知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

支払時期の規定がない場合の補償金請求権の消滅時効の起算点

2011-05-04 10:11:07 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)26849
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成23年04月21日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大鷹一郎

(1) 消滅時効の完成の有無
ア 原告の本件発明1に係る相当の対価の請求は,沖電線が本件特許権1の上記設定登録日から上記存続期間満了日までの間被告の許諾により本件発明1を実施したことに基づく実施料相当額をもって被告が本件発明1により受けるべき利益(特許法旧35条4項)であると主張するものであるから,被告各規程の定める実績補償に係る相当の対価を請求するものということができる。そして,実績補償に関しては,平成2年被告規程2が適用される。

 ところで,従業者等は,勤務規則等により,職務発明についての特許を受ける権利を使用者等に承継させたときは,相当の対価の支払を受ける権利を取得し(特許法旧35条3項),その対価の額については,特許法旧35条4項により勤務規則等による額が同項により算定される額に満たないときは算定される額に修正されるが,その対価の支払時期については,そのような規定はない
 そうすると,勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができないというべきであるから,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となり(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決民集57巻4号477頁参照),また,勤務規則等にそのような条項がない場合には,勤務規則等により支払うべき対価が発生したときが相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である。

イ 被告は,平成2年被告規程2の12条1項は,実績補償の支払時期について,実績補償の請求権を特許権の権利満了までの5年ごとに分割し,それぞれの期間の経過をもって支払時期が到来することを定めたものであり,・・・,最終期間の終期の翌日である平成8年9月30日が本件発明1に係る相当対価請求権の消滅時効の起算日となるものであるが,上記起算日から既に10年の時効期間が経過しているから,原告が主張する本件発明1に係る相当対価請求権はすべて消滅時効が完成している旨主張する。
・・・
 以上の諸点と本件特許権1が平成7年9月10日に存続期間満了により消滅していることを総合考慮すると,本件発明1に係る実績補償請求権の5年ごとの区分の最終期間に対応する支払時期は,遅くとも,被告が主張する平成8年9月30日までに到来していたものと認めるのが相当である。
 そうすると,原告主張の本件発明1に係る相当対価請求権(実績補償請求権に係る部分)の消滅時効の起算点は,上記の平成8年9月30日と解されるから,上記相当対価請求権は,同日から10年を経た平成18年9月30日の経過により消滅時効が完成したものと認められる。

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