人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

現代的で面白くなった『宇宙戦艦ヤマト2199』

2013-05-23 09:41:00 | アニメ
 



■ 酷評しちゃってゴメンナサイ ■

以前このブログでも取り上げた『宇宙戦艦ヤマト2199』

こんなデスラーはイヤだ・・・「宇宙戦艦ヤマト2199」、名作のリメイクは難しい  
(人力でGO 2012.04.08)


一話見ただけの印象で酷評してしまいましたが、
ベジ子さんが面白いと言われているので、見てみたらこれがなかなか面白い。

スタッフの皆さん、ゴメンナサイ!!

■ SF的ディテールは及第点 ■



上の画像を見ると、結構今風のキャラクターが登場していたりして、
「オレ達のヤマトは大丈夫か!?」と不安になったりするのですが
意外にも、無骨にヤマトしていて安心しました。

オリジナルのヤマトも子供向けのアニメとしては設定がしっかりしており、
「スタジオぬえ」の作品らしく、SF設定も当時としてはまともでした。

しかし、オリジナル放映から長い時間が経つ中で、日本のアニメは着実に進歩しています。
SFアニメのディテールも格段に向上しました。
そういった点を踏まえて、リメークされたヤマトはSF的ディテールにおいて
充分及第点を与えうる内容です。

冥王星の海で、ヤマトが反射衛星砲に直撃され、倒立して一回点するのにはタマゲましたが・・・。
中の人はグチャグチャだよな。300mのビルが倒壊するのと同じじゃん!!
未来の科学の結晶の、「人工慣性装置」か何かが働いているのだと勝手に解釈しました。

乗員も結構沢山乗船しています。
戦術化、船務科、航海科、技術科、機関科、主計科、 衛生科、 保安部、など
船員もしっかり組織化されていいます。
これは従来も、ユニフォームの色分けで部署の違いは明確にされていましたが、
主計科や保安部の追加が、それらしい雰囲気を醸し出しています。

■ 恋のライバルが登場したりして、ドキドキする内容に ■


一番の変化は、女性クルーが森雪一人だったオリジナルに比べ格段に増えた事。
特に、古代にひそかに思いを寄せる女性パイロットの存在は視聴者には興味深々です。

その他にも森雪の正体が謎めいていたり、
保安部の「細目」キャラが何か企んでいそうだったり、
情報科の、マクロスFのグレースにしか見えないオネーちゃんも何か企んでいそうだったり・・・。

ただ、イスカンダルに必死でたどり着いて、必死で返って着ましたというオリジナルより
話の展開も工夫が凝らしてあるようでせす。

■ 実は最大の違いはガミラス ■

実は2199で一番変わったのはガミラスです。
デスラーが今風のイケメンになったというだけでなく、
「二等ガミラス市民」が登場します。

彼らはガミラスに軍事的に制圧された種族達ちです。
肌の色も地球人と同様肌色、肌の色が青いガミラス人からは蔑まれています。
武勲を立てれば、「名誉ガミラス市民」の座が得られるので、
彼らは、ガミラスに反感を抱きながらも、ガミラスに忠義を立てて勇猛に戦います。

デスラーがやさ男になって魅力が半減した一方で、
二等ガミラス市民の存在が、「敵も同じ人である」という
戦闘物の一つのテーマを明確に意識される内容となっています。

さらには、ガミラス帝国の中にも、独裁者デスラーに反抗する者達も存在し、
これはこれで、現代的がなアレンジでとても好感が持てます。

■ SF的挑戦 ■

オリジナルのヤマトは、スペースオペラというSFのオーソドックスなスタイルで、
ヤマトが行く先々の宇宙の様々な現象を視聴者に楽しませる内容でした。
そのスタイルは今回も貫かれています。
様々な惑星や、異次元宇宙のSF的イメージを楽しむ事が出来ます。

一方、過去のSF小説や、SFアニメに対するオマージュの様な回も見受けられます。

特に「アナライザー」が敵のアンドロイドと交流する「時計仕掛けの虜囚」は、
各セクションのタイトルからして、過去のSFの名作を想起させます。

AIが自我を持つかどうかという、SFの根源的テーマを扱った作品ですが、
敵のアンドロイドの人工知能をリブートする過程で、
アナライザーがアンドロイドの教育を担当します。
その過程の中で、アナライザーが「あなたは誰」と聞かれ困惑します。
ヤマトのメインコンピューターのサブフレームとしてのアナライザーは
自立型AIで、人とも言葉を介してコミュニケーションします。
しかし、それは単純な命令形の積み重ねで習得した擬似人格です。


オリジナルのアナライザー  いい仕事してますねー

オリジナルのアナライザーは、人間的に描かれていて、
ちょっとエッチだったり、感情らしきものがありましたが、
2199のアナライザーは、擬似人格こそ人間的ですが、
自我を持つものかどうかは、彼自身が分かっていません。

アナライザーは自分と同様のAIにアイデンティティーを問われる事で、
自分の存在について、初めて真剣に考えてしまいます。
それに対して、真田は人間とAIの構造に根本的な差は無いと言います。
AIが自我を持つ事を否定する事は出来ないのだと。

最後はSF的悲劇に終わるアナライザーとアンドロイドの交流ですが、
FMヤマトから流れるSF的寓話が、もの悲しさを際立てます。
ラジオに耳を傾ける真田のやるせなさが、胸にジンときます。

「時計仕掛けの虜囚」はヤマトの諸話の中で最もヤマトらしく無い内容ですが、
実は今シリーズの中で、ヤマトの遺産(登場人物のキャラクター)を
最も有効に活用したエピソードです。
これだけでも、ヤマトのリーメークに意味があったと私は思っています。


切ない、切な過ぎます・・・アナライザー   いい仕事してます・・・

同様に「魔女はささやく」はエヴァ的世界への挑戦を見せていますが、
こちらはいささか内容が浅薄で、成功とは言いがたい・・・。
(影の演出は『革命少女ウテナ』をイメージしてしまいます)

■ オリジナルヤマトよりも、「ジパング」を手本にしている ■
 
何れにしても、『宇宙戦艦ヤマト2199』は上手に現代的にリニューアルされており、
充分の現代のアニメファンの鑑賞にも、そしてオールドファンの批評にも耐え得る作品です。

ただ、全体を通して強く感じるのは、
この作品、オリジナルヤマトのリメークと言いながら、
その表現の本質の部分で、「かわぐちかいじ」の『ジパング』を相当意識していると思われます。

現代の日本のイージス艦「みらい」が、単艦、
60年前の太平洋戦争のど真ん中にタイムスリップするこの作品、
イージス艦の中での自衛官の言動が克明に描かれています。

「艦長」の発音ひとつ取っても、一般の発音ではありません。
数字の読み方も、「右舷減速、ふたじゅう(20)」とか「ひと ふた まる まる」。
これは軍事オタクには当たり前とされていますが、
アニメでこれをやると、軍隊的リアリティーが水増しされます。

■ SFとしの緊張感は『ジパング』に軍配 ■



単艦で敵と戦うという設定はヤマトとジパングは良く似ています。
しかし、SF的面白さという点においてはジパングの圧勝です。

SFは通常起こり得ない事をシミュレートするジャンルです。
太平洋戦争時代に、現代の最新のイージスシステムはどの程度圧倒的か・・・
軍事オタクなら、誰でも妄想するであろうシミュレートを
『ジパング』は丁寧も行っています。

飛来する戦艦大和の46mm砲弾をミサイルで打ち落とすシーンは手に汗を握ります。


それは単なる戦力の比較のみならず、現代の「特殊な軍隊」である自衛官の
実際の交戦下でのメンタルの分析であったり、
「みらい」という超絶兵器を目にした山本五十六を始めとする日本海軍の反応であたり、
「みらい」を使って日本の未来を正そうとする、若き青年将校であったり、
そして、死に対する概念的認識と、現実的死とのギャップに目覚める自衛官の姿であたり、
石原莞爾や、山本五十六や、辻政信を「もしも」の歴史の中に配置するスリルであったり。

そういったSF的興奮がこの作品の中には溢れています。

そして、「ヤマト」と「ジパング」の根底に流れる共通の血は、
「もしもの歴史」を創造しようとする、歴史修正主義的な夢なのかも知れません。

オリジナルのヤマトに西崎プロデューサーが込めた思いは、
『ジパング』や『沈黙の艦隊』という「かわぐちかいじ」に引き継がれ、
『宇宙戦艦ヤマト2199』にはあまり感じられません。

エンタテーメントに徹していると言えば、それまでですが、
作品にはやはり作者のメッセージが必要であり、
その点が『宇宙戦艦ヤマト2199』に物足りなさを感じる原因なのかも知れません。

最後は批判めいてしまいましたが、
もうアニメなんて何十年も見ていない方が、
現代アニメの技術や、表現力を知るには最適な作品である事に変わりありません。

私、「真っ赤なスカーフ」を聞くだけでウルウルしちゃいした・・・。
それを、今風の女の子キャラがFMヤマトから放送する演出に拍手です。

「皆さんの懐かしの歌をお送りします!!」の皆さんとは、
ヤマトの乗員では無く「視聴者の皆さん」だったのですね。
ヤラレマシタ。