■ 人口(人命)と生産設備の将来推移 ■
先日のエントリー
人口減少時代のインフラ整備・・・やがて来る「強制的な選択と集中」に「インフラ研究者さん」より再び詳しいコメントを頂きました。
まとめてみます
1) 人口増加期には人口と生産設備が右肩上がりに増加し、減少期には右肩下がりに減少
これをグラフ化すると、左右対称の三角形を合わせた様になる
2) 現在整備されるインフラは、将来的な三角形の面積を守る事でペイされる
4) 公共事業における金利負担のウェイトは大きいので、金利の低い現在はインフラの再構築
には好条件
■ そこで、私なりにグラフ化してみました。 ■
1)現在の出生数が続くと、人口減少は増加時期よりも急激に進行する
2)2100年には明治期の人口まで縮小する可能性が有る
3)人口増加期は若年人口の比率が増加するので生産性が向上する
4)人口減少期は老人人口の比率が増加するので生産性は低下する
どこの先進国の少子化対策も抜本的に人口減少に歯止めを掛ける事が出来ていません。アメリカやヨーロッパで生産人口を支えているのは移民とその子孫です。日本がこのまま移民を受け入れなければ、上のグラフの様に左右非対称となるハズです。
さらに、上のグラフは日本全体での変化ですから、過疎地域では既に人口減少と超高齢化が相当に進行しています。
実際には日本は研修生や留学生として大量の移民を受け入れています。国連の統計ではドイツに次ぐ移民大国になっており、彼らの労働力が現在の日本の生産・流通を支えています。
■ 人口減少地域では50年後のインフラの更新が難しくなる ■
仮に現在整備されているインフラが50年後に更新時期を迎えたとして、スペックダウンする事が可能でしょうか?例えば、「お金が無いので防潮堤を低くします」とか「お金が無いので、堤防の強度を弱くします」という事は有り得ません。
縮小が約束されている日本において、重要性が高いインフラから再整備を行うと、重要度の低いインフラや人口の少ない地域のインフラは老朽化したまま解体される事も無く放棄される可能性も高い。
ですから、50年後に防災インフラが整備出来ない地域、或いは交通インフラを維持出来ない地域の人口は大幅に減少するハズです。
■ 整備しない事で選択と集中を促す ■
高度成長期に大量に整備された橋梁やトンネル、護岸や堤防といったインフラは現在築50年を迎え、次々に更新時期に入っています。国交省では今後、年間5兆円程度ずつ、これらの老朽化したインフラの更新費用が発生すると予測しています。
国や県が管理する道路の老朽化対策は計画的に進行していますが、市や町や村の管理する橋やトンネルなどは、更新出来ない物が増えています。
私は自転車で千葉の田舎を走り回る事を趣味としていますが、県道のトンネルが崩落しても、迂回路がある場合は復旧に1年掛かるケースが在ります。君津市の亀山ダムには沢山の橋が架かっていますが、通行止めのままの橋も出て来ています。すぐ近くに別の橋があるので、整備しなくても事足りているのです。
この様に、高度成長期に整備されたインフラでも、代替えインフラが存在する場合は、再整備されないケースが出て来ています。地方は高齢化が進行して財政がひっ迫しているので、今後、この様なケースが増えて来ます。
山奥の限界集落などでは、放棄される地域も増えて来るはずです。
■ 日本の小規模集落は災害に弱い ■
日本独自の問題も在ります。
日本は国土に平地が少なく、小規模集落の多くが山間部や、沿岸の入江などに点在しています。これらの地域は自然災害の危険地域で、本来人が住むのには適しません。
1)斜面崩落の危険地域
2)扇状地など土石流の危険地域
3)入江など津波の危険地域
平地の広く分布する地域に比べ、これらの地域は防災インフラへの依存度が高い。一方で、高齢化が進んだ地域が多く、地域内で防災コストを負担する事は出来ません。
■ GDP(税収)の「減少により人並の安全」を保障出来なくなる ■
高度成長期以降、地方のインフラ整備には「所得再分配」の機能も多く含まれていました。若者が都会へ流出した地域は所得も低く地域経済は自立する事が出来なくなります。そこで、輸出産業や都会のサービス業から上がる税収を地方に還元する役割を公共事業が担って来ました。
「無駄なインフラ」が「無駄では無い」理由がここに在りました。
しかし、日本の成長は人口ピーク時を境に低下に転じるハズです。現在、潜在成長率はゼロ近辺ですが(政府の発表しているGDPの拡大は統計に研究開発費を含めるなど以前のデータに比べる場合には「水増し」されている)、今後、高齢化が進む中でマイナスに転じるハズです。
さらに、非正規雇用の増加によって労働者への配分が低下して所得税が減る一方で、法人税は減税されるので、税収にマイナスのバイアスが掛かっています。
「人並みの安全」を全ての国民の保証出来た時代は終焉を迎えようとしています。
■ 国債の信用低下(金利上昇)の時代が始まる ■
現在の日本は「異次元緩和=日銀の国債新発国債の全量買い入れ=財政ファイナンス」によって財政を支えていますが、これは永続的では有りません。
既にアメリカで長期金利の上昇が始まっていますが、「悪性のインフレ率の上昇=国債の信用低下」は世界の国に波及するハズで、これがこの次の金融危機の本丸となると私は妄想しています。
仮に国債金利が上昇し始めると・・・日本の財政破綻の時期が早まります。
■ 次世代の防災技術 ■
ここまで書いて来ると、「人力は地方の人を見捨てるのか!!」とお叱りを受けるかも知れません。ただ、私は「従来のインフラ整備」の財政的限界を述べたに過ぎません。
では「持続可能な防災インフラ」の整備は出来ないのか?・・・私はこの点に着目します。
例えば、東日本大震災の津波被害地域では、コンクリート製の高さ十数メートルの防潮堤が建設されていますが、この寿命は50年です。
では、仮に、行政が沿岸部(多くは津波で一時的に人が住めなくなっています)の人を移住させ、盛り土と植樹による防潮堤を築けばどうでしょう。景観も有る程度保全され、50年以上防災効果を発揮する事が出来るのでは無いか?
■ 崩れる山を人の力で維持出来るのか? ■
同様な事が砂防ダムにも言えます。「山は崩れるもの」です。特に伐採などによって荒れた山は崩れ易い。それを砂防ダムで食い止めるのは「イタチごっこ」に近いものが有ります。これも将来、きっと行き詰まります。
本来は土石流被害の多い扇状地や山間部の谷間は人の居住に適していないので、この様な地域を「危険地域」に指定して居住を制限すべきですが、近代の防災は人の力と土木技術でこれを克服して来ました。土石流や洪水被害が発生する度に、河川の上流域でも河川改修工事が行われ、自然な流れと景観が失われて来ました。
確かにこれらの防災インフラは、本来人が居住すべきでない地域の人命を守って来ましたが、狭い流路に押し込められた流れは、予想を上回る降水が起きれば氾濫し、堤防を破壊し、場合により人命が失われます。
この様な山間部や上流部の砂防や治水の方法として、自然林の保水能力が見直されています。今後、人口が減少する日本では国産材の需要も低下しますから、当然人工林の必要面積も減ります。そもそも林業従事者が減少の一途の中で、林業の維持は難しい。そこで、維持出来なくなった地域から自然林を回復させる手助けを林業の仕事の一つにするのはどうか?
砂防予算や治水予算の一部を振り分け、コンクリート建造物を自然林に置き換えると考えれば不可能では無いはずです。
■ 保守とお金が掛かる防災から、「放置」の防災へ ■
個人の権利が必用以上に守られた日本では強制移住は難しいのですが、防災インフラが維持出来なくなれば、危険な地域から徐々に人は住まなくなります。
1) 危険地域の人口減少
2) 防災インフラをコンクリートから自然防災に移行
「コンクリートの土木工事が所得再配分の方法」という固定観念を捨てれば、持続可能な防災インフラの整備が出来るのでは無いか・・・・あくまでも素人考えですが、縮小の時代には、縮小の思考も必要では無いかと妄想します。
そして、それが子供達世代に美しい日本の風景を残すものであれば嬉しい。