まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

京都市交響楽団 第677回定期演奏会

2023-04-18 17:49:35 | kyokyo
2023年4月15日(土) 開演 : 14:30 @京都コンサートホール
指揮 : 沖澤 のどか(第14代常任指揮者)/ 管弦楽 : 京都市交響楽団


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● プレトーク
沖澤のどかさんの常任指揮者就任披露演奏会ということもあり、その最初のスピーチだけは聴き逃すまいと、開演30分前の14時には、ホールの中でスタンバイしていました。幼いお子さんの成長の様子(梅小路公園に遊びに行かれた際に、初めて立ち歩きが出来た!)など、プライベートな話題を交えつつ、気さくでフレンドリーな雰囲気でのスピーチでした。

沖澤さんの気取らない、飾らない、自然体の姿勢が好ましく、音楽に対する誠実で真摯な態度や、常任指揮者就任への熱い思い、意欲もしっかりと伝わってきて、魅了されました。

指揮者としてのリーダーシップ、指導力、カリスマ性は重要な要素であることは言うまでもありませんが、その「愛されキャラ」的なお人柄は、京響の楽団員さんや京響ファンの人たちとの関係性を築く上で、大きな力を発揮することでしょう。そのあたりは、前任の広上淳一さんと合い通じるものを感じました。

● メンデルスゾーン : 序曲「ルイ・ブラス」作品95
「ルイ・ブラス」とは、文豪ヴィクトル・ユゴーが発表した戯曲のタイトル。悲劇的な結末を持つ戯曲については、メンデルスゾーンは好みではなかったようで、「劇場基金のための(チャリティー)序曲」と名付けたかったというエピソードが残っています。

沖澤さんのコメントでは、今回の定期のプログラムを組むときに、次に演奏する、同じくメンデルスゾーン作曲の交響曲第4番「イタリア」の、明るく快活な雰囲気とのコントラストを強調するために、あえて演奏機会の少ないこの序曲を選んだということを紹介されていました。メンデルゾーンには珍しく、緊迫したドラマチックな曲想を持つ作品。沖澤=京響、上々のオープニングとなりました。

● メンデルスゾーン : 交響曲第4番 イ長調 作品90「イタリア」
メンデルスゾーンが、友人だった文豪ゲーテ(すごい交友関係だ!)と共にイタリアを旅行中に、作曲が着手されたと言われています。自身が「国(イタリア)のすべてがお祭りのような雰囲気」と形容したように、祝祭的なうきうきとした気分があふれる作品。もちろん、単純な「描写音楽」ではありませんが、「優れた風景画家」と称された卓越した作曲能力が、遺憾なく発揮されています。

沖澤=京響の演奏は、きびきびとした推進力、テンポ感、めりはりのある表現。細部の旋律やリズムも、くっきりと浮かび上がらせる明瞭なサウンド。まだ、定期2回目の登場だとは思えないくらい、両者の相性の良さは際立っています。

メンデルスゾーンの交響曲では、第3番の「スコットランド」を、昨年10月の第672回定期で聴いた記憶も新しいところ。指揮は、斎藤友香理さん。作品のスケール、ボリューム感が、体力的な意味で、女性指揮者には適正のサイズなのでしょうか? いわゆる「大曲」の類は、来シーズンから首席客演指揮者への就任が決定している、オランダ人のデ・フリーントさんが担われるのでしょうか?

● ブラームス : 交響曲第3番 ヘ長調 作品90
私が京響の演奏で、この交響曲を聴くのは、これが3回目のことになります。ギュンター・ノイホルトさん指揮の2011年11月の第552回定期と、広上淳一さん指揮の2017年7月の第614回定期以来のことになります。第1番と第4番に比べると、演奏機会も少なく、地味な印象を受けますが、いかにも「渋め」で、玄人好みのする傑作というイメージがあります。

プレトークの場で、沖澤さんは、「今日は、ベルリンの師匠、キリル・ペトレンコから教わった『マイニンゲンの伝統』に則ったスタイルで演奏します。しっかり時間をかけて、練習してきました」と、コメントされました。『マイニンゲンの伝統』なるものがどいうものなのか、とてものこと、言葉で表現するだけの能力はありませんが、確かに、家で聴いているカラヤン晩年の録音(CD)とは、旋律の歌わせ方、アクセントの付け方などに、宮廷劇場(楽団)由来の(演歌でいう)節回し、こぶしみたいなものがあるように感じました。

前段のことを、限られた時間の中で、オーケストラに落とし込む(しかも、演奏会にかけられるレベルにまで)には、トレーナーとしての相当の技量、手腕を要求され、また、それ相応の自信と覚悟がなければ、容易に為せる業ではありません。加えて、オーケストラ・メンバーの音楽性、技量に対する信頼も、大きな要素になります。指揮者とオーケストラの関係性、演奏会の成否は、リハーサルで決まる!と言われる所以も、このあたりにあるように思いました。

最後に、京響のことについて。14年間の長期にわたる広上体制の下、高関さん、下野さん、アクセルロッドさんなど、国内外の著名な指揮者の数々の要求に応えて、着実に経験と実績を積み重ねてきた京響。オーケストラとしてのポテンシャルの高さ、とりわけ、フレキシビリティー(柔軟性、対応力)の高さを証明した演奏となりました。

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新しい常任指揮者の就任を祝う、温かな空気で包まれたホール内。久しぶりの満員の聴衆の拍手喝采。とても華やかで、晴れやかな「お披露目」演奏会となりました。これから、聴衆の一人として、沖澤=京響と共に歩んでいけることへの喜び、期待、高揚感をかみしめながら、家路につきました。


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京都市交響楽団 スプリング・コンサート

2023-04-10 19:09:08 | kyokyo
2023年4月9日(日)14:00 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : 角田 鋼亮 / 独奏 : 大萩 康司(ギター)/ 管弦楽 : 京都市交響楽団


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● ミヨー : セゴビアーナ 作品366(ギター独奏)

● タレガ : アランブラ宮殿の思い出(ギター独奏)
アランブラ宮殿は、スペイン最南部グラナダの丘に建つ宮殿。当地を訪れた際の印象をもとに作曲されたといわれています。残念ながら、私にはそんな思い出もありませんが、さんさんと降り注ぐ陽光と、カラッとした空気の乾燥具合までが伝わってくるようなギターの多彩な表現力。

曲全体で用いられているトレモロ奏法(同一音の急速な反復)は、宮殿の噴水を表現したとされていますが、光に反射して、きらきらと輝く水流までが目に浮かぶようでした。

● ロドリーゴ : アランフエスの協奏曲
アランフエスとは、マドリード南部の緑豊かな古都で、スペイン国王の離宮と美しい庭園で知られ、現在では世界文化遺産に登録されているそうです。

全体にわたって、魅惑的な旋律と躍動的なリズム、ギターの華やかな技巧が披露されますが、中でも第2楽章、アダージョの哀愁を帯びた旋律は、とりわけ印象に残ります。あのマイルス・デイヴィスが、「スケッチ・オブ・スペイン」というアルバムの冒頭に収録したのも、「さも、ありなん!」と納得する名曲。

京響は室内オーケストラのような規模の編成で、大萩康司さんのギターとのバランスも配慮され、スペイン情緒あふれるアンサンブルを聴かせてくれました。

● トゥリーナ : 幻想舞曲 作品22

● ファリャ : バレエ組曲「三角帽子」第1部&第2部
スペインをテーマにしたプログラムのラストを飾るのは、スペイン国民楽派の最高峰と称えられるファリャの代表作。3月定期でのストラヴィンスキー「春の祭典」と同様、ディアギレフ率いるロシア・バレエ団のために作曲された作品。

ここまで、十分楽しめる演奏会でしたが、さすがに似たような曲想の作品が続くと、そろそろマンネリ感を覚え始めるところ。このままの流れだと、盛り上がるところの少ない、インパクトを欠いた印象になりかねないという懸念を、見事に吹き払うかのような終幕のフィナーレ。アンコールで披露された「アルルの女」のファランドールと合わせて、圧巻、大迫力のステージになりました。

指揮者の角田鋼亮さんは、今回初めてお聴きしましたが、スタイリッシュでありながらも、エネルギッシュ。躍動感あふれる小気味よさ。京響も大曲、難曲だけではなく、こういう準メイン級の「軽め」の佳曲でも、聴衆を十分満足させうる高いクオリティーと、安定のパフォーマンスを披露。



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