次々と新たなジャンルを切り拓いていく角田さん。 今度はご自身初のスポーツ小説に挑戦!
自らジムにも通い、試合会場にも足を運ばれる、角田さんの「ボクシング愛」を感じる力作。
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● スポーツ選手の思考回路
スポーツ選手の多くはどこかで聞いたような言葉を口にする。
彼らの多くは自分の言葉で語るよりも見知った言葉に自分の言葉を当てはめることを好む。
言葉で動いていない人の思考回路だと、ある新鮮さを持って気づいたのである。
● あと四十秒
あと四十秒。 KOはあるか。 四十秒なんて本当に一瞬だが、
このライトの当たる場所では、その一瞬にすべてを変えることができる。
優勢が覆され、劣勢が勝利を得ることができる。 人生が決まる場合だってある。
● 心を強くする
体は鍛えられる。 筋肉は作ることができる。 パンチも強くすることができる。
そういうメニュウがある。 けれど心はいったいどうすれば強くなるのか。
● 休むのも勇気(萬羽トレーナー)
でも、日曜はしっかり休んでるよ。
立花くんはさあ、こわがりだからさあ、すぐ隠れて練習しようとするんだよ。
勤勉って言ってくださいよ。
いや、勤勉とは言わないよ。 休むのも勇気なんだから。
● 勝ったやつが強い(タイガー立花)
強いやつが勝つんじゃないんです。 勝ったやつが強いんです。
● あの一瞬のために
何度も何度も、何度も何度も同じ動きをくり返していた二人の姿が思い出される。
あの一瞬。 まぐれにも見えるあの一瞬を逃さないために、どれほどの練習が必要なのか。
● おれがはじめたもの(タイガー立花)
でも、おれがはじめたのはそういうものなんじゃないですかね。
勝てばよろこんでもらえて、負ければ失望される、そういうものなんじゃないですかね。
● プロテストに挑む
こわいけど、こわいけど、こわいけどがんばる。
そうだ、こわさは攻撃になるって言っていたじゃないか。
そうだよ。 こわいのはいいことなんだ。
空也は唱えるようにつぶやく。
● KO
それにしても、あの気持ちよさ、と空也はうっとりと思い出す。
殴られて疲れ果てて、今転んだらどれほど気持ちがいいかという、
そんな気持ちともボクサーは闘っているのか。
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ボクシングを通じて、記者として人間として一歩ずつ成長していく主人公の空也(くうや)。
彼が取材で引出した選手やトレーナーの言葉には、真実の重み、深い味わいがありました。