■ FRBが資金供給を減らすと攻撃されるユーロ ■
ヨーロッパ経済の低迷やギリシャ問題でユーロ安が進行しています。
これに絡んで少し面白いグラフを見つけたので拝借します。
青線=ユーロ/ドル 赤線 金価格(一応ドルの指標として?)
http://www.m2j.co.jp/market/european_report.php?id=36より
リーマンショックの後、世界ではドル基軸体制の継続性に疑問が持たれ、フランスや中国を中心にIMFの特別引き出し(SDR)をドルに変わる基軸通貨として活用する方法が検討されました。
しかし、アメリカがQE1を発動すると市場は沈静化に向かったので、ドルの信用は回復して行きます。一方、これと入れ替わるかのごとく注目を集めたのがギリシャ問題とユーロ危機です。
問題の大元はギリシャがユーロの基準を誤魔化して過剰な国債を発行していた事にありますが、ギリシャ国債をデフォルトするとCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の支払い義務が生じる事で金融界に影響が拡大する可能性が有りました。しかし、ギリシャの国債はCDSの支払い義務が生じ無い様に非デフォルト扱いで圧縮され、2011年11月3日のEC政策B理事会で期間3年の長期リファイナンス・オペ(LTRO)の新設が決定し、2012年9月6日のECB理事会で、市場から国債を買い取る新たな対策を正式に決定した事でユーロ危機は収束して行きました。
無力化された金融核兵器・・・ギリシャ国債のCDSが消えた!?(2012.02.23 人力でGO)
ユーロは元々通貨統合だけ行って財政統合をしていない欠陥通貨なので、南欧諸国で経済不安が広がれば資金は国境を越えてドイツなどに集まる傾向が有ります。一方、財政が各国バラバラなので、ドイツなどから南欧諸国に資金還流するルートが確立されていません。
上のグラフで注目すべきは、ギリシャ危機や南欧債危機が深刻化していた時期は、FRBがQE1やQE2を終了して資金供給を低下させた時期に当たります。この時期、アメリカ国内では資金量が減少するので金融市場が過大な圧力が掛かりますが、一方で資金供給を減らす事で為替はドル高に傾きます。
この時、ヨーロッパではギリシャ国債や南欧債が攻撃され、ユーロ危機が演出されていましたので、資金は安全を求めて米国債に集まって来ます。QEが終了して本来金利上昇圧力が生じる米国債を、ヨーロッパの資金が買い支えていた事になります。
■ 円高と為替介入、そして異次元緩和 ■
同じ時期、日本は80円台の円高に苦しめられます。
民主党政権は為替介入を実行していますが、これは間接的な米国債購入に他成りません。
アメリカは2013年に入ってからQE3を終了するテーパリングを模索します。同時に日本ではアベノミクスが始まり、日銀が2013年4月に異次元緩和に突入します。これは、テーパリングで資金供給を減らすFRBのバックアップの意味合いが大きかったと思われます。
日銀はFRBがQE3を終了した2014年10月には追加緩和に踏み切るなど、FRBが資金供給を絞るタイミングに合わせて資金供給を拡大しています。
■ 利上げで資金供給を減らすFRBと、それを補完する日銀とECB ■
現在ECBのドラギ総裁は景気の失速とギリシャ危機を受けて、量的緩和に前向きな姿勢を示しています。しかし、財政規律を重視するドイツなの反発が強く、なかなか量的緩和には踏み切れていません。
日銀の異次元緩和の口実がアベノミクスのリフレ政策であった様に、ヨーロッパの量的緩和の目的もユーロ圏のデフレ阻止が主目的にされるはずです。
ところで、ヨーロッパの景気減速の原因は何かと言えば、ロシア制裁の与えた影響は小さくありません。ヨロッパへはロシアから大量の投資資金が流入していましたし、ドイツは工業製品を、フランスは農産物をロシアに輸出していました。ロシア制裁実行後に一番ダメージを受けたのはドイツの輸出産業でした。
ウクライナ危機は歴史的な地域紛争を利用したヨーロッパへの経済攻撃だという事が分かるかと思います。ギリシャも同様で、臭い物に蓋をして誤魔化していたその蓋を、タイミングを見計らって取っただけとも言えます。同時にアメリカの金融機関がギリシャ国債や南欧債を売り浴びせて危機を演出します。
こうして、ジリジリと財政重視派の退路を断ってECBを量的緩和に追い込んでいます。
■ 表面的には反発し、裏では繋がっている通貨マフィア ■
「通貨戦争」などと言葉が有る様に、通貨はそれぞれ反発し合う様に見えます。一国の通過が値上がりする反対で、他国の通貨が値下がりするのでそう見えてしまいます。
実際に世界的に需要が落ち込んでいる時は、「通貨安戦争」という言葉が用いられ、輸出を増やす為に自国通貨を安く誘導していると指摘されます。
しかし、これは表面的な事に過ぎません。実際にリーマンショック後に起きた「通貨安戦争」は各国中央銀行が資金供給を拡大して金融市場の穴埋めに奔走した結果で、通貨安による輸出の拡大は付帯的事柄に過ぎません。
実際の上のユーロチャートを見ても分かる様に、為替レートはドルを巡る環境によって動く傾向が強い様です。
各国の中央銀行は「通貨マフィア」と呼ばれる様に裏ではベッタリ結託して、阿吽の呼吸で行動します。
1985年のプラザ合意が良い例ですが、為替レートは自由市場で決まるルールのはずなのに、G5各国の「合意」によってドル/円レートは235円/ドルから1年で150円/ドルまで円高が一気に進行しました。
■ 「アメリカの一人勝ち」では無く「終末の始まり」 ■
アメリカが利上げに成功すると、世界の投資資金はアメリカに集まって来ます。これをして「アメリカの一人勝ち」と評される事が多くなっています。
「アメリカの経済指標は強く、リーマンショックから一番早く立ち直った」などと宣伝されます。
しかし、その実態はジャブジャブの緩和マネーによってサブプライムローンの様なリスク無視の融資が拡大しているに過ぎず、その土台は既に腐っています。FRBが利上げに成功すれば、腐った土台の上でバブルが膨らむ事になります。これは「一人勝ち」では無く、「終末の始まり」です。
■ ショックドクトリンと利益確定としての金融危機 ■
1929年の「世界恐慌」は、NYの株式市場の暴落で幕を開けます。この時NY株式市場はバブル状態になっていましたが、その原因は金融機関が個人などの投資家に提供していた「コールローン」という短期資金です。
コールローンは返済を要求されてたら24時間以内に返済しなければならない短期ローンで、多くの金融機関がコールローンの返済を迫った事で投資家達が持ち株を投げ売った為に株価が暴落しました。
暴落した株やロックフェラーやロスチャイルド系の金融機関がタダ同然で手に入れます。こうして、アメリカ人が苦労して築いた企業の多くが金融資本家達の手に落ちる事になりました。
さらに世界恐慌によって帝国主義各国は保護主値に走り、やがては第二次世界大戦へと繋がって行きます。
第二次世界大戦の結果、戦場になったヨーロッパは停滞し、アメリカが世界の覇権を握りますが、そのアメリカの資本を握っていたのは大英帝国でした。
第二次世界大戦以降、世界の植民地は相次いで独立しますが、資本を握っていたのは旧宗主国です。住民の反乱などで経営コストの掛かる植民地経営は表面的には無くなりますが、資本による植民地は現在も続いており、アメリカとて大英帝国の植民地から脱しては居ません。
イギリスは世界の覇権をアメリカに譲り、基軸通貨もドルに譲りましたが、アメリカは「世界の警察」としての汚れ仕事を引き受けて国民が血を流すうっぽうで、金融機関を通してドルの収益は効率的にイギリスへと吸い上げられます。
そして最近では、タックスヘブンを通して、アメリカ企業の収益は闇へと吸い込まれて行きます。
この様に、世界のシステムが大きく変革される時、その引き金として「金融危機」が使われます。「戦争になったのは、あの金融危機が原因だ」という理由付けにされるのでしょう。
■ 既に次の世界の輪郭が見え始めている ■
昨年からロシアと欧米の対立が先鋭化していますが、その原因は「ウクライナ危機」のでっち上げでした。これは欧米が悪いとか、ロシアが悪いとかいう問題では無く、双方の共同謀議だと私は考えています。
ウクライナ危機以降、ロシアと中国はさらなる緊密度を増し、BRICs諸国がそれに追随しています。世界銀行やIMFに対抗してBRICs銀行も立ち上げられ、ロシアと中国の間では両国通貨による貿易決済によってドルが占め出されています。BRICs諸国間でも相互通貨による決済が拡大しています。
欧米が中露を追いつめれば追い詰める程、中露の結束は高まり、独自の経済圏を形成して行きます。
一方、アメリカはヨーロッパから米軍の撤退を発表しています。表面的理由は「財政削減」ですが、米軍の駐留は「力による地域支配」の隠れた姿でしたから、ヨーロッパにおけるアメリカの影響力は徐々に低下していくものと思われます。
一方、米軍の「トランスフォーム」と呼ばれる長期再編計画で縮小が予定されているアジアですが、安倍政権は武器輸出の基準を緩和したり、集団的自衛権の解釈を変更するなど、着実に「自衛」できる軍隊の設立を進めています。
日本から米軍が撤退する事は考えられませんが、沖縄を始めとした中国に近過ぎる在日米軍基地が縮小される一方で、自衛隊がその役割を拡大する事でしょう。
この流れはフィリピンやオーストラリアなどを含む米国中心の環太平洋軍事同盟の様な物に発展すると思われます。南米諸国もアルゼンチンやブラジルなどが中露側に付けば、その他の国はアメリカ中心の同盟に参加するはずです。
■ 国家の主権が縮小して行く時代 ■
この様な地域連合は軍事だけでは無く、TPPの様な形で経済面でも進展し、域内での関税や非関税障壁がどんどん取り払われ行くはずです。「地域連合 VS 地域連合」という分かり易い対立が、国家の主権を制限する事に使われるはずです。
EUやユーロはこの様な地域的な国家連合の実験だったと考えられます。
■ ユーロは失敗したのか ■
「ユーロは失敗した」との意見も散見されますが、この様な国家連合の時代にEUやユーロが消失する理由は見当たりません。
ユーロの最大の問題は「財政統合が出来ない」事ですが、中露という分かり易い敵が出現したり、ユーロの存続性に重大な危機が訪れた時、ドイツ国民は「財政統合」か「ユーロ離脱」かを問われる事になります。
これもショックドクトリンの一種で、ドイツ国民が「自国の利益」を手放す為には、相当の危機が必要になるのかも知れません。
ユーロ問題から話題がだいぶそれてしまいましたが、ユーロやEUという国家統合の試みは、これからの日本の有り方を占う為にも注目すべき事では無いでしょうか。
ユーロ圏は域内の労働市場と人の往来、資本の往来を自由化する事で、労働力不足の問題を解決しました。そのしわ寄せがギリシャ問題として現れていますが、ユーロの導入無くしては今のヨーロッパ諸国に発展は無かったのです。