まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

京都市交響楽団 第684回定期演奏会

2023-11-26 18:55:04 | kyokyo
2023年11月25日(土)14:30 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : シルヴァン・カンブルラン / 管弦楽 : 京都市交響楽団


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● モーツァルト : 交響曲第31番 ニ長調 K.297「パリ」
今回、客演指揮されるカンブルランさんは、京響には2回目のご登場。初回は、2019年11月の京響第640回定期。ストラヴィンスキーの「春の祭典」をメインに、前半は、武満徹とハイドンの交響曲という、意表を突いた独創的なプログラム。その幅広いレパートリーは、氏の柔軟な音楽性と豊かな見識を示すものでした。

今回のモーツァルト中期(と言っても、まだ20歳を少し超えたばかりの若さ!)の交響曲「パリ」は、数年のブランクがあった後の待望久しい新作交響曲。初めてクラリネットを編成に加えるなど、新たな試みが施され、パリの聴衆にも大いにウケたらしい(父、レオポルドに充てた詳細な書簡があるとのこと)。

個人的には、実演はもとより初めて聴く作品でしたが、初めてとは思えないくらいの親しみやすさと愛らしさがあふれる、チャーミングな曲想。京響のアンサンブルも、明るく華やかな「パリ」の空気に満たされながらも、滋味豊かな情緒のあるニュアンスも感じさせる好演。

● ブルックナー : 交響曲第4番 変ホ長調「ロマンチック」(1888年編 コーストヴェット版)
ブルックナーのこの作品は、2019年10月の京響第639回定期で、オーストリアのラルフ・ワイケルトさんの指揮で演奏されています(その時は、ノヴァーク版・第2稿)。そして今回は、1888年版を校訂し、2004年に出版されたコーストヴェット版。その差異を論じるだけの知見はありませんが、プレトークの場でカンブルランさんは、メトロノームによる(作曲者に)忠実な速度設定に基づくヴァージョンであることを語っておられました。

私が、ブルックナーの交響曲を聴くときは、2017年1月の京響第608回定期で、下野竜也さんが「第0番」を指揮された際のプレトークで教えてくださった、「知らない、深い森の中を歩いて行くイメージで」という言葉を思い出すようにしています。そして、その森の中で遭遇する美しい花々、可愛い小鳥や動物たち、視界が開けたところで突然、目に飛び込んでくる神秘的な美しい湖水などに、心を躍らせるのです。

カンブルラン=京響の演奏は、先週、この京都コンサートホールで聴いた沼尻竜典さん指揮によるワーグナーの音楽と同じように、聴く者を熱狂させ、陶酔させる「魔力」のようなものがありました。中でも、ホルン、フルート、ティンパニーの各首席奏者による掛け合いは素晴らしく、終演後は其々大きな拍手喝采を受けておられました。

先述のように、作曲家自身や弟子、研究家によって、さかんに改訂が続けられてきたブルックナーの交響曲。もちろん、より良きものを追求したいという、芸術家としての純粋な動機によるものなのでしょうが、自らの「分身」とも言える作品に何度も手を加える(または、後世の者にそれを許してしまう)ブルックナー自身の「人となり」というものを感じてしまいます。

弟子や評論家、パトロンや聴衆の評判を必要以上に気にしてしまう臆病で小心な性格、人の意見や忠告を素直に受け入れてしまう人の良さ、気の弱さ、或いは優柔不断さを、私はどうしても感じてしまいます。もちろん、ブルックナーの伝記などを実際に読んだわけでもないので、あくまでも私個人の推測に過ぎませんが…。



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「ニーベルングの指環」より(ハイライト・沼尻編)

2023-11-20 19:07:59 | kyokyo
2023年11月18日(土)14:30 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : 沼尻 竜典 / 管弦楽 : 京都市交響楽団
独唱 : ステファニー・ミュター(ソプラノ)、青山 貴(バリトン)


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● ワーグナー : 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より「第1幕への前奏曲」
元々、作曲者自身によって独立した管弦楽作品として演奏されていたこの曲は、京響の演奏会でも度々採り上げられてきました。広上淳一さんの指揮で、円山公園の野外音楽堂でも演奏されたことがあります。

豪壮かつ明快な曲想、ワグネリアンならずとも「血湧き、肉躍る」といった感じで、聴衆を熱狂させるパワーを持っています。沼尻=京響の演奏は、内声部の豊かな歌いまわしと響きとも相まって、オープニングを飾るに相応しい充実したもの。豪快さを「売り」にするところが無きにしも非ずの作品ですが、むしろ、細部にまで行き届いた丁寧な音楽づくりが印象に残りました。

沼尻=京響コンビの強みは、単にオーケストラの演奏会(形式)ではなく、実際のオペラのステージを共に体験しているところにあると思います。ドイツの主だった歌劇場付きのオーケストラと比べても、遜色のない出来栄えだったように思いますが…。会場にお越しになっていたドイツ人の方に、是非ともお尋ねしたいところでした。

● ワーグナー : 「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲」、第3幕「イゾルデの愛の死」
この曲は、2013年10月の京響第573回定期で、ジョン・アクセルロッドさんの指揮で演奏されています。この時の後半はワーグナー・プログラムで、今回の演奏会の楽曲と大方のところで重なり合っています。

今回の演奏会では、「イゾルデの愛の死」のところで、「強大な力」と評されるドラマティック・ソプラノ、ステファニー・ミュターさんの絶唱が披露されます。バイロイト音楽祭にも招かれるなど、当代を代表するワーグナー歌手の歌唱は、官能的、陶酔的というよりは、むしろ、崇高で威厳に満ち、気高く清浄されたもので(死を賛美するものではありませんが)、大いに感銘を受けました。

● ワーグナー : 「ニーベルングの指環」より(ハイライト・沼尻編)
全曲上演に約15時間を要する大作から、主要な部分を抜粋して演奏する試みは、幾つかの例があります。京響の演奏会でも、クリスティアン・アルミンクさんを客演指揮に迎えた、2021年9月の第660回定期で、オランダの打楽器奏者、デ・フリーヘルさん編による、楽劇「ニーベルングの指環」オーケストラル・アドヴェンチャーという作品が演奏されています。こちらは声楽部分を完全に排して、純粋な管弦楽曲の体裁に仕上げられたものです。

今回のハイライト・沼尻編の大きな特長は、現在望みうる限り、ほぼ理想的なキャストを配しての、歌唱付きヴァージョンであるというところ。「ワルキューレ」の「ヴォータンの告別」では青山貴さん、「神々の黄昏」の「ブリュンヒルデの自己犠牲」では、先述のステファニー・ミュターさん。当然ながら、歌唱が加わるのと無いのとでは、音楽的な充実度が全然違いました。

個人的には、WOWOWで放送されていた「シルク・ドゥ・ソレイユ」のロベール・ルパージュさん演出による、メトロポリタン・オペラ(巨大な舞台装置とプロジェクション・マッピングを駆使した、斬新な演出で話題になった公演です)を録画に採っていて、細切れになりますが全編を通して見ていたので、大まかな舞台の情景や登場人物は思い描くことができ、ずいぶん助けになりました。ただ、なにぶんオペラ初心者の域を出ないので、「ワルキューレの騎行」や「ジークフリートの葬送行進曲」という管弦楽曲の部分の方に、より心が揺さぶられたのは正直な感想です。

            *  *  *  *  *

欧州では、オーケストラのコンサートに通う人と、オペラの舞台に集う人は、音楽的な意味で「人種」が違うとも言われています。この演奏会でも、ホワイエではドイツ語を話す外国人の方々(大学や企業の研究職の方なのでしょうか?)や、いかにも「オペラ通」といった感じがするマダムたちを目にしました。「いつもの京響定期とは少し客層が違うのかな?」と、遠めに眺めていました。



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