主人公の「肉子ちゃん」は当然ながら愛称で、実際は「菊子」という古風な名前の女性。
彼女は38歳のシングルマザーで、流れ着いた北陸地方の港町の焼き肉屋で働いています。
物語は、小学5年生の「キクりん」という、肉子ちゃんの愛娘の語りで進められていきます。
名前の「喜久子」からとって、愛称は「キクりん」。 えっ、お母さんと同じ名前なの!?
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肉子ちゃんは文字どおり「肉団子」のような容姿で、教養なし、センスなし、男運全くなし。
それでも、桁外れの強烈キャラで、港町の人たちにすっぽり溶け込み、愛されています。
一方、娘のキクりんは肉子ちゃんとは似ても似つかない(?)、知的でスラリとした美少女。
肉子ちゃんの言動をクールに分析しつつも、お母さんのことをとても大切に思っています。
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前作の「円卓」でもそうでしたが、小学生の女の子を主人公とした物語は、西さんの真骨頂!
思春期にさしかかった頃の複雑微妙な人間関係・心理が、実に巧みに描かれています。
ぎこちないアプローチながらも、何やかやとモーションをかけてくる、同級生の男の子たち。
そのグループの中の、「変な顔?」をする二宮との交流。 どことなく惹かれていくキクりん。
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お腹が猛烈に痛む(盲腸)のに、「お母さん、痛いよう!」と素直に甘えられないキクりん。
いろいろと周りの人に気を使い過ぎるのだ! まだ小学5年生なのに…。 胸の痛む思いです。
そう言えば、キクりんから「お父さんって、どんな人だった?」という素朴な質問がないよね。
肉子ちゃんの男遍歴は、けっこう語られているのに…。 なぜかしら、お父さんのことは…?
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突然、「彼女」と呼ばれる人物の話が挿入されると、物語は加速度的にクライマックスへ!
肉子ちゃんのパワフルな言動で気にも留めなかった、小さな「?」が劇的に氷解していきます。
物語の前半は、つい声をあげて笑ってしまうので、バスや電車の中で読むのは控えましょう。
一方、後半、涙腺の弱い人はハンカチとかティッシュを忘れないようにしましょう。 うるうる。