェルは後年、自著の中で「この作品はウインナー・ワルツへの一種の賛歌として構想したが、私の頭の中で、破滅に向かう幻想的な旋回のイメージが加わってしまった」と述べています。そして、私の頭の中に浮かんだのは、あの怪優、ジャック・ニコルソンが主人公を演じた、映画「シャイニング」のエンディングを飾る、ホテルの大広間での「舞踏会」のシーンでした。

● プッチーニ : 歌劇「マノン・レスコー」から第3幕への間奏曲
タイトルの「マノン・レスコー」の物語とは、愛した男たちを次々に不幸にせずにはおかない、いわゆる「魔性の女(少女)」を主人公にした自伝的小説。この第3幕では、マノンは新大陸の開拓地、ルイジアナに娼婦として売り飛ばされます。哀愁をたたえた美しい曲想の中にも、抑えきれなかった感情がほとばしり、ドラマ性を感じさせる部分もあります。

● レスピーギ : 交響詩「ローマの松」
演奏効果が抜群で、かつ演奏機会も多いこの曲は、京響の演奏会だけでも、広上淳一、高関健、ダグラス・ボストック、ダミアン・イオリオの各指揮で聴いています。中でも印象的だったのは、響きの良いシンフォニーホールが、まるで「箱鳴り」したかのような錯覚に捉われた、広上淳一さん指揮の大阪特別公演(2019年7月)。そして、大阪市音楽団とのジョイントで、よりパワーアップした管楽器のサウンドを響かせた京響スプリング・コンサート(2014年4月)。また、噴水・松・祭りという、いわゆる「ローマ三部作」を一挙に演奏した、ダミアン・イオリオさん指揮の定期演奏会(2018年4月、第622回定期)というのも記憶に残っています。

今回のクオクマン=京響の演奏は、それらの熱演・爆演に優るとも劣らない、強烈なインパクトを残すものでした。京響の強みは、室内楽のようなコンパクトなアンサンブルから、「バンダ」を加えた大編成のフル・オーケストラまで、さまざまなフォーマットの下でも、常にクオリティーの高いパフォーマンスを披露できる対応力、柔軟性にあると、私は感じています。加えて、各セクションに配された名手たちの妙技も堪能。そして、クライマックスは極めて燃焼度の高い、爆発力のある「ローマ軍の凱旋の行進曲」で頂点に。

余談ながら、第3楽章「ジャニコロの松」で美声を披露するナイチンゲール(夜うぐいす)は、レスピーギ自身が庭で録音したものを、現代の演奏会でもディスクとして使っているとのことです。京響の誇るクラリネットの小谷口さんや、オーボエの高山さんといった首席奏者にも引けを取らない、魅惑的なソロ(独唱)を聴かせてくれたナイチンゲールにもブラヴォー!を送りたいと思います。



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