新潮文庫(新潮社 改訂)-1995/1/30
内容(「BOOK」データベースより)
嵐の晩だった。雑誌記者の高坂昭吾は、車で東京に向かう道すがら、道端で自転車をパンクさせ、
立ち往生していた少年を拾った。何となく不思議なところがあるその少年、稲村慎司は言った。
「僕は超常能力者なんだ」。その言葉を証明するかのように、二人が走行中に遭遇した死亡事故の
真相を語り始めた。それが全ての始まりだったのだ…宮部みゆきのブロックバスター待望の文庫化。
第45回日本推理作家協会賞 長編部門受賞作品
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日頃読むのは海外ミステリがメインですが、時々宮部さんの作品が読みたくなります。
この作品を最初に読んだのは大昔、その後読み直しをしたのもかなり昔の事。今回が多分3回
目(かな?)の再再読です。
25年以上前の作品なので、当時の雰囲気が伝わってきます。
主人公は雑誌記者の高坂。 彼は結婚式直前に一方的な理不尽な理由により相手の女性から結婚を
破棄された過去を持っています。
そんな高坂が台風の中 車を運転中出会った少年稲村慎司は、台風で行方不明になった子供に関し
て奇妙な事を口にする。 自分は超能力者なのだと。
その後高坂の元に慎司の従兄弟と名乗る織田直也という若い男が訪ねて来て、慎司はいかさまであ
るので、彼の事は信じない様にと告げる。
高原は慎司の言う事が真実なのか、直也が正しいのか思い悩む。
そして、真実を知る為に二人の過去を調べ始める。
相手の心の中が読めてしまう為、誰とも繋がれないと諦め、密かに生きる事を選ぶ直也と、その
特殊な力を社会に役立てるべきだと考える慎司。
2人の考え方の違いは、それぞれの育った環境の違いによるものだろう。
同じ能力を持っていた大叔母がいた為、人とは異なる特殊能力を認め、心配しつつ見守る両親
に育てられた慎司。
過酷な幼少時代を過ごし、1人密かに生きて来た直也。
そんな直也が行方をくらませてしまう。
又高坂の元に差出人が書かれない強迫状の様な不審な手紙が届く様になる。
そして、元結婚相手であった小夜子の誘拐事件。
それらの事件がどの様に繋がってくるのか。 惹き込まれます。
高坂は直也を追ううち、彼がが唯一心を許していた七重を知ることになります。
彼女は幼い頃事故で声を失った女性で、心から直也を心配していますが、そんな七重に高坂は
惹かれて行きます。
小夜子と七重のキャラクターの対比が興味深い点です。
最後は物悲しい結果になりますが、それでも未来に明るい展望を見出す様なエンディングは
宮部さんらしさらしい優しさを感じます。
サイキックである事の苦悩、高坂に対する脅迫、誘拐事件と言ったサスペンスを扱いながら、
高坂の仲間である生駒のキャラクターが救いです。
いい加減なオヤジで怪しげな言動で和まされますが、このオヤジの優しさ、思いやり、高坂
との掛け合い漫才の様なやり取りが緩衝材の様な役割をしています。
≪『我々は身体のうちに、それぞれ一頭の龍を飼っている。底知れない力を秘めた、不可
思議な形の、眠れる龍を。そしてひとたびその龍が起きだしたなら、できることはもう祈る
ことだけしかない。どうか、どうか正しく生き延びることができますように。この身に恐ろ
しい災いのふりかかることがありませんように。私の内なる龍が、どうか私をお守りくださ
いますようにーただ、それだけを。≫
宮部さんの作品の中でも好きな作品です。
この作品はドラマ化された様ですが 観ていません。
私が持っている版は冒頭に乗せた表紙の物ですが(文中にもある 慎司が木に登っている)
こちらの表紙の版も出ている様です。
そうですか、お連れ合いがお好きなんですね。
時代物は読んでいないのですが、面白そうだとは思っています。宮部さんですもん。
「ぼんくら」はドラマでチラッと観た事があります。 今後ボチボチとトライしてみますね。