ペンギンの憂鬱

日々のうだうだ~読書と映画と酒と料理~

噂の女/奥田英朗

2015-12-18 | 読書
中古車店に毎晩クレームをつけに通う3人組、
麻雀に明け暮れるしがないサラリーマン、
パチンコで時間をつぶす失業保険受給中の女、
寺への寄進に文句たらたらの檀家たち―。
鬱屈した日々を送る彼らの前に現れた謎の女・美幸。
愛と悲哀と欲望渦巻く連作長編小説。
(「BOOK」データベースより)

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すごく面白い形の連作短編集でした。やっぱり奥田さん、すごいなぁ。

そして何といっても糸井美幸、スゲー
「女」という武器を持っていると、ここまで出来るのか!
小さな地方の町で、不満を抱えながらも日々過ごしている普通の人々。
仕事も、周りの人との付き合いも馴れ合いだが、そうしないことには
小さな世界では生きていけない。
そんな退屈な日常の中に現れる自由奔放で豪胆な女。

金持ちの男たちに取り入り、したたかにも確実にのし上がっていく悪女を
彼女自身ではなく、周囲の人間たちの感情とストーリーに焦点を当てて
表現しているところが秀逸なんだよね~。

美幸の周りで何人もの男性が死亡していることから、警察から取り調べの手が
伸びるが、彼女はまんまと行方をくらましてしまう。
はじめは眉をひそめて噂をしていた同級生の女たちも、最後は羨望の眼差しで
言う。

+++++++++++++++++
平凡な結婚をして子供を産んで、小さな建売住宅を買って、家事と育児と
ローンに追われ、田舎の女はそういう人生の船にしか乗れん。
でも糸井さんは、女の細腕で自分の船を漕ぎ出し、大海原を航行している。
金持ちの愛人を一人殺すぐらい、女には正当防衛。
田舎の普通の女がやれることで一番どデカイことをした彼女を尊敬する。
+++++++++++++++++

最後は颯爽と騙したお金を手に入れて飛んでいくという、妙に爽やかな
読後感!


⭐︎

微笑む人/貫井徳郎

2015-12-18 | 読書
エリート銀行員の仁藤俊実が「本が増えて家が手狭になった」という理由で
妻子を殺害。
小説家の「私」は事件をノンフィクションにまとめるべく取材を始めた。
「いい人」と評される仁藤だが、過去に遡るとその周辺で、不審死を遂げた
人物が他にもいることが判明し…。
戦慄のラストに驚愕必至!ミステリーの常識を超えた衝撃作、待望の文庫化。
(「BOOK」データベースより)

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いやーーーーーー!これは無いわ
これがミステリの新しい手法と言われても、私はNOですなぁ。

出だしから、妻子を殺した犯人は仁藤だと分かっている。
ただし動機が異常すぎて本当の事とは思えず、作家の「私」は仁藤の
本質に迫りたいと、同僚や同級生たちに取材を申し込み、本当の理由を
探ろうとする。
しかし、仁藤に対する周囲の評判はすこぶる良くて、悪く言う人は皆無。
皆が口を揃えて「彼に限って人なんか殺すはずはない。」と言う。
だが、大学、高校と過去を遡って調べれば調べるほど、彼の周囲で新たな
不審死が浮かび上がり、ますます仁藤への疑惑は深まっていき…

と、先が気になり、どんどん進んで行くんだけど、残りページ数が少なく
なってきても、なかなか話は進まず、大丈夫か!?と思っていたところ、
全然大丈夫じゃなーーーーーい
もう全然モヤモヤが止まんないから、ネタバレ覚悟で言うけどさぁ。
マスコミの報道のやり方を批判したかっただけ?

猟奇的殺人事件が起こると、なんちゃら評論家みたいな人が出てきて
勝手な想像と決めつけで犯人の心の闇を解き明かしたような気になっている
マスコミ全体への嫌味?

人は所詮、他人のことなど理解できない。
それが家族や友人であろうとも。
自分がよく知っているつもりでも実は「何ひとつ」知らないのではないか。
でも、分からないのは不安だから、分かったふりをして安心しようとしている。
大丈夫、私たちの周りにはそういう人はいないし、事件なんて起こらない、と。

でも、そんなことない。
あんなに穏やかで優しい隣人が。
知った時にはもう遅く、事件は起きている。

常識では考えられないような犯罪が増えている現代社会、
事件とヒントだけ提示するから読者一人一人が考えて答えを出してくれって
それは無いんじゃないのぉ~
これが究極のミステリなんて言わせない!


⭐⭐⭐⭐

真夜中のマーチ/奥田英朗

2015-12-12 | 読書
自称青年実業家のヨコケンこと横山健司は、仕込んだパーティーで三田総一郎と出会う。
財閥の御曹司かと思いきや、単なる商社のダメ社員だったミタゾウとヨコケンは、
わけありの現金強奪をもくろむが、謎の美女クロチェに邪魔されてしまう。
それぞれの思惑を抱えて手を組んだ3人は、美術詐欺のアガリ、10億円をターゲットに
完全犯罪を目指すが…!?
直木賞作家が放つ、痛快クライム・ノベルの傑作。
(「BOOK」データベースより)

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あー面白かった
愉快痛快、奥田風ジェットコースターノベルだよね~。
すごいスピード感で、とても途中では降りられません!
「最悪」「邪魔」よりテーマが軽快でユーモアもあり、読後感が爽やかです。
伊坂幸太郎のギャングシリーズに通じる楽しさかなぁ。

二転三転する事件展開、最後どうなるんだろう!というドキドキ感。
10億円の詰まった(と思われているが実は雑誌)ジュラルミンケースを
盗られたり取り返したり、ドリフかっ!っと突っ込み必至の
ドタバタ劇が超おもしろい

主人公三人のキャラクターもそれぞれ魅力的で、中でもミタゾウは抜群。
エリートの道を歩んできた一流会社に勤務しているのに、行動がどんくさく、
社内ではダメ社員扱い。
でも頭はよくて、変に冷静で度胸があり、ひょんなことから犯罪に巻き込まれるや
それを楽しむようにブレーンとして活躍していく様子が楽しい。
あと、クロチェの愛犬、ドーベルマンのストロベリーの活躍もたまんない

それにしても奥田さんの引き出しの多さには脱帽。
一人の作家が生み出す作品って、その人の色が強く出る傾向が多いのに
奥田さんの場合は、読む度に同じ人が書いているとは思えない新鮮な驚きが!
次はどういうテーマでどんな作品が生み出されるのかと思うと本当に楽しみ~。


⭐︎

人生ベストテン/角田光代

2015-12-12 | 読書
四十歳を目前にして、人生のイベントベストテンを自虐的に並べてみれば、
我が身には二十五年間、なにも起きてはいないのだ。
年相応の達成感も充実感 もない日々に愕然としながら、私は岸田有作に会に行く。
十三歳の夏に恋をした相手に―どこにでもある出会いが生み出す、
おかしくいとしいドラマ、全六篇。
(「BOOK」データベースより)

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イッセー尾形さんの解説にもあるように、誰もが抱える「行くあてのなさ」を
訥々とした語り口で表現する短編。
いかにも角ちゃんらしくて良かったです

内装業の見習いの若い男が、リフォーム先の部屋で愛想のない主婦が作る
昼食を気まずく一緒に食べる「床下の日常」
海外での一人旅の途中、潔癖性の母を連れ始終イライラしている娘と出会い
付きまとわれてしまう「観光旅行」
飛行機の隣の席でずっと泣いている女に、その後コンタクトをとろうとして
ストーカー呼ばわりされる「飛行機と水族館」
男性とのこじれた生活を解消するため、知らない街にマンションを買おうと
思い立ち、まだ若い不動産屋の男に苛立つ「テラスでお茶を」
離婚直前のモヤモヤした気持ちで若い男をレンタルした「貸し出しデート」

どれもありそうな話で、どこにもドラマチックな要素はなく、
ストーリーの起承転結もない。
ただ彼女たちの疲れた日常がそこにあり、日々は続いていく。
それが、読んでいて不思議な親近感を呼び起こすんだろうね。

それにしても表題作「人生ベストテン」は、ちょっと真似してみる価値あり

《寝付けない夜は、我が人生のイベントベストテンを思い浮かべる。
 祖母の死、大学合格、家出、恋愛、そして失恋…
 主だったできごとは全て18歳までに集約されている。》

なるほどね…。
一定の年齢を超えてしまうと、何か大興奮するようなイベントって
なかなか起こらないよね。自分の気持ち的にも。
自虐的にならない程度に、そういう暗い一人遊びをするのもまた一興かな

角ちゃんの考える事は、本当に面白い!


⭐︎

滝を見にいく

2015-12-01 | 映画
7人の中年女性たちは温泉付き紅葉ツアーと銘打った旅行に参加し、
それぞれが思い思いに山道の散策を楽しんでいた。
だが、彼女たちの先に立って案内していたツアーガイドの姿がこつぜんと消え
7人は山中に置き去りにされてしまう。
携帯もつながらず、食べる物も宿泊できる施設もない中、彼女たちは
サバイバル生活を余儀なくされ……。
(Yahoo!映画あらすじより)

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はっきり言って、今年イチの映画!めちゃくちゃ良かった
「南極料理人」の沖田修一監督なんですね。
いいですよ、沖田さん!

有名な俳優さんなんて一人も出てなくて、ただただおばちゃん7人が
滝を見に行くってだけの話です
…なのに、なんでしょう、この心を鷲掴みにされるカンジ!笑

おばちゃん達には人生が凝縮してるんです。
おばちゃん達の生命力はすごいんです。
おばちゃん達を舐めんなよーー!

うまく感想を表現できないような、何とも言えない映画ですが
40歳以上の女性が見れば、必ずや満足できること間違いなし

心があったかくなる素敵な映画でした


鑑定士と顔のない依頼人

2015-12-01 | 映画
天才的な審美眼を誇る美術鑑定士ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は
資産家の両親が遺した美術品を査定してほしいという依頼を受ける。
屋敷を訪ねるも依頼人の女性クレア(シルヴィア・フークス)は決して姿を現さず
不信感を抱くヴァージルだったが、歴史的価値を持つ美術品の一部を見つける。
その調査と共に依頼人の身辺を探る彼は…。
(Yahoo!映画あらすじより)

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うぉーーーーーーーーー!なんじゃこりゃあ
全く前情報入れずに見たのが、良かったのか?ここまで固まらせてくれるとは!
ほんとね、何映画かも知らなかったのよ。
題名からちょっとミステリーなのかな?と思いながら見てると途中から
ラブロマンス?だし。
うーーん。でもどこか違和感…と思いながらそれなりにテンポよく観てましたら…

で、あの終盤ね!
もー、びっくりしたわ
二度見必至のやつですよ。

名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督なの?
そのうえエンニオ・モリコーネの音楽に乗せてという贅沢?
なのに、うーーーん。

偏屈な美術鑑定士が、姿を見せない女性からの謎めいた鑑定依頼に翻弄されながらも
なぜか彼女に惹かれていくというストーリーは魅せる部分もありましたが
今、落ち着いてよーく考えたら
「やっぱり若いうちにいっぱい恋して恋愛免疫力つけとかんと、
 老人になってから、落とし穴にハマるよ。」
という教訓ミステリー映画なのでは!!笑

これは私みたいに何も前情報入れずに見た方が、刺激的で楽しめるかもね~
ともあれ、「英国王のスピーチ」のジェフリー・ラッシュがいいんだろうね。
さすがの演技でした