ここんとこずっと仕事が忙しくて、全く自分の時間がなく、大好きな読書も
映画もお酒も
ほとんどオアズケ状態。
買うだけ買って読んでない本も積んであるというのに、こんな疲れた時には、
やはり村上春樹に戻ってしまう・・・
今、読まなくたっていいでしょ、と自分にツッコミつつも、寝る前にまた
「蛍・納屋を焼く・その他の短編」をペラペラとめくっていたら、
チョーー今更ながら「めくらやなぎと眠る女」の出だしの文章のあまりの美しさに
衝撃を受けてしまった
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背筋をまっすぐにのばして目を閉じると、風のにおいがした。まるで果実のような
ふくらみを持った風だった。そこにはざらりとした果皮があり、果肉のぬめりがあり、
種子のつぶだちがあった。果肉が空中で砕けると、種子はやわらかな散弾となって、
僕の裸の腕にのめりこんだ。そしてそのあとに微かな痛みが残った。
風についてそんなふうに感じたのは久しぶりだった。長く東京にいるあいだに、
僕は五月の風が持つ奇妙な生々しさのことをすっかり忘れてしまっていた。
ある種の痛みの感触さえ、人は忘れ去ってしまうものなのだ。肌にのめりこんだ
何かが骨を浸すあの冷やかささえ、みんな忘れてしまう。
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故郷から離れ東京に暮らし、季節が変わることも忘れるほど働いて
ふと立ち止まり風を感じた時「まさに」この文章が心の深~いところに
響きます・・・
やはり、この人、天才です