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まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

角田光代 「空の拳」 名言集

2012-12-22 18:36:43 | kakuta

次々と新たなジャンルを切り拓いていく角田さん。 今度はご自身初のスポーツ小説に挑戦!
自らジムにも通い、試合会場にも足を運ばれる、角田さんの「ボクシング愛」を感じる力作。

            *  *  *  *  *

● スポーツ選手の思考回路
スポーツ選手の多くはどこかで聞いたような言葉を口にする。
彼らの多くは自分の言葉で語るよりも見知った言葉に自分の言葉を当てはめることを好む。
言葉で動いていない人の思考回路だと、ある新鮮さを持って気づいたのである。

● あと四十秒
あと四十秒。 KOはあるか。 四十秒なんて本当に一瞬だが、
このライトの当たる場所では、その一瞬にすべてを変えることができる。
優勢が覆され、劣勢が勝利を得ることができる。 人生が決まる場合だってある。

● 心を強くする
体は鍛えられる。 筋肉は作ることができる。 パンチも強くすることができる。
そういうメニュウがある。 けれど心はいったいどうすれば強くなるのか。

● 休むのも勇気(萬羽トレーナー)
でも、日曜はしっかり休んでるよ。
立花くんはさあ、こわがりだからさあ、すぐ隠れて練習しようとするんだよ。

勤勉って言ってくださいよ。

いや、勤勉とは言わないよ。 休むのも勇気なんだから。

● 勝ったやつが強い(タイガー立花)
強いやつが勝つんじゃないんです。 勝ったやつが強いんです。

● あの一瞬のために
何度も何度も、何度も何度も同じ動きをくり返していた二人の姿が思い出される。
あの一瞬。 まぐれにも見えるあの一瞬を逃さないために、どれほどの練習が必要なのか。

● おれがはじめたもの(タイガー立花)
でも、おれがはじめたのはそういうものなんじゃないですかね。
勝てばよろこんでもらえて、負ければ失望される、そういうものなんじゃないですかね。

● プロテストに挑む
こわいけど、こわいけど、こわいけどがんばる。
そうだ、こわさは攻撃になるって言っていたじゃないか。
そうだよ。 こわいのはいいことなんだ。
空也は唱えるようにつぶやく。

● KO
それにしても、あの気持ちよさ、と空也はうっとりと思い出す。
殴られて疲れ果てて、今転んだらどれほど気持ちがいいかという、
そんな気持ちともボクサーは闘っているのか。

            *  *  *  *  *

ボクシングを通じて、記者として人間として一歩ずつ成長していく主人公の空也(くうや)。
彼が取材で引出した選手やトレーナーの言葉には、真実の重み、深い味わいがありました。

Sorano

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角田光代 「曾根崎心中」を読んで

2012-04-14 13:15:45 | kakuta

タイトルからもわかるように、原作は歴史の教科書にも出てくる、あの近松門左衛門です。
角田さん初の時代小説。 ツイッターでお訊ねすると、「がんばりました、、、」とのご返事。

最初は、角田さんと時代小説という組合せがしっくりこなくって、敬遠していた作品でした。
しかし、読み始めてみると、「元禄」の世の物語という時代背景を忘れてしまいそうです。

主人公の遊女「お初」の心情を中心に、短めの文が歯切れよいリズムを作り出しています。
当時の遊郭をめぐる生活が生々しい温度と実感をともなって、目の前に再現されていきます。

            *  *  *  *  *

序盤に描かれる「大坂三十三ヶ所」札所巡り。 恋の成就を願って観音さまに掌を合わせる。
無心になって「~しますように」と祈る姿・思いは、平成の世も何ら変わりがありません。

中盤では、恋仲の徳兵衛が友人の九平次にまんまと騙されて、多額の借金を背負う羽目に。
それにしても、近松門左衛門。 不幸への突き落とし方が「さすが!」という他はありません。

ラストは、「心中」を決意した二人、曾根崎の森への道行き。 凄絶なまでの官能美の世界。
一瞬ながら、微かな疑念が胸の内をよぎるお初。 それをきっぱりと断ち切るまでの心の動き。

            *  *  *  *  *

予備知識のなかった私は、男性(徳兵衛)が主導権を握って、か弱い女性(初)が付き従う。
そんなイメージを想像していたのですが、二人の立場はむしろ逆のような印象を受けました。

人形浄瑠璃でも歌舞伎でも、チャンスに恵まれれば、実際の舞台を是非見てみたいなぁー。
一途に思い焦がれるようなお相手もおりませんが、「大坂三十三ヶ所」の観音さま巡りも。

さながら、舞台での名場面、名せりふを見聞きするような感覚で、一気に読み切った作品。
古典的な名作に果敢に挑まれた角田光代さんの姿勢にも、大きな拍手を送りたいです。

Sonezaki_2

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角田光代 「かなたの子」を読んで

2012-01-21 13:55:09 | kakuta

従来の角田さんの作品からすると、ちょっと異色なジャンルの短編がズラリと並んでいます。
「短編の名手」の力量を認識させる、怖くて、妖しげで、哀しい世界が待ち受けています。

            *  *  *  *  *

● おみちゆき
会話の訛りから、舞台は東北地方の一寒村だとわかる。 時代は昭和の初め頃だろうか?
この地域に伝わる「おみちゆき」という風習。 地中から突き出た筒から聞こえた獣じみた声。
ミイラ化した「即身仏」を祀る風習を題材に、アッと驚くような意表を突いたストーリー。

● 同窓会
毎年、開かれる小学校の同窓会。 それは「あのことを忘れるな」という確認のための儀式?
幼なじみの6人が共有する「あのこと」とは? 楽しい夏の一日を一変させた悲しい事故。
子どもゆえに犯してしまった取り返しのつかないこと。 巧みな心理描写が真に迫ってきます。

            *  *  *  *  *

● 闇の梯子
引っ越しの後、勇作は妻の異変に気が付き始める。 意味不明の言葉をつぶやき出す妻?
和室の押入れには闇へと続く梯子が? 暗い帰り道に見た、我が家へと消えた黒い行列?
不可解な現象が続く中、やがて惨事が…。 祈りのような知らない言葉の響く中、彷徨う勇作。

● 道理
6年間交際していた朔美と別れたいために、「世の中の道理」を持ち出して説き伏せた啓吾。
数年後、今度は朔美から「世の中の道理」で復縁を迫られる立場に。 募る不快と不安、恐怖。
偶然、飛び込んだサークルでの意味不明な儀式(?)の愉悦の中、ハッ!と思い当たる啓吾。

            *  *  *  *  *

● 前世
幼い頃、母親に連れられて行った公民館。 女の占い師の前で浮かび上がった前世の私。
やがて嫁ぎ、母親となった私。 そして、幼な子の手を引いて夜道を急ぐ私。 あの時と同じ。
そうせざるを得なかった母とそれを受け入れる子。 作者の良心に「救い」を見出す思い。

● わたしとわたしではない女
わたしのそばにはあの女がいる。 そして、ただわたしを見ている。 憎しみをたたえた目で。
死ぬ間際の母から、妹がいたことを告げられるわたし。 わたしを生かすために死んだ妹。
孫の出産に立ち会うわたし。 現実か幻影か? 混濁する意識の中、「いのち」を見つめ直す。

            *  *  *  *  *

● かなたの子
地域の了解ごとや義母の言いつけを守らず、文江はその子にこっそり名前を付けた。 如月。
生まれるより先に死んでしまった子。 その月に生まれるはずたった子。 如月、女の子。
くけどにきてくれるなら、会えるよ。と、夢の中で語りかける如月に導かれるように文江は…。

● 巡る
どうやら、私は「豆田日都子」という名前で、山頂にあるお寺を目指して歩いているらしい。
暗い山道を登って行く途中、断片的な記憶が浮かんでは消えてゆく。 手によみがえる感触。
ページをめくるたびに、「この世」のものとは思えない不思議な世界に包まれていく。 巡る。

            *  *  *  *  *

これまでの似たような傾向の作品よりは、土俗的・因習的な色彩がもっと濃く、深く、妖しく。
さすがに、角田さん! 「遠野」を旅して、ジンギスカンを食らっているだけではなかったな!

Kanatanoko

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角田光代 「今日もごちそうさまでした」を読んで

2011-09-01 10:44:36 | kakuta

食べるの大好き、お料理大好きの角田さんにふさわしい、「食」にまつわる楽しいエッセイ集。
インターネット上で連載されていたエッセイを、季節ごとをベースにまとめ直したもののよう。

季節を代表する「主役」級の旬の食材から、スポットライトの当たらない地味な「脇役」まで。
角田さん独自の切り口・表現で、なおかつ、その食材に対する熱い愛情に満ち溢れています。

            *  *  *  *  *

まず、「私の分類のなかで、鶏肉は魚類である。」という一文に、腰を抜かしてしまいます。
そして、「ごぼうと新ごぼうは違う。」という一文に、「うーん、なるほど!」と納得します。

食感を表す言葉の巧みさも魅力のひとつ。 例えば、アスパラは「ぽくぽく感」が命であり、
とろけるチーズをのせた出来たてトーストは、噛み切ると「ぬそー」と糸がのびるのです。

ごく一般的な「食」のエッセイにもかかわらず、これだけ笑わせてくれるのは何故なのかな?
行間から溢れ出んばかりの思い入れのある言葉が、ユーモアを誘い出すのかもしれません。

            *  *  *  *  *

ただ、「太っ腹」の角田さんにしては、地味過ぎる単色刷りの表紙。 ちょっとケチった?
色あざやかな食材が並ぶ表紙ならば、いっそうの食欲、購買意欲が湧いたと思うのですが…。

ある「四柱推命」の占い本によると、私は「食神」という「神様」?の割合が高いらしい。
そんな「食い意地」のはった私をも、幸せな気分いっぱいに満たしてくれるエッセイ集です。

Gochisou

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角田光代 「よなかの散歩」を読んで

2011-05-08 11:33:34 | kakuta

本の帯には、「生きていく上で役にたつようなことはいっさい書いてありません」とあります。
確かに、「役にたつ」ようには到底思えませんが、=「面白くない」とは限らないのです。

            *  *  *  *  *

角田さんの日常の中に、私と似通っている、共感できる部分が見つかると、本当にうれしい!
でも、「えっ、角田さん…?!」という猟奇的な(?)部分も、角田さんの魅力なのです。

このエッセイ集は、「食(一)・人・暮・食(二)・季・旅」という構成になっています。 
「食」にまつわるエッセイが二部立てになっているところが、いかにも角田さんらしいです。

さすがの角田さんも、最終章を「食(三)」とするには気が引けてしまったのでしょうか?
最終章は、ご趣味の「旅」のエッセイで。 といっても、つまるところは「旅ごはん」の話。

九州・天草への旅は、「遠くへ行きたい」の放送分。 たこ釣り・天然塩・隠れキリシタン…。
でも、取材の背景には、「九州の甘い醤油!」という角田さんの強い一念があったのですね。

            *  *  *  *  *

この本の表紙モデルは、角田さんの愛猫のトトちゃん。 本の中にもこっそり隠れています。
「猫より犬が好き。でも、犬よりもトトが好き!」という角田さんの気持ちが伝わってきます。

Yonaka

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