知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明細書を参酌して用語の意義を検討し、特許発明の範囲を限定的に認定した事例

2009-05-10 20:53:03 | 特許法70条
事件番号 平成18(ネ)10075
事件名 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日 平成21年04月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中信義

1 争点2-3(構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」がルイス酸抑制効果を有するか)について
(1) 構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」の技術的意義について
 ・・・

イ(ア) 上記アの各記載によれば,麻酔薬として広く用いられるセボフルラン(フルオロエーテル化合物)は,容器内壁に存在するルイス酸(・・・)と接触すると,容器由来ルイス酸がセボフルラン中のアルファフルオロエーテル部分を攻撃することにより,皮膚や粘膜に有害なフッ化水素酸を含む分解産物に分解される(・・・)との問題があったところ,本件特許発明は,安定したセボフルランの貯蔵方法を提供するため,ルイス酸の空軌道に電子を供与してルイス酸との間に共有結合を形成することによりルイス酸と上記アルファフルオロエーテル部分との反応を妨げるような性質を有する物質(・・・),もって,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解を防止することを目的とするものであるといえる。
 したがって,本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」とは,上記性質を有する物質であって,容器由来ルイス酸を中和し,もって,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解を防止するとの作用効果をもたらすものであると認められる

 このように,本件特許発明においては,ルイス酸抑制剤により容器由来ルイス酸を中和することを手段として,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との作用効果を実現するものであるから,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止が容器由来ルイス酸の中和と関係なく実現される場合には,ルイス酸抑制剤が,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解を防止するとの作用効果をもたらすとはいえず,そのような場合におけるルイス酸抑制剤は,本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」に該当しないものと解するのが相当である。
 換言すれば,本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」に該当するためには,当該ルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和と容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係が認められることを要すると解すべきである。そして,本件特許発明の上記目的及び上記アの本件明細書の各記載によれば,本件特許発明は,ルイス酸抑制剤による容器内壁の被覆後,容器内壁とセボフルランとが接触することを当然の前提にしているものと解される
 したがって,容器由来ルイス酸とセボフルランとが接触するものと認められない場合,例えば,物理的な要因により,セボフルランの通常の貯蔵条件下及び貯蔵期間内における容器内壁とセボフルランとの接触が完全に又は著しく妨げられる場合(・・・)には,容器由来ルイス酸とセボフルランとの接触があるものとは認め難く,それ故,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止とルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係があると認めることはできないものと解するのが相当である。
 ・・・

(3) 上記(1)及び(2)によれば,構成dにおいては,EPRにルイス酸抑制剤としての作用効果があると仮定してみても,ルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和と容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係があると認めることはできないから,構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」が構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」に該当するということはできない
 その他,構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」が構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」に該当するものと認めるに足りる証拠はない。



<原審>
事件番号 平成17(ワ)10524
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成18年09月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟


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