まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

西加奈子 「漁港の肉子ちゃん」を読んで

2011-10-31 16:59:13 | book

主人公の「肉子ちゃん」は当然ながら愛称で、実際は「菊子」という古風な名前の女性。
彼女は38歳のシングルマザーで、流れ着いた北陸地方の港町の焼き肉屋で働いています。

物語は、小学5年生の「キクりん」という、肉子ちゃんの愛娘の語りで進められていきます。
名前の「喜久子」からとって、愛称は「キクりん」。 えっ、お母さんと同じ名前なの!?

            *  *  *  *  *

肉子ちゃんは文字どおり「肉団子」のような容姿で、教養なし、センスなし、男運全くなし。
それでも、桁外れの強烈キャラで、港町の人たちにすっぽり溶け込み、愛されています。

一方、娘のキクりんは肉子ちゃんとは似ても似つかない(?)、知的でスラリとした美少女。
肉子ちゃんの言動をクールに分析しつつも、お母さんのことをとても大切に思っています。

            *  *  *  *  *

前作の「円卓」でもそうでしたが、小学生の女の子を主人公とした物語は、西さんの真骨頂!
思春期にさしかかった頃の複雑微妙な人間関係・心理が、実に巧みに描かれています。

ぎこちないアプローチながらも、何やかやとモーションをかけてくる、同級生の男の子たち。
そのグループの中の、「変な顔?」をする二宮との交流。 どことなく惹かれていくキクりん。

            *  *  *  *  *

お腹が猛烈に痛む(盲腸)のに、「お母さん、痛いよう!」と素直に甘えられないキクりん。
いろいろと周りの人に気を使い過ぎるのだ! まだ小学5年生なのに…。 胸の痛む思いです。

そう言えば、キクりんから「お父さんって、どんな人だった?」という素朴な質問がないよね。
肉子ちゃんの男遍歴は、けっこう語られているのに…。 なぜかしら、お父さんのことは…?

            *  *  *  *  *

突然、「彼女」と呼ばれる人物の話が挿入されると、物語は加速度的にクライマックスへ!
肉子ちゃんのパワフルな言動で気にも留めなかった、小さな「?」が劇的に氷解していきます。

物語の前半は、つい声をあげて笑ってしまうので、バスや電車の中で読むのは控えましょう。
一方、後半、涙腺の弱い人はハンカチとかティッシュを忘れないようにしましょう。 うるうる。

Nikuko_chan

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ルドンとその周辺 -夢見る世紀末展-

2011-10-19 08:42:10 | art

2011年10月15日(土)~11月13日(日) @ 美術館「えき」KYOTO
オディロン・ルドン(1840~1916)をメインに、世紀末象徴主義の画家達の作品展。

            *  *  *  *  *

私が、ルドンという画家の名を知ったのは、中野京子さんの著作「怖い絵」がきっかけです。
単眼で醜悪なギリシャ神話の巨人「キュクロプス」を描いた作品が採りあげられていました。

展覧会にも、空中に浮かぶ眼球、単眼の人物?など、不気味な作品が展示されていました。
ルドンの描く黒一色の「木炭画」の世界は、異様な「磁力」で見る者を引きつけてきます。

こうしたルドンの画風には、幼少期の孤独で不幸な体験が多大な影響を与えているそうです。
自伝によると、両親の愛情を得られぬまま、生後わずか二日目(!)で里子に出されたとか?

それでも60歳近くになって、世間的にも正当な評価が与えられると、色彩が出始めます。
パステルや油彩に移行する中で、豊かでやわらかな色彩にあふれた「花」の絵が登場します。

展覧会では、前半生と後半生で大きく変貌するルドンの画風を、順を追って鑑賞できます。
また、モロー、ムンク、ゴーギャンなど、同時代活躍の画家たちの作品も展示されています。

            *  *  *  *  *

ちなみに、この「目玉」は、鬼太郎の父さん、あの「目玉おやじ」のヒントになったとも?
そう言えば、水木しげるさんの描く「怪奇と幻想」の世界とも、合い通じるものを感じます。

Redon

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ポストカード / オディロン・ルドン

2011-10-19 08:38:25 | art

左 : 「蜘蛛」/ 制作 1887年 / 岐阜県美術館・蔵
右 : 「光の横顔」/ 制作 1886年 / 岐阜県美術館・蔵

Redon_postcard_2

コメント (2)
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聖響×OEK ザ・ロマンティック! 第3回

2011-10-16 10:05:28 | concert

2011年10月15日(土)午後3時開演 @ ザ・シンフォニーホール
指揮: 金 聖響 / 管弦楽: オーケストラ・アンサンブル金沢 / ピアノ: 山本 貴志

            *  *  *  *  *

● シューマン : 「マンフレッド」序曲 作品.115
いわゆる「ドイツの3大B」の陰に隠れていますが、シューマンはとても魅力的な作曲家です。
この序曲は、「マンフレッド伯」を主人公にしたバイロンの「劇詩」に音楽を付けたものです。

一応は、「魂の救済」がテーマとなっているようですが、陰鬱で重苦しい曲調が支配的です。
ただし、オーケストラの方はすっきりと整然とした響きで、メリハリの効いた演奏でした。

            *  *  *  *  *

● シューマン : ピアノ協奏曲 イ短調 作品.54
CDでは、グリーグのピアノ協奏曲とカップリングされることの多い、シューマンの協奏曲。
だんだん聴き込んでいくと、味わいがじわーっと染み込んでくるような、滋味豊かな作品です。

ピアノの山本貴志さんは小柄な体躯でしたが、全身をフルに使ったスケールの大きな演奏。
一音一音に思いが込められたタッチ。 繊細にしてあのダイナミズム。 感動的な熱演でした。

私の座席からは右斜めに、指揮をする聖響さん、ピアノに向う山本貴志さんが見通せました。
オーケストラとピアノとのタイミングの合わせ方など、協奏曲の「妙味」が感じられました。

            *  *  *  *  *

● シューマン : 交響曲 第1番「春」 変ロ長調 作品.38
シューマンは4つの交響曲を作曲していますが、いずれも個性的で、高い完成度を感じます。
この交響曲はタイトルの通り、「春」の到来を喜ぶ気持ち、わくわく感に満ち溢れています。

優雅で、スタイリッシュな聖響さんの指揮に対して、機能的に整然と対応するアンサンブル。
室内オーケストラという編成の中で、申し分のない完成度と燃焼度を示したものでした。

「ベートーヴェン・チクルス」では、「ピリオド奏法」にこだわった演奏スタイルでしたが、
さすがに「ロマン派」の音楽とあって、ふくよかで豊かな響きがホールを包んでいました。

            *  *  *  *  *

音楽を聴きに来ているのか、昼寝に来ているのか? 終始、寝息を立てている人がいました。
山本貴志さんのアンコール曲「トロイメライ」では集中力を削がれてしまって、迷惑至極!

Shuman

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柳ジョージ / For Your Love

2011-10-14 20:09:18 | diary

さすがに、「ザ・ベスト・コレクション」というだけあって、名曲揃いのアルバム。
類まれなるブルース・フィーリング、歌心溢れるヴォーカル。

わざとらしいフェイクなど労することなく、ストレートで明瞭な発音。
まるで、曲の中のドラマ(シーン)が、目の前に浮かんでくるようです。

            *  *  *  *  *

       夜が今 消えてゆく 都会のこの片隅で
       照らす朝陽の前に もう一度 眼を閉じて

       昨晩 悲しい夢に うなされた天使達には
       明るい光、それだけでいい たとえ幻でも

       Baby 泣かないで 俺の腕のなかで
       Baby 泣かないで 笑顔をみせてくれ

            *  *  *  *  *

そんな貴方は、まさに世界に通用する「ホンモノ」のヴォーカリストでした。
今、あらためて聴きなおしてみると、貴方の確かな力量、存在感の大きさを感じます。

静かにフェード・アウトしてゆくクロージング・テーマ、For Your Love 。
心からご冥福をお祈りいたします。 どうぞ安らかにお眠りください、ジョージさん。

George_yanagi_2

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