まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

吉田修一さん 「怒り」を読んで

2014-04-27 15:37:58 | book

ある暑い夏の夜、東京・八王子の新興住宅地で、夫婦が殺害されるという惨劇が起きます。
殺人現場に残された「怒」という血文字。 捜査の結果、警察は「山神一也」を指名手配に。

逮捕は時間の問題だと思われていましたが、殺人犯の「山神」は1年間も行方不明のまま。
行き詰まりを見せる捜査。 警察はTVでの公開捜査に踏み切り、情報提供を呼びかけます。

            *  *  *  *  *

千葉県・房総半島の漁師町に暮らす、洋平・愛子の父娘の前に現れた「田代」と名乗る男。
ゲイの男性たちが性交する相手を物色する、新宿のサウナで知り合った優馬と「直人」。

沖縄・波留間島に住む女子高生の泉と、沖合いの無人島で暮らす「田中」との偶然の出会い。
気候風土の違う三つの場所、前歴不詳の三人の男たち。 同時進行的に展開していく物語。

            *  *  *  *  *

自分の身近にいる人が、もしかすると、殺人事件で逃走中の「凶悪犯」なのかもしれない?
何も知らない過去、打ち明けられた秘密、膨れ上がる疑念。 徐々に蝕まれていく日常生活。

相手を信じたいと思う気持ち、信じ切れる自分でありたいという願い。 それは裏を返せば…。
背景として描かれている、同性愛、終末期医療、性犯罪(沖縄基地問題)というテーマも重い。

Iikari

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「マイ本棚」ランキング 2013

2013-12-31 17:56:10 | book

今年1年の読んだ本(旧刊を含む)の中から気に入った作品、ベスト5を選んでみました。
昨年に引き続き、上位にランクされたのは綾辻行人さんの作品。 あれっ、角田さんがない?

            *  *  *  *  *

● 【第1位】 綾辻 行人さん : 「Another(アナザー)」 (角川文庫)
新刊の「アナザー エピソードS」(角川書店)をより楽しむため、まずは既刊の文庫本から。
個人的には、「学園ホラー」ものは大好きです。 アニメーション版もよく出来ていました。

● 【第2位】 万城目 学さん : 「とっぴんぱらりの風太郎」 (文藝春秋)
万城目さん待望の新作は、京・大坂を舞台とした忍者小説。 国語辞典ばりの分厚い長編。
キャッチコピー・コンテストに3作、応募しましたが、ものの見事に返り討ちに遭いました。

● 【第3位】 垣根 涼介さん : 「光秀の定理(レンマ)」 (角川書店)
「光秀フリーク」を自認する私にとっては、この作品をランクから外すわけには行きません。
司馬遼太郎さんの「国盗り物語」、真保裕一さんの「覇王の番人」と並ぶ「光秀公三部作」!

● 【第4位】 綾辻 行人さん : 「緋色の囁き」 (講談社文庫)
緋色・暗闇・黄昏と続く「囁き」シリーズ三部作。 いずれも甲乙つけ難い面白さなのですが、
こちらも、全寮制名門女子学園という閉ざされた甘やかな舞台設定に、何ともそそられます。

● 【第5位】 米田 彰男さん : 「寅さんとイエス」 (筑摩選書)
上京区にある聖トマス教会の神父さんが書かれた異色の宗教書。 えっ、寅さんとイエス!?
「男はつらいよ」シリーズの中での、寅さんの名セリフの数々も充実に採録されています。

            *  *  *  *  *

選外になりましたが、水谷千秋さん「謎の渡来人 秦氏」 (文春新書)も興味深いものでした。
暮れに出た角田光代さん新刊「私のなかの彼女」 (新潮社)は、まだ手付かずのままです。

Hondana_3

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垣根涼介さん 「光秀の定理(レンマ)」を読んで

2013-11-18 17:35:20 | book

タイトルの「光秀」とは、日本史上最大のクーデターの首謀者、織田軍団の智将・明智光秀。
「レンマ」とは、サンスクリット語で「定理」を表す言葉。 賭けの「確率論」に絡む定理。

主要な登場人物は、美濃源氏の名族・明智家の再興を生涯の責務とする十兵衛(光秀)。
関東流れ者の食い詰め「兵法者」の新九郎。 辻博打で生計を立てる「僧侶くずれ」の愚息。

            *  *  *  *  *

伏せられた四つの椀のどれかに、1つだけ石が入れられている。 それを当てさせる辻博打。
この「四つの椀」の賭けに潜む定理が、ストーリー全般に渡る重要なモチーフになっています。

この定理は、織田軍による六角氏の長光寺城攻撃の際、光秀が応用し大成功を収めます。
それ以降、光秀は信長から抜擢につぐ抜擢を受け、「近畿管領」と呼ばれるほどの栄達へ。

            *  *  *  *  *

本書では、愛宕参籠から本能寺の変。 続く、天王山の戦いの場面が描かれていません。
終章では、変から十数年を経て、残された二人の友が光秀の心情・行為に思いを馳せます。

作者の視点は、信長との修復し難い確執・遺恨よりは、互いに認め合い理解し合える部分に。
光秀の盟友とも言える細川藤孝を、煮ても焼いても食えぬ「悪党」と断じたところも面白い。

Mitsuhide

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万城目学さん 「とっぴんぱらりの風太郎」を読んで

2013-10-31 18:48:21 | book

万城目さん、2年ぶり待望の新刊は、なんと「国語辞典」ばりの分厚さを誇る時代小説長編。
伊賀柘植の落ちこぼれ忍者、現在はニート生活を送っている風太郎(ぷうたろう)が主人公。

            *  *  *  *  *

● ひょうたんから…
冗談のような意外なものが飛び出した時に使うことわざですが、出てきたのは「駒」ならぬ
もはやレジェンドとなった幻術師「果心居士」の片割れと称する「因心居士」。 何の因果か?

● ひさご様
物語半ばから登場する「謎」の人物。 高台院ねね様との関係から容易に特定できますが…。
従来のイメージよりは、大らかでユーモラス。 「さよか」(左様か)という口癖も大坂風だ。

● 著者、新境地!
戦場における殺戮、とりわけ、まだ年端もいかぬ若者たちが無残に命を落としていくシーン。
文章から滲み出る悲惨さ、無情さ、無意味さ。 これまでの作品には感じられなかった情感。

● 滅びの美学
燃え盛る大坂城とともに滅びゆく豊臣家。 凄惨を極める大坂夏の陣。 渦中の風太郎たち。
臨場感あふれる迫力満点の描写の中に、万城目さんの「大坂愛」「豊臣愛」「美学」を見る。

● 信頼と友情、覚悟
栄達とか利害関係を度外視して、己を信じてくれた人への信頼と友情に応えたいという思い。
そして、自己犠牲も厭わない覚悟が死の恐怖を超える! 彼らが命を賭けて守ったものとは。

● プリンセス・トヨトミ
さすがに、当代きっての「幻術師」、万城目学! 壮大な「仕掛け」が用意されていました。 
なんと、風太郎決死の「脱出劇」は、「プリンセス・トヨトミ」のプロローグだったのです。

            *  *  *  *  *

現在、出版元の文藝春秋社では、この作品のキャッチー・コピーのコンテストを実施中です。
万城目さんが選ぶ最優秀作品には、「サイン入り・因心居士のひょうたん」がもらえるのだ!

Pootaro

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米田 彰男さん 「寅さんとイエス」を読んで

2013-10-05 18:29:26 | book

著者の米田彰男さんは、京都市上京区にあるドミニコ会の修道院、聖トマス学院の司祭さん。
清泉女子大学でも教鞭をとられていますが、なんと「男はつらいよ」の寅さんの大ファン!

「寅さんとイエスが似ている」という独自の視点。 「真の幸福な人生とは?」を問い掛ける。
発売から1年で1万部を超えるという、「宗教書」としては異例のヒットを続けています。

学生の頃には「宗教学」という講義も受講しましたが、ほとんど記憶にすら残っていません。
本書によって、キリスト教とユダヤ教の関係とか、4つの福音書のこととか、勉強のし直し。

イエスは信仰の対象としてではなく、もっと人間くさくユーモアに満ちた面白い男だった!
米田さんの「寅さん愛」の溢れる文章のおかげで、イエスの実像に少しは近づけたかも…?

Torasan

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