まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

京都市交響楽団 第689回 定期演奏会

2024-05-28 11:41:35 | kyokyo
2024年5月25日(土)14:30 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : ヤン・ヴィレム・デ・フリーント(首席客演指揮者)/ 独奏 : デヤン・ラツィック(ピアノ)


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● ベートーヴェン : ピアノ協奏曲第4番ト長調 作品58
ベートーヴェンが遺した5つのピアノ協奏曲のうち、演奏会で採り上げられる頻度が高いのは第3番以降の作品でしょう。京響の演奏会でも、第3番は第620回定期(2018年2月)で、フィンランドのオリ・ムストネンさんの指揮&ピアノで聴いています。最も人気の高い第5番「皇帝」は、2013年1月のニューイヤー・コンサートにおいて、指揮は山田和樹さん&ピアノは仲道郁代さんというコンビで、また、第618回定期(2017年11月)では、下野竜也さんの指揮、アンナ・フェドロヴァさんのピアノで聴いています。ところが、この第4番は意外なことに、京響の演奏会で聴くのは私にとって初めての体験となりました。

プログラム・ノートには、「もっとも抒情的であると同時に、もっとも独創性にあふれる」と、楽曲解説にありました。確かに、冒頭からいきなり、管弦楽を伴わないピアノ独奏が瑞々しい旋律を奏でます。さらに第2楽章では、荒々しく断片的な管弦楽と密やかにささやくようなピアノとの、コントラストのはっきりとした対話風のやり取り(これには、難聴の悪化したベートーヴェンと、ピアノ独奏を受け持ったルドルフ大公の、病気がちな健康状態が関係しているとのことです)。そして、いきいきとした躍動感のある終楽章のクライマックス。

指揮者、独奏者、オーケストラの三者がしっかりと対峙し、演奏の「主導権争い」とまでは言わないにしても、青白い炎がめらめらと燃えるような、心地よい緊張感にホール全体が包まれました。こちらの集中力も、ますます研ぎ澄まされていくようでした。
ピアノのデヤン・ラツィックさんは、「作品に対する新鮮な解釈は、同世代の最も個性的で非凡な才能」(プログラム・ノート)と、プロフィールに紹介されていました。この作品で採り上げたカデンツァも、従来のものに慣れ親しんだ耳からすれば、かなり大胆で斬新な内容。前述の氏の評価を如実に表した独奏で、強いインパクトがありました。

● シューベルト : 交響曲第1番ニ長調 D.82
シューベルトが遺した8つの交響曲の中では、「未完成」と「ザ・グレート」が圧倒的な人気を誇り、京響の演奏会でも、たびたび聴く機会に恵まれました。しかし、他の交響曲と言えば、広上淳一さんの指揮で第5番を聴いたぐらいです(2020年3月、第643回定期)。当時、まだ音楽を勉強中だった(なんと、先生はあのサリエリだったという…)シューベルトが16歳のときに書いたこの第1番は、当然ながら初めて聴く作品となりました。

今回指揮されるデ・フリーントさんで言うと、奇しくも、第667回定期(2022年5月)で、シューベルトの「ザ・グレート」を採り上げられています。個人的には、この作品の長大なスケールと、まるで永遠に続くかのように聞こえる(?)繰り返しが苦手で、たいていは途中で集中力が途切れてしまうのを常としていました。ところが、デ・フリーント=京響の演奏は躍動感のある推進力に富んだもので、初めてこの作品の充実感を味わえたような気がしたものです。

さて、今回の第1番もその期待に違わぬもので、強弱、緩急がはっきりとしたメリハリの効いた演奏で、ハイドンやモーツァルトの影響を受けながらも、シューベルトらしい「歌心」も随所に感じさせてくれました。前時代のサロン風の「習作」というよりは、ベートーヴェン的なドラマチックな演出効果とスケール感の方が印象に残りました。とてものこと、16歳の少年の書いた作品とは思えませんでした。

自らの就任披露の演奏会に、普通にやれば自然と感動を呼ぶような、いわゆる人気曲、有名曲を採用せず、むしろ、あまり日の当たらない作品で勝負してみせたデ・フリーントさん。自らの作品解釈や音楽観、並びに、オーケストラをコントロールし掌握する能力に対する、揺るぎのない自信が感じられました。
常任指揮者の沖澤のどかさんに加えて、首席客演指揮者に就任したデ・フリーントさん。二人の得がたいマエストロの指導の下、京響の今後の更なる進化(深化)が大いに期待されます。

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通常の定期では、アンコール曲は演奏されないものですが、今回は前日の「フライデー・ナイト・スペシャル」の演目より、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」から第3楽章「メヌエット」が披露されました。諸事情で断念したコンサートだっただけに、ちょっと得した気分になりました。こういうところにも、デ・フリーントさんの京都の聴衆を愛する気持ちと、旺盛なサービス精神が感じられ、よりいっそう応援したい気持ちになりました。




京都市交響楽団 スプリング・コンサート 2024

2024-04-09 19:14:07 | kyokyo
2024年4月7日(日)14:00 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : リオ・クオクマン / 独奏 : 桑山 彩子(オルガン) / 管弦楽 : 京都市交響楽団


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● ベルリオーズ : 序曲「ローマの謝肉祭」 作品9
この曲は、2014年5月の京響第579回定期(指揮:広上淳一さん)のときに聴いています。この演奏会でのメインは、同じくベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」でした。

旋律などはすっかり忘れていましたが、オープニングにふさわしく、全体的には快活で色彩感豊かな曲想。カーニバルの熱狂が見事に(決して粗野にならず、センスの良さが感じられる)表現されていました。「ここで終わるのか」と思わせておいて、さらにもう一段盛り上げるところなどは、ベルリオーズらしい技法(知らんけど…)だと思いました。

● プーランク : オルガン協奏曲 ト短調
オーケストラは、管楽器を含まない弦楽器とティンパニーのみという、シンプルな編成。その分、オルガンの多彩な音色と豊かな響きが、より一層、際立つ感じがしました。管楽器を欠いていることを忘れてしまうほど、充実したアンサンブルを楽しめました。

オルガンの強奏は強い怒りや不安、深い悲しみの咆哮のようにも響き、一方で、静かな弱音で奏されるところは、静謐な美しさを湛え、宗教的な祈りにも通じているように聴こえました。プログラム・ノートには、友人の作曲家を自動車事故で亡くしたことが記されていましたが、1930年代半ば以降の、大戦へと突き進んでゆくヨーロッパの社会的背景も、決して無関係ではないように思いました。

● サン・サーンス : 交響曲第3番 ハ短調 作品78(オルガン付)
この壮大な交響曲は京響の演奏会でもよく取り上げられ、広上淳一さん、小林研一郎さん、大友直人さん、それぞれの指揮で聴いています。中でも、広上淳一さん指揮の第530回定期(2009年11月)では、今回の独奏者、桑山彩子さんのオルガンで聴いています。

この曲の聴きどころは、何と言っても第2楽章の後半部分。まるで、天空からキラキラとした結晶が舞い落ちてくるかの如く、はたまた、大地の底から煮えたぎったマグマが湧き上がってくるかの如く、オルガンとオーケストラとの圧倒的協奏は、何度聴いても、心が強く揺さぶられます。

指揮のクオクマンさん、京響への客演は今回が4度目になるとのこと。2018年6月の第624回定期で、京響デビュー。以降、2年に1回のペースで客演されています。ここ数年の客演頻度は、最も高い部類の指揮者のお一人だと思われます。直近の2022年11月のフライデー・ナイト・スペシャルにおける、「ラプソディー・イン・ブルー」でのピアノ&指揮は、圧巻のパフォーマンスでした。今回のスプリング・コンサートも、京響との相性の良さ、楽団員からの信頼の高さが実感できる、素晴らしい演奏会となりました。




京都市交響楽団 第686回定期演奏会

2024-02-19 19:04:28 | kyokyo
2024年2月17日(土)14:30 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : 川瀬 賢太郎 / 独奏 : 石田 泰尚(ヴァイオリン)/ 管弦楽 : 京都市交響楽団


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● マルサリス : ヴァイオリン協奏曲 ニ調
作曲者は、マイルス・デイビス亡き後、現代屈指のジャズ・トランペット奏者として、最前線で活躍されてきた、あのウイントン・マルサリス氏のこと。クラシックにも造詣が深く、数々のアルバムをリリースされている他、自ら作曲も手がけられています。

今回の作品の日本初演は、同じく、川瀬賢太郎=石田泰尚のコンビで、神奈川フィルの演奏会で取り上げられています。そして、今回の演奏はこのコンビによる3度目のステージで、神奈川フィル以外では京響が初めてのことになります。この曲のCDを初めて聴いた川瀬さんが、「ソロは石田さんで行こう!」と即決されたというエピソード。まさに、ぴったりとはまったキャスティング! その練度も、ますます上がってきました。

独奏ヴァイオリンの石田泰尚さんは、2020年のシーズンから京響の特別客演コンサートマスターも兼任されているので、演奏会のプログラムによっては、短いながらも印象的なソロを聴く機会が、これまでに何度かありました。本格的なソロといえば、コロナ禍の影響を受けた、2020年8月の京響第648回定期(指揮:阪哲朗さん)での、ヴィヴァルディの「四季」以来、2回目のことになります。

この作品は、それぞれ標題の付いた4楽章からなる協奏曲で、演奏時間は40分を超える堂々としたスケールを有しています。ジャズやブルースを基調にしていますが、それ以外にも、さまざまな音楽的要素が取り込まれ、曲想は目まぐるしく変化し、展開されていきます。そこには、クラシックの安易なジャズ化(逆に、ジャズの安易なクラシック化)とは一線を画す、マルサリス氏の矜持のようなものが感じ取れます。

そうしたこの曲が持つ諸々の側面を具現化する、石田泰尚さんの音楽性と技術力の高さに圧倒されます。突然の耳をつんざくようなホイッスルの音、独奏ヴァイオリンとドラムス(中山航介さん)が対話をするかのようなカデンツァ、熱狂する人々の足踏みやクラップの効果音など、斬新で刺激的な試みが随所に施され、視覚的にも楽しめる作品になっていました。

● ドヴォルザーク : 交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界から」
もはやコメントする必要がないほど、高い人気を誇るクラシックの名曲。京響の演奏会でも、2016年10月の第606回定期で客演されたラドミル・エリシュカさんをはじめ、沼尻竜典さん、下野竜也さん、垣内悠季さん、原田慶太楼さんなど、数々の指揮者のタクトで聴かせてもらいました。

私が、川瀬賢太郎さんの指揮される演奏を最初に聴いたのは、2013年11月の京響・オーケストラ・ディスカバリーの第3回、「和と洋」というテーマのとき。続いて2回目が、2017年8月の第615回定期でのヴェルディの「レクイエム」。これで3回目のステージとなりますが、クラシックの王道とも言うべき交響曲の演奏を聴くのは、実質上これが初めてのこと。期待が高まります。

コロナ禍で演奏会の開催もままならないとき、ドヴォルザークの自筆譜の写しを取り寄せて、もう一度勉強し直したという川瀬賢太郎さん。従来とは異なる新しい知見(響き)を見いだし、今回の演奏ではこだわりを持って、トライしてみたい!と抱負を語っておられました。実際聴いてみると、「この部分かな?」と思えるところが、いくつかあったような…。「間違い探し」的な気分で聴くことによって、いつになく新鮮な気持ちで、集中が途切れることなく聴くことが出来ました。

第2楽章、イングリッシュホルンによって演奏される「家路」を代表格として、全編にわたって魅惑的な旋律が散りばめられた名曲ですが、私がとりわけ好きなのは、同じく第2楽章の中間部で、先住民の「森の葬礼」に着想を得たとされる旋律です。悲しみを称えた静謐な「祈り」を思わせるもので、その情景までが思い浮かぶようでした。川瀬=京響の演奏は全体として、整然とコントロールされた中にも爽快な疾走感があり、新たな感動を呼び起こしてくれました。




京都市交響楽団 特別演奏会「第九コンサート」

2023-12-31 18:00:26 | kyokyo
2023年12月28日(木)19:00 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : 大友直人(桂冠指揮者)/ 管弦楽 : 京都市交響楽団 / 合唱 : 京響コーラス
独唱 : 小林沙羅(ソプラノ)、鳥木弥生(メゾ・ソプラノ)、西村悟(テノール)、大西宇宙(バリトン)


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● ベートーヴェン : 交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮は、京都市交響楽団・桂冠指揮者の大友直人さん。広上淳一さんの1代前、第11代常任指揮者を勤められていました。私は「広上体制」になってから本格的に京響を聴き始めたので、大友さん=京響の演奏会は、正直なところ、全く聴く機会がありませんでした。

また、2020年4月の第644回定期は、チケットを購入して楽しみにしていましたが、コロナウイルス感染症の拡大のため、残念ながら公演は中止となってしまいました。調べてみると、初めて聴いたのは、2016年2月の第598回定期にまでさかのぼります。独奏に今井信子さんを迎えてのエルガーのチェロ協奏曲(ヴィオラ版)と、ドヴォルザークの交響曲第8番という魅力的なプログラムで、聴き応えのある演奏会だったという記憶が残っています。

さて、今回の大友=京響の「第九」は全体として、きびきびとした推進力のあるテンポ設定と、輪郭線をくっきりと描くようなフレージングが印象的な演奏。第3楽章も、「アダージョ・モルト」の指示を優先するというよりは、メトロノームの数字に準拠した、いくぶん速めの演奏でした。大友さんの上品で優雅な挙措から、端正でスタイリッシュな音楽作りだろうと、自分勝手に思い込んでいましたが、そのイメージを覆すような躍動感にあふれ、熱量の高い「第九」でした。

4人の独唱者の中では、合唱を先導するバリトンの大西宇宙(おおにし・たかおき)さんの圧倒的な存在感が特筆ものでした。「勢い余って」という感も無きにしも非ずでしたが、4人のバランスを崩しかねない、ぎりぎりのところまで攻めたアグレッシブな姿勢は、評価したいと思います。(サッカーの感想みたい!?)

女声ソリストもよく健闘されていましたが、声量的にも目一杯のところがあり、ややゆとりに欠けるところがあったように感じました。もちろん、それぞれのパートの難易度(歌いやすさ、歌いにくさ)がありますし、一概に優劣を比較することはできませんが…。また、私が日頃から愛聴しているCD、「ショルティ=シカゴ響」盤のソプラノが、全盛期のジェシー・ノーマンだったということも、その印象にかなり影響していたかと思われます。

飛沫対策という制約から解放された京響コーラスも、伸び伸びとした立派な歌唱でした。ステージ上の人員配置から、ソプラノに若干名の欠員があったようにお見受けしましたが、バランス的に聴き劣りすることもなく、堂々と「フロイデ(歓喜)!」を歌い上げられていました。




京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー 第3回 チャイコフスキー・アンド・ヒズ・フレンズ

2023-12-07 19:21:51 | kyokyo
2023年12月3日(日)14:00 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮 : 原田 慶太楼 / 管弦楽 : 京都市交響楽団 / ナビゲーター : ロザン


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● チャイコフスキー : 序曲「1812年」作品49からエンディング
この作品は、1812年、フランス(ナポレオン1世)の遠征軍にロシアが勝利したという歴史を祝して、作曲されたものです。演奏(録音)の中には、実際に鳴り響く教会の鐘の音や、祝砲(本物の大砲)を使った大がかりなものも残されています。

現代のロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、演奏される機会もめっきり少なくなりましたが(むしろ、抗議の意味を込めて拒否されている)、原田=京響の演奏はオープニングにふさわしく、勇壮で輝かしく、実に堂々としたものでした。

● プロコフィエフ : 組曲「キージェ中尉」から第4曲「トロイカ」
プロコフィエフといえば、京響の定期でも交響曲(第5番、第7番、古典交響曲)や、ヴァイオリン協奏曲(第2番)がプログラムに採り上げられ、比較的馴染みのある作曲家の一人と言えますが、私の中では小学生の時、音楽の授業で聴いた音楽物語の「ピーターと狼」の作曲家というイメージが強いです。

この組曲は映画音楽として作曲されたそうですが、雪原をひた走るトロイカ(3頭立ての馬ぞり)の情景が目に浮かぶようで、ウインターソングの定番?「鈴の音」も効果的に使われていました。これから迎えるクリスマス・シーズンと相まって、サンタさんのイメージと重なりましたが、実際の映画の中では、酔っぱらった役人たちがキージェ中尉を迎えにいく場面で使われているそうです。勢い余って、道端の木に衝突するアクシデントも!

● ムソルグスキー(ラヴェル編): 組曲「展覧会の絵」から第9曲、第10曲
この作品は演奏会でも度々採り上げられる人気曲ですが、個人的には、京響の演奏会で聴くのは今回が初めてのことになります。実は、2019年1月の京響第630回定期(指揮、マルク・アンドレーエさん)でも演奏されているのですが、あいにく前日からの発熱のため、やむなく断念したという苦い思い出があります。第9曲「バーバ・ヤガーの小屋」~第10曲「キエフ(キーウ)の大きな門」というラスト2曲だけでしたが、ようやく念願が叶うことになりました。

オープニングのロシアの勝利を讃える「1812年」に対して、ここではウクライナの首都、「キエフの大きな門」という微妙なバランス(配慮)を感じざるを得ませんが、そういう事情を抜きにしても、豪壮で威厳に満ちた原田=京響の演奏でした。

● チャイコフスキー : バレエ組曲「眠りの森の美女」から「ワルツ」
この作品は、後半のプログラム「くるみ割り人形」とともに、2013年10月、西本智実さん指揮の京響の演奏で聴いています。本場のロシアを拠点に活躍されていた西本さんの指揮姿がとても凛々しく、見惚れてしまったのをよく覚えています。

原田さんとロザンのお2人のトークの中で、このワルツの冒頭部分に仕掛けられた作曲者の意図、華やかな雰囲気の中に忍び寄る不穏な空気のお話は、とても興味深いものでした。ロザンのお2人も感心しきり。

● チャイコフスキー&エリントン : バレエ組曲「くるみ割り人形」スペシャル
ここにある「エリントン」とは、もちろん、ジャズ界の巨人、あのデューク・エリントンのこと。オーケストラに、ドラムス、ベース、テナーサックスの客演奏者の方が加わり、何とも豪華なストリングス付きのビッグバンドの誕生!

京響の皆さんにとっては、これまで山下洋輔さん、小曽根真さん、国府弘子さんといった、日本を代表するジャズピアニストの方々との協演経験があり、ジャズやブルースのエッセンスが盛り込まれたガーシュインの名曲(「ラプソディー・イン・ブルー」とか、「パリのアメリカ人」とか)も定期で披露されていることから、けっこう手慣れたお得意なレパートリーだと推察されます。

当然ながら、「メロディーメーカー」としてのチャイコフスキーの才能、魅力がいっぱい詰まった作品ですが、それにジャズのアレンジが加わると、華やかさ、楽しさがいっそう際立つ感じがします。ジャズ演奏の花形楽器であるサキソフォン、トランペット、トロンボーンなど、圧巻のアドリブ・ソロが展開されました。

● ハチャトゥリアン : バレエ組曲「ガイーヌ」から「剣の舞」(アンコール曲)
演奏時間の関係から、「今日はアンコールがあるな!」と予想していましたが、まさか「剣の舞」がくるとは、ちょっと意外なところを突かれた感じでした。私の「ベタ」な予想では、大本命(◎)で「白鳥の湖」かなと思っていました。

この作品は、2014年4月の京響スプリングコンサートにおいて、大阪市音楽団との合同ステージで聴いています(指揮、ダグラス・ボストックさん)。京響&市音という質量とも充実したホーン・セクションを擁しての、圧倒的迫力に満ちた演奏でした。

また、父が生前よく聴いていたので、私にとっては、子どもの頃から慣れ親しんできた曲でもあります。父に連れられて、京響の地域巡回のコンサートに聴きに行ったときの思い出など、ちょっと感傷に浸ることができました。