まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

荻原浩 「砂の王国」を読んで

2011-02-21 09:29:45 | book

この作品の主人公は、大手証券会社のエリート社員からホームレスに落ちぶれてしまいます。
所持金三円という極貧の路上生活から、ビジネスとしての「宗教」を興していき、やがて…。

            *  *  *  *  *

前半は、ホームレスの人たちの日常生活がリアリティーのある描写で綴られています。
彼らなりの(必然的な)生活リズムとか、コミュニティーの中にある暗黙のルールとか。

安息の場を求めて辿りついた公園で出会ったのが、如何にも胡散臭そうな辻占い師の龍斎。
そして、超イケメンであり、カリスマ的素養に恵まれた、謎の青年ホームレスのナカムラ君。

この三人のタッグが、ナカムラ君を「教祖」とする新興宗教「大地の会」を立ち上げます。
巧妙に仕立て上げられた虚像が膨張し続ける中、極貧生活から奇跡的な生還を果たす三人。

            *  *  *  *  *

しかし、当初の設計図や思惑をはるかに超えて、暴走化し始める狂信的な教団・信者たち。
三人の間に生じる不協和音が修復しがたい亀裂を生み、制御不能となった集団の向う先は…。

砂の上に建てた天を突き抜けるように聳える塔が、足もとから崩れ落ちていく時の恐怖感。
木島礼次と名乗る主人公・山崎遼一の、精神病理的に侵されていく過程がとても痛々しい。

あの「オウム真理教」とイメージが重なり合い、リアリティーのある恐怖感が迫ってきます。
現代情報化社会が生み出した新たな「宗教」、インターネットについても考えが及びます。

            *  *  *  *  *

加速度的な展開で迎えるスリリングな結末は、この後の「続編」を匂わせています。
主人公・山崎遼一の本当の物語(リベンジ)は、ここからスタートするのかもしれません。

Sunanooukoku

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京都市交響楽団 第543回定期演奏会

2011-02-15 08:07:15 | kyokyo

2011年2月13日(日) 午後2時30分 開演 @ 京都コンサートホール
指揮: 井上 道義 / 管弦楽: 京都市交響楽団

            *  *  *  *  *

● モーツァルト: 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲 K.527
このオペラの主人公は、「こういう男には引っかかるなよ!」というタイプの遊び人です。
女遊びの放蕩三昧のあげく、最終的には天罰が下り、破滅型人生の幕を閉じるのです。

通常、舞台の端から端までズラリと並ぶ弦楽器のパートは、従来の半分くらいの編成です。
楽器の配置もいつもとは違うようで、楽曲によって工夫されているのは興味深いところです。

道義さん指揮ぶりはしなやかで、とってもエレガント! バレエの1シーンを見るようです。
指揮者もオーケストラの中のひとつの要素、音を出さない楽器ということがよくわかります。

            *  *  *  *  *

● モーツァルト: セレナード第10番 変ロ長調「グラン・パルティータ」 K.361
道義さんいわく、「全曲通して演奏すると、飽きがきてしまう?」曲なんだそうです。
ということで、本日は交響曲風に4つの楽章を抜粋したもの。 ちょうどいい長さの演奏。

いつもは弦楽器の後ろに位置する、管楽器パートの人たちがステージの中央に登場です。
見慣れない光景に私も少々緊張気味? こころなしか、スタートはやや堅い印象を受けます。

オーボエとクラリネットが掛け合う第3楽章「アダージョ」は、うっとりするような美しさ!
近年、充実一途の京響・管楽器セクションの力量を、十分アピールするに足る演奏でした。

            *  *  *  *  *

● モーツァルト: 交響曲第41番 ハ長調「ジュピター」 K.551
モーツァルト最後の交響曲となった第41番。 古典的な様式美の極致ともいうべき傑作。
そんな名曲に、奇をてらうことなく真正面から真摯に取り組んだ、好感の持てる演奏でした。

道義さん指揮の「ジュピター」は、CDでも演奏会でも(OEK)聴いたことがありますが、
そのたびに「あっ!」と思うような新鮮な旋律・響きに遭遇するところに、喜びを感じます。

印象に残ったのは、ややゆったりテンポの第2楽章。 管楽器が伸びやかに歌い上げます。
休養(?)十分の弦楽器パートも、全曲通じて、バランスのとれたアンサンブルでした。

            *  *  *  *  *

アンコールの代りに、道義さんの「京都市文化功労賞」受賞の記念スピーチがありました。
いろいろなエピソードを交えての楽しいスピーチ、どうもありがとうございました。

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