知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

周知技術の適用を阻害する要因を認めた事例

2009-10-04 19:04:38 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10431
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

イ また,引用発明に周知例の技術を適用するに当たっては,以下のとおり,その適用を阻害する要因が存在するともいえる。

 すなわち,引用発明においては,細長いほぼ直線状の導電体の周囲に同軸的に円筒形のスリーブを配置し,その円筒形スリーブと嵌合するように環状コイルが配置され,環状コイルがほぼ直線状の導電体の周囲を取り囲むという構成を採用しているのに対し,周知例の技術では1次コイルと2次コイルが平面的に対向するように配置されており,引用発明と周知例の技術は,構造を異にしている
 そして,導電体と環状コイルとからなる,引用発明のトランスの構成に,上記周知例に記載されたトランスの構成を適用する場合,2次コイルである環状コイルは,直線状の導電体に直交する仮想的な平面上に,前記導電体を囲むように配置されることが必要となる。
 しかし,周知例に記載されたトランスは,平面状コイルを形成した絶縁基板を積層するものであり,平面上の1次コイルと2次コイルは,互いに平行な基板面上に形成され,引用発明の導電体と環状コイルの配置関係と,周知例に記載されたトランスにおける1次コイルと2次コイルの配置は,構造上の相違が存することから,引用発明に周知例の構成を適用することには,困難性があるというべきである。

 また,引用発明に周知例に記載された技術を適用することを想定した場合,まず,引用発明においてはほぼ直線状の導電体とすることにより導電体によるインピーダンスの発生が抑制されているのに対し,引用発明の導電体に対応する周知例の1次コイルは渦巻状であって導体長が長く,それ自体がインピーダンスとして働く余地があり,この点でも引用発明に周知例の技術を適用しようとするに当たっての阻害要因となる。

 さらに,引用発明においては,電力メーター用電流感知トランスジューサーとして,需要家に供給される電力の正確な測定ということが技術的課題とされ,そのために,環状コイルに作用する外因性磁場による悪影響の排除という課題が存在するのに対して,周知例の技術においては,専ら1次コイルと2次コイルの磁気結合の強化ということが技術的課題とされていて,外部磁界による磁気干渉は,格別考慮する必要がない点において,引用発明に周知例の技術を適用しようとするに当たっての阻害要因となり得る。

 以上のとおり,引用発明に周知例の技術を適用することには,課題の共通性や動機付けがなく,また,その適用には阻害要因があるというべきであるから,当業者が引用発明に周知例の技術を適用して本願発明に至ることが容易であったということはできない。

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