知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

請求項自体として明確か

2007-11-18 12:00:17 | 特許法36条6項
事件番号 平成19(行ケ)10075
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年11月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

『1 取消事由1(特許法36条6項2号該当性判断の誤り)について
(1) 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,補正事項(a)に係る「多重繊維を空気で1m当たり25~40絡み合わせた」との記載があるが,「25~40」には単位が付されていないから,この数値の意味が特許請求の範囲の記載から一義的に明確であるということはできず,ひいて,「多重繊維を空気で1m当たり25~40絡み合わせた」との構成の技術的意義が明確ではない

(2) 本願明細書の発明の詳細な説明には,多重繊維を絡み合わせることに関連する次の記載がある。
ア「多重繊維を絡み合わせて用いることがさらに有利であり,1メートル当たり25~40node空気で絡み合わせることが最も適切である。」(段落【0009】)
イ「混合糸は,紡糸口金を通した溶融紡糸により製造され,紡糸口金には太い繊維のための孔と細い繊維のための孔が交互に並べて配置されている。これは,太い繊維と細い繊維の混合を絡み合わせの前に行う際に有利である。通常,単一のポリマーが用いられる。」(段落【0010】)
ウ「結節数(nodes/m)」(段落【0014】【表1】中の項目欄)

(3) 上記(2)の各記載によれば,請求項1の「多重繊維を空気で1m当たり25~40絡み合わせた」との記載に係る「25~40」は,「25~40node」のことであること,「node」は「結節数」の単位であり,「1m当たり25~40」は,「1m当たり25~40個の結節」との意味であることを,一応読み取ることができる
 しかしながら,上記のように読み取ることは,発明の詳細な説明の記載を参酌して初めて可能となったことであり,特許請求の範囲の請求項1自体としては,「特許請求の範囲の記載が,特許を受けようとする発明が明確であるものでなければならない」とする特許法36条6項2号所定の要件に適合しないものといわざるを得ない。』


(所感)
 査定系の審決に対する貴重な判例の一つ。私はこの判決は正当であると考える。

 査定系と当事者系では36条の適用の仕方が異なるとされる。特許成立後は、記載不備のないことが推定され、不備があっても限定解釈を行うことがある。特許に記載不備があっても訴訟を起こさなければそれを確定できないのである。(http://ip-hanrei.sblo.jp/article/5594655.html,その他論文複数。)

 審査主義の重要な役割は紛争を未然に防ぎ社会コストを下げることである。そして、社会コストを下げるためには、特許請求の範囲の明確性を含む記載要件の審査が大変重要である。

 明確性等を十分に担保しなければ権利が乱用され、最後の砦といわれる司法にたよるにも、経済的負担がのしかかる。萎縮効果がうまれ産業の発展が阻害される虞が強い。特にSmall Businessにとっては、不適切な権利で殺傷権を握られることになりかねず、大変なことであろう。

最新の画像もっと見る