まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

京都市交響楽団 第671回定期演奏会

2022-09-25 18:42:49 | kyokyo
2022年9月24日(土)14:40 開演 @京都コンサートホール
指揮 : ジョン・アクセルロッド(首席客演指揮者)/ 合唱 : 京響コーラス
独唱 : テオドラ・ゲオルギュー(ソプラノ)・山下牧子(メゾ・ソプラノ)

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● 第1楽章 アレグロ・マエストーソ
この20分を超える充実したスケールをもつ楽章には、「葬礼、死への儀式」という標題が付けられています。同時に、「完全にまじめで、しかも荘厳な表出をもって」という、作曲者自身の指示が見られます。また、この楽章のあとには、「少なくとも5分間の休止を置くように」という指示もあり、今回の演奏会では、この休止の時間は、京響コーラスのポディウム席への入場に充てられています。

● 第2楽章 アンダンテ・モデラート
この楽章にも、「きわめて気楽に、けっして急がないで」という指示が見られます。前楽章とは対照的に、田園舞曲風の穏やかな旋律から始まりますが、ここで先述の「5分間の休止」が、いい効果を発揮しているように思います。後半部、ピチカートによる弦楽合奏に、管楽器とハープが呼応するところは、天国的な美しさを感じさせます。

● 第3楽章 静かに流れるような動きで
この楽章から最後までは休みを置かずに続けて演奏されます。聴いている方も、いよいよ「これから正念場」といった思いで、仕切り直しの気分。二人の独奏者も舞台袖から客席の前通路を使って、それぞれタイミングをはかって入場。ユダヤ・メロディーと言われる独特の哀愁と諧謔味を備えた旋律が、いかにもマーラーといった感じで、泉のように溢れ出てくるスケルツォ。

● 第4楽章 原光(原初の光)
二人の独唱者には、それぞれ人間(メゾ・ソプラノ)と、天使(ソプラノ)という役割が付与されています。ここで、「人間」役の山下牧子さんの独唱。プロフィールに「堅実なテクニックに裏打ちされた端正な歌唱」と紹介されていましたが、まさにピッタリな表現。変に作為的でない、ごく自然な人間の声域の範囲内で、跳躍音の少ないシンプルで平板な旋律が、しみじみと心に染み渡ってくるようです。

● 第5楽章 スケルツォのテンポで、荒々しく始めて
舞台裏に配置されたバンダ、パイプオルガンと、ステージ上の大編成のオーケストラが呼応し合う圧倒的なフィナーレ。まるで、天上界と人間界という時空をつなぐ壮大崇高なスペクタクルが、眼前で繰り広げられているような感さえします。指揮者、オーケストラ、独奏者、合唱団が渾然一体となって、突き抜けた先に広がる宗教的エクスタシーの境地。

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指揮者のアクセルロッドさんは、あのバーンスタインさんに師事されていたとのことで、もっとユダヤ色の強いマーラーの世界を勝手にイメージしていたのですが、予想は外れて、案外あっさり系の(粘着性の薄い)快活で明晰な音楽。そのタクトに応えた京響の演奏力もお見事。ステージを埋め尽くした大編成のオーケストラにもかかわらず、運動性・機能性に緩慢さは見られず、フルの強奏になっても響きが混濁することのないクリアなサウンド。

これまで、年末恒例の「第9」はもちろんのこと、合唱付きのマーラーの交響曲、レクイエムなどの宗教音楽の演奏でも、実力は折り紙付きの京響コーラスの皆さん。今回もコロナ感染防止のための措置として、マスク装着のステージとなりましたが、そのハンデをものともしない立派なパフォーマンスでした。




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第26回 京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート

2022-09-19 19:21:12 | kyokyo
2022年9月17日(土)14:00 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : 原田 慶太楼 / 独奏 : 亀井 聖矢(ピアノ)/ 管弦楽 : 京都市交響楽団


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● ラフマニノフ : ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 作品30
ラフマニノフの協奏曲といえば、まず、真っ先に挙げられるのが第2番の協奏曲。京響の演奏会でも、あの辻井伸行さんを始め、ニコライ・ルガンスキーさん、横山幸雄さん、小山実稚恵さん、小曽根真さんなど、名だたるピアニストによる名演、熱演が記憶に残るところです。ところが、この第3番の協奏曲は演奏機会も稀で、私が京響の演奏会で聴くのは、これが初めてのことになります。そのスケールの大きさと半端でないエネルギーの放出量、技術的な困難さ等々、多少敬遠されてきた傾向も無きにしも非ずか?

さて、今回のピアノ独奏を担当するのが、弱冠二十歳の若武者、亀井聖矢(かめい・まさや)さん。しかも、本番数日前に、体調不良のため、やむなく降板することになった高木竜馬さんの「代役」としての登場です。恐れを知らない若さゆえか、はたまた、巡ってきたチャンスをものにしてやるぞ!という強い意志の表れか、この緊急発進のようなスクランブルなオファーを受諾した心意気、覚悟のほどに、まずはあっぱれ!

指揮の原田慶太楼さんも、最初は上手くスタートが切れるようにと、要所要所、アイ・コンタクトで確認を取りながら、気遣いを感じられる指揮でしたが、亀井聖矢さんのほとばしるようなエネルギーとパワー、テクニックの嵐に、次第に主導権を託すような、亀井さんを信頼した感のあるサポートぶりに変化。

音楽に限らず、舞台芸術やスポーツの世界でも、「代役」で抜擢された人が大成功を収め、一気にスターダムを駆け上がっていくというシーンがままありますが、今回のステージも、そういう「伝説」になり得るような、私たちはその貴重な「立会い人」になったかのような、とても大きなインパクトを残した亀井聖矢さんのラフマニノフとなりました。

● チャイコフスキー : 交響曲第4番 ヘ短調 作品36
この交響曲も、後に続く第5番、第6番「悲愴」と比べると、演奏機会は多いとは言えない作品。京響の演奏会でも、12年9月の垣内悠希さん指揮(前述の辻井伸行さんのラフマニノフの第2番と同じ演奏会)、18年9月の大阪特別演奏会の広上淳一さん指揮のときと、わずか2回しかありません。

今回の原田慶太楼さんと言えば、京響の演奏会で初めて聴いたのが21年7月のことで、そのときのメインは、ドヴォルザークの交響曲「新世界より」。翌22年の2月に京響定期を客演されることが既に発表されており、いやがうえにも期待に胸が高まったものです。ところが、例の新型コロナウイルス禍のために、原田さんの来日が不可となり、急遽、指揮者はガエタノ・デスピノーサさんに変更。こちらも「代役」の登場。しかも、メインのプログラムがチャイコフスキーの交響曲第5番だったという因縁付き。

まさに「リベンジマッチ」と呼ぶに相応しい、今回の演奏会。そういう様々な思いも影響してかどうか、とにかく熱量の高い充実した演奏になりました。後に続く後期交響曲の音楽的な洗練の高さに比べると、まだまだロシア風の野暮ったさ、荒々しさの残る作品ですが、数々の実験的な試み、アイデアが随所に現れる、この作品の魅力を余すところなく披露。躍動感にあふれエネルギッシュな指揮姿は、とてもカッコよかった。

余談ながら、私が指揮する後ろ姿を見て魅了されるのは、この原田慶太楼さんと下野竜也さんのお二人。下野さんは指示が的確で、オーケストラの機能性、運動性を存分に発揮、意識させてくれる(学究的な?)指揮。一方の原田さんの指揮は、よりスポーティーでエンターテインメントの要素が満載。聴衆を興奮させる魅せる指揮といった感じ。いずれ、前回「幻」に終わった京響定期の客演指揮に招かれる日も近いと思います。その日の到来を楽しみに待つことにいたしましょう。



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京都市交響楽団 光響楽 2022 ~伝統とその先へ~

2022-09-12 19:04:47 | kyokyo
2022年9月10日(土)14:00 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : 出口 大地 / 管弦楽 :京都市交響楽団
独奏 : 国府 弘子(ピアノ)、jill(ヴァイオリン)、マーティ・フリードマン(エレクトリック・ギター)


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● コープランド : エル・サロン・メヒコ
オープニングはオーケストラのみの演奏で、アメリカを代表する作曲家、コープランドの「エル・サロン・メヒコ」が採り上げられました。作曲者自身の言によると、「メキシコシティで人気のダンスホール」というタイトルだそうです。

コープランドと言えば、2016年1月の第597回定期演奏会で、バレエ組曲「アパラチアの春」が広上淳一さんの指揮で演奏されています。アメリカ開拓時代の農民たちの質朴な生活ぶり、敬虔な祈りなどが親しみやすい旋律を通して表現されていました。

今回は、よりラテンのフレーバーの効いた、色彩感・躍動感に満ちた選曲。指揮者の出口大地さんは「憧れの京響を指揮することができました!」と喜びを語っておられましたが、その分、ちょっと硬さがあったのだろうか? もっと大胆に弾けてもよかったのでは…。若干の物足りなさも。

● ガーシュウィン : サマータイム / チック・コリア: スペイン
京響とジャズ・ピアニストとの協演は、私が聴いた限りでは、山下洋輔さん(2009年4月、大阪特別公演)、小曽根真さん(2021年4月、スプリングコンサート)に次いで(いずれも、指揮は広上淳一さん)、今回の国府弘子さんで3回目のこととなります。山下洋輔さんはガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」、小曽根真さんはラフマニノフのピアノ協奏曲第2番で、とても熱狂的で盛り上がったステージになりました。

今回の国府弘子さんの選曲は、よりジャズの方に軸足を置いたもので、もはや、ジャズ・スタンダードの感もあるガーシュウィンの「サマータイム」から、ジャズの巨人にも列せられる偉大なピアニスト、チック・コリアの代表作「スペイン」へと続くメドレー。

黒人霊歌の底流にある祈り(信仰)への篤い思い。しみじみと情感たっぷり歌われるサマータイム。国府弘子さんの哀感あふれるピアノに魅了されました。切れ目なく、チック・コリアの「スペイン」へ。ここでは、国府弘子さんの編曲に見事に応えた、トロンボーンの岡本哲さん、トランペットのハラルド・ナエスさんの、存在感たっぷりのソロ。通常のジャズのコンサートなら、当然、拍手とか指笛とか掛け声が上がるところですが、ちょっとタイミングを逸してしまったのが残念。とにもかくにも、ストリングス付きのゴージャスなビッグバンド・ジャズを堪能いたしました。

● ワックスマン : カルメン幻想曲 / ジョン・ウィリアムズ :「シンドラーのリスト」から
ゴシック風のクラシカルな装いで登場のJill(ジル)さん。さながら、綾辻行人さんの人気小説「Another」の中に登場する、霧香(きりか)さんの工房のお人形さんのような可憐さを感じます。メタルバンドのヴァイオリニストとしての活動が中心だそうですが、なかなか、そのイメージと結び付けることができません。

プロフィールを見ると、幼少の頃からヴァイオリンを始め、東京藝術大学を卒業。国際コンクールでの受賞歴も数多く、相当の実力の持ち主のようです。ただ、クラシック(専門)のヴァイオリン奏者の演奏に慣れ親しんだ「耳」からすれば、音量的にも音質的にもやや線が細く、ハイフェッツのために書かれた「カルメン幻想曲」は、テクニックの先鋭さは感じられたものの、もうひとつパワーが足りなかったような気がしました。

どちらかと言うと、ジョン・ウィリアムズの「シンドラーのリスト」からメインテーマのような、切々とした美しいメロディーを歌い上げる方が、Jill(ジル)さんのヴァイオリンに合っているような気がしました。オーケストラとの協演は今回が初めてだそうで、今後の音楽活動の展開に向けて、可能性を広げる貴重な体験になればいいなと思いました。

● ドヴォルザーク : 弦楽四重奏曲「アメリカ」Remix (編曲:吉松 隆)
元々は、このドヴォルザークの名曲を現代日本の作曲家、吉松隆さんが独奏ピアノとオーケストラのためにRemix(再構成)したもので、さらに今回は、そのピアノパートをマーティ・フリードマンさんのエレクトリック・ギターが担当するという趣向になっています。

結論から言うと、これまで、まるで「異種格闘技」のような、クラシックとロックとがコラボする機会がほとんどなかっただけで、世界的なミュージシャンともなれば、その音楽性やテクニックはフル・オーケストラと対峙しても、一歩も引けを取らないということを証明したステージになりました。

原曲の旋律的な魅力に負うところも大きいですが、とりわけ第2楽章の「泣き」のギター・ソロが印象的。また、第4楽章の爽快なドライブ感、マーティ・フリードマンさんのギターに触発されるように、一気に頂点へと登り詰めていくオーケストラ。その渾然一体となった圧倒的な迫力は、特筆すべきものでした。惜しむらくは、観客(聴衆)動員の低調さ。素晴らしい企画が、本当にもったいなかった。


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