
本の題名にもなっている「雪のチングルマ」なんですが、意味するところは「雪のつむじ風」です。チングルマのお花畑を見て山の虜になった方は多いはず。花後も風車となって秋には真っ赤な草紅葉と化し、長いこと楽しませてくれる低木でもあります。この時代ですと、大学山岳部特有の上下関係がもっと際立ってていいはずですが、そこは筆者の性格が現れてると思います。単なるうやむやの幽霊話ではなく、後をついてきた女性の結末もしっかり書かれてるので、後味がすっきりでした。
「羽毛服」はサスペンス仕立てで、鈴木はさもありなんって感じでしたけど、最後の「今度こそ安らかに眠れそうだった」というのはいかにも意味深ですよ。
「コブシの花の咲く頃」は、筆者がフィクションでありモデルはない、と断ってる通りやや構成に重きを置いた感が拭えません。真実は小説よりも奇なり、という諺があるように登場人物面々のキャラも弱いですね。しかしながら長いことホテルマンをやっていると、男女がどういう関係にあるのか瞬時に分かるのだろう、という捉え方はできました。
「春富士遭難」と「赤い徽章」では、巻末に近藤氏が書かれてるようにプロとアマの対比が見事でした。ガイドと素人クライマーの技術面での遣り取りもさることながら、むしろ男女の心理的駆け引きがよく表現されてると思いました。一般的にインストラクターと受講者という構図は、何を指導してるか分からないことがありますww