まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

京都市交響楽団 第609回定期演奏会

2017-02-19 10:46:34 | kyokyo
2017年2月17日(金)19:00 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮&チェロ独奏 : 鈴木 秀美 / 管弦楽 : 京都市交響楽団

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● C.P.E.バッハ : チェロ協奏曲イ長調 Wq.172
バッハ家の家系図で言えば、カール・フィリップ・エマニエルは、あの大バッハ、ヨハン・セバスチャンの次男。
バロックから古典派への移行期での実績、影響力の割には、一般的にはあまり知られていない作曲家のお一人。

指揮とチェロ独奏を兼ねる鈴木秀美さんは、オーケストラをバックにステージの中央、客席を向いての弾き振り。
自らのサロンで、お抱え楽師たちの演奏を楽しむ王侯貴族になったような、ずいぶん贅沢な気分を味わえました。

プレトークで紹介されていた、18世紀の音楽では類例を見ないほど「沈痛な」表情を見せる第2楽章が印象的。
ガット弦によるチェロ独奏も滋味豊か。 そして、チェンバロによる通奏低音も、如何にもバロックといった感じでした。

● ハイドン : 交響曲第82番ハ長調「熊」Hob.Ⅰ:82
第4楽章の主題と共に奏される低弦の音が、熊の唸り声に聞こえるとのことで、この愛称が付けられたそうです。
その他にも、ちょっと恐ろしくもあり、またユーモラスでもある熊の動作をイメージさせるような箇所が幾つかあります。

当時のハイドンは、パリの聴衆を魅了した超売れっ子の人気作曲家。 演奏機会は、モーツァルトの何と十数倍!
洗練された様式美の中に、さりげなく散りばめられたウイットやユーモアに、思わず「にっこり」といった感じでしょう。

100番台の交響曲での円熟した作曲技法もさることながら、この「パリ交響曲」時代の華麗さ、快活さも魅力。
業界では、「ハイドンではお客を呼べない」とのことですが、そういった固定観念を覆すのに十分な演奏でした。

● ベートーヴェン : 交響曲第5番ハ短調 op.67
言葉は悪いですが、これほどの「通俗的名曲」になると、聴衆のそれぞれが「マイベスト」の演奏をお持ちのはず。
そうした中で、いかに新鮮味を出して、聴衆を飽きさせることなく感動レベルまで導くのは、かなり高いハードル。

鈴木秀美さん指揮の演奏は古楽の演奏スタイルに則ったもので、京響もコンパクトによくまとめられていました。
ドラマ性を強調するような重々しい足取りではなく、フットワークも軽快に、運動性・機能美を感じさせるものでした。

躍動感があり、しっかりと自己主張する低弦部。 乾いた響きで、小気味よくリズムを刻むティンパニーも印象的。
新たにフルート首席に就任された上野博昭さんを迎えて、管楽器パートもしっかりと「芯」が入った感じでした。

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音楽史的にも、C.P.E.バッハ~ハイドン~ベートーヴェン(年齢差50歳超)と、時代順に並ぶプログラム。
演奏スタイルや、それぞれの作風の変遷がとても興味深く、学究的な要素も盛り込んだ充実した演奏会でした。