知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

物の発明の実施可能要件

2008-04-13 23:43:44 | 特許法36条4項
事件番号 平成19(行ケ)10171
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年04月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『本願発明は,所定の条件下で測定した比Hdd/Hdeが4以上を呈するという特性を有する複合磁性体を材料とする電磁干渉抑制体及びその製造方法の発明であると認められる。
 そうすると,本願発明(請求項1)において,所定の条件下で測定した比Hdd/Hdeが4以上を呈するという複合磁性体の特性は,あくまでその磁気損失特性が優れていることの数値的指標として,複合磁性体を特定する意味を有しているものであって,かかる特性自体が開示されたからと言って,同複合磁性体の製造方法が開示されたことにはならない
 そして,物の発明については,どのように作るかについて具体的な記載がなくても明細書の記載や技術常識に基づき当業者がその物を製造できる場合を除き,製造方法を具体的に記載しなければならないというべきであり,本願発明(請求項1)も物の発明であるから,製造条件によって特定された複合磁性体を内容としていないとしても,本願明細書(甲2,5)の実施可能要件を満たすため,上記のような意味で,製造方法の具体的な記載が必要であることを左右することはできない。

 さらに,原告が,本願明細書(甲2,5)の実施例に記載された製造条件とそこから一義的に定まる条件に当業者の技術常識を加味すれば決定できる旨主張する条件は,前記2(3)ア,イ(ア)~(ウ),ウで説示したとおり,本願発明(請求項1)の電磁干渉抑制体の材料としての,比Hdd/Hdeが4以上を呈する優れた磁気損失特性を有する複合磁性体を得る目的のために,扁平状の形状を有する軟磁性体粉末をできる限り同じ方向に並べるようにしてその配向度を改善するために設定する条件として開示すべき重要な事項であると認められる。
 そして,これらが,本願明細書(甲2,5)の実施例に記載された製造条件とそこから一義的に定まる条件に当業者の技術常識を加味すれば容易に決定される事項とみることができる具体的な根拠もないから,原告が主張するように,本願発明の電磁干渉抑制体に対する示唆及びその特性に対する目標値を与えれば周知技術を使用している限り当業者が容易にかつ任意に実現できるということはできない。』


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