木はおしゃべりをしない。
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おしゃべりをして楽しめるのに、おしゃべりをしない。
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黙っている。黙って落ち着きが得られている。
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お喋りをして失う分もあることを知っているのだろう。
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お喋りは自己吹聴をする。自慢する。威張り散らす。つけあがる。相手を称えることも出来るが、逆に相手をみくびったりもする。自己卑下もする。がっくりもする。
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得られるのが半分、失うのが半分なんだ、きっと。
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そこでちょうどいいところで線引きをしたんだ、きっと。
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木はおしゃべりをしない。おしゃべりをしないで立っていられる。葉を茂らせていられる。花を咲かせていられる。実を実らせていられる。
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森に樫の木が聳えている。何十年もそこにそうしている。己を語ることをしない。
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己の正義を語ったりしない。己の存在意義を吹聴したりしないで居られる。
お昼は親子丼を作って貰った。おいしく頂いた。
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親子丼には、我が家の玉葱がふんだんに入っていた。
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玉葱を包丁で切るのは、お爺さんの役目だ。買って出る。
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たくさんは食べられない。丼に半分ほどで胃袋が満ちる。
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後は、おいしい嬉野茶を淹れてもらって、ごっくんごっくんした。
花を褒めているくらいで、いい。庭に咲いた花をひとりで褒めて暮らしているくらいの、暮らしでいい。
おだやかだ。静かだ。安らいでいられる。
もっともっともっといい暮らしがあるだろうけれど、もうすっかり老いた。もっともっとの追求欲望が力を維持できなくなっているようだ。これでいいのだ。ちょうどいいのだ。
今年は庭に矢車草が咲いた。花の前に立って眺めている。それで落ち着きが与えられる。
感じても、感じなくても、いい。感じなければならない、ということでもない。どちらでもいい。好きにしていていい。
でも、なんにも感じないで、無視されているより、わたしの魅力に、こころの針が触れてほしくもある。
庭に透かしユリが咲いて６月を爽やかにしてくれている。たくさんたくさん咲いている。
これはデージー？
清潔な純白色をして、すまし顔。
この春から、我が庭に棲んでいる。
いい気なもんだよ、全く。
遊んで遊んで、ひとり戯れて。
家庭菜園は楽しみごと、遊びごと。
胡瓜が実る。朝ごと実る。収穫は楽しい。
おいぼれ老人の楽しみはたわいない。
庭先にカーネーションが咲き誇っているが、足を止めて見てもらう機会が乏しい。
山里には人がいないから、しようがないことだけど。
一人で何人分もはできない。
カーネーションひっそり咲く。華やかであるのに、ひっそり咲く。
ダリアよダリア、美しいダリア、と話しかけると、ダリアが美しくなる。立ち上がって、美しい顔をわたしに向ける。
ダリアのこころがわたしに届く。わたしのこころがダリアに届く。こころが抱き合って、生きている互いを称え合う。
