知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

立体商標に商標法3条2項の適用を肯定した事例

2011-05-05 09:37:02 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10366
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 商標法3条2項の趣旨
 前記1のとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している。
 そして,立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,
① 当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否,
② 当該商標が使用された期間,商品の販売数量,広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情
を総合考慮して判断すべき
である。

 なお,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するが,機能を維持するため又は新商品の販売のため,商品等の形状を変更することもあり得ることに照らすと,使用に係る商品等の立体的形状が,出願に係る商標の形状と僅かな相違が存在しても,なお,立体的形状が需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

(2) 本願商標の商標法3条2項該当性
ア 商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否
(ア) ・・・,女性の身体をモチーフとした香水の容器の中でも,本願商標のような人間の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状は,他に見当たらない。
(イ) そして,本願商標に係る香水(・・・)が販売開始された平成5ないし6年以降,そのパッケージデザインないしボトルデザインについて,斬新,インパクト,刺激的,・・・といった評価が雑誌等に数多く採り上げられ,今日に至っている(・・・)。
・・・
イ 使用の実情
(ア) 原告は,フランスに本社を置く化粧品会社であり,資生堂のグループ会社である(甲2,3)。原告は,「JEAN PAUL GAULTIER」(ジャンポール・ゴルチエ)という香水のブランドを有している。
(イ) 原告は,平成5年,本願商標に係る立体的形状の容器に入れた香水・・・の販売を開始し,我が国においても,平成6年に販売を開始して,本件審決時まで販売を継続している(・・・)。我が国における・・・売上高は,平成16年以降,年間4500万円から5800万円程度である(甲135)。
(ウ) ・・・たびたび香水専門誌やファッション雑誌等に掲載され紹介されたり,広告されたりしている(・・・)。
(エ) 我が国で販売され,雑誌等に掲載されたジャンポール・ゴルチエ「クラシック」の形状は,本願商標とはごく僅かな形状の相違が存在するものもあるが,実質的にみてほぼ同一の形状である。
・・・
ウ 上記のとおり,本願商標の容器部分が女性の身体の形状をモチーフにしており,女性の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状の容器は,他に見当たらない特異性を有することからすると,本願商標の立体的形状は,需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであって,平成6年以降15年以上にわたって販売され,香水専門誌やファッション雑誌等に掲載されて使用をされてきたことに照らすと,本願商標の立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っており,香水等の取引者・需要者がこれをみれば,原告の販売に係る香水等であることを識別することができるといって差し支えない。

 以上の諸事情を総合すれば,本願商標は,指定商品に使用された場合,原告の販売に係る商品であることを認識することができ,商標法3条2項の要件を充足するというべきである。

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