The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『秘密』 ケイト・モートン著

2019-03-28 | ブックレヴュー&情報
『秘密』上&下 : 創元推理文庫 -2019/1/30

”The Secret Keeper” 
ケイト・モートン(著)、青木純子(翻訳)

(2013年ハードカバー出版されていた作品の文庫化版です)

《内容紹介》
母はなぜ、あの見知らぬ男を殺したのか?『忘れられた花園』のモートンが再び誘う物語の迷宮。
翻訳ミステリー大賞・読者賞W受賞。ミステリ界の話題をさらった傑作、ついに文庫化!

翻訳ミステリー大賞・読者賞ダブル受賞
少女ローレルは庭のツリーハウスから、見知らぬ男が現われ母ドロシーに「やあ、ドロシー、久し
ぶりだね」と話しかけるのを見た。そして母はナイフで男を刺したのだ。男は死んだが、ローレル
は目撃したすべては話さず、事件は多発していた強盗事件のひとつとされ、母の正当防衛が認めら
れた。50年後、女優となったローレルは、死の床にある母の過去を知りたく思う。古い写真に母と
映る美しい女性は誰? あの事件は何だったのか?

以前書きました『湖畔荘』の前作で 順不同になってしまいましたが やっと読む機会を得ました。
この作品も多くの賞を受賞したそうで、
『このミステリーがすごい!2015年版』海外編 : 第2位
〈週間文春〉2014ミステリーベスト10海外編 : 第2位
『2015本格ミステリ・ベスト10』 海外ランキング :第8位
同時に、単行本出版時に翻訳家が年度内の最も読むべき作品を投票で選ぶ
翻訳ミステリ大賞、又読者投票によって選ばれる翻訳ミステリ読者賞も受賞しているとの事。

前回の『湖畔荘』が初読みだったのですが、モートン作品は独特の雰囲気を持つ ミステリであり
ながらロマンス小説の様な優美な文体、流れを持つ特徴のある作品だと感じました。

この作品も 現代(2011年のロンドン)、1961年のサフォーク、1940年のロンドンの3つの時代を
行き来します。

少女時代のローレルが庭にあるツリー・ハウスから偶然見てしまった光景。
赤ん坊の弟を腕に抱いた母親が突然現れた男を刺し殺してしまった。見知らぬ男は母に向かって
「やあ、ドロシーひさしぶりだね」と言っていたのを聞いたのです。そう、あの男は母を知って
いたのです。
この事件は目撃していたローレルの証言もあり、母の正当防衛と認められ無実となったのです。
しかし、60年後大女優となったローレルが死の床に臥せる母が偶然呟いた言葉が元になってあの
時の事件を思い出します。
あの男は誰だったのか?
あの日何故母はあの男を殺す事になったのか?
そして母の過去を、あの事件の真相を知りたいと思う様になり、事件当時赤ん坊で母の腕の中に
居た末の弟と共に調査を始める事になります。

3人の娘と1人の男の子を授かり 優しい夫と幸せな家庭を築いた母にはどのような過去、秘密が
あったのだろうか?
母の病室で見つけた古い写真に母と移っているヴィヴィアンという女性は一体誰で母とはどのよ
うな関係があったのか?
うわ言で口にしたジミーという名の男性は母とどの様な関係があったのか、そしてその後どう
なったのか?

ローレルが追う真相と平行して 第二次世界大戦中あるお屋敷に住み込みメイドとして働いて
いた若いドロシー、向かいの屋敷に住む作家夫婦、カメラマンで恋人のジミーという4人の視
点でそれぞれの経緯が語られていきます。
ドロシーが憧れ、嫉妬で観るヴィヴィアンとの関係は一方的で2人の会話も殆どなく違和感を
覚えるし、若い頃のドロシーと幸せな家族の中に居たドロシーとがなかなか一致せず 何がド
ロシーを変えたのだろうか・・・と。

そして、ロンドン大空襲の夜にドロシーとヴィヴィアンが会う場面が物語の初めの方と終わり
の部分2回描かれているのですが、それぞれ全く視点を変えてドロシーの視点とヴィヴィアン
の視点を一対の様にして描かれていて、下巻の同じ場面で”あッ!そういう事だったんだ!”と
謎が氷解するのです。

序盤はやや冗長な感じを受けるのですが、中盤から一気にアップテンポで進行します。
そして、アチコチに散りばめられていた伏線が次第にジグソーパズルを組み立てて行くように
収まっていく感動はケイト・モートンの職人芸の様な手法を感じさせられます。
最後は安堵に包まれた様な読後感、余韻に浸ることができました。

『湖畔荘』でも感じたのですが、ケイト・モートンの作品は ミステリでもあり、親子、夫婦、
家族の絆や人間ドラマをも感じさせられます。
ケイト・モートンの作品を読むとハマる方が多いと聞きますが、分かる様な気がします。

最後に、ストーリーとは直接関係ないのですが、作中で『ドクター・フー』に触れる部分があ
りました。 電話ボックスから電話をかけて来た弟とローレルの会話
「電話ボックスなんてまだあるの?」
「どうやらあるみたいだ。これがターディスでなければだけど・・・」
(”ターディス”は”ドクター・フー”に出て来るタイムマシン”時空移動装置”です。正しくは
”電話ボックス”ではなく”ポリスボックス”なんですけどね(笑) 
個人的にツボの部分でした。