知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

社交ダンスの振り付けの著作物性

2012-03-17 09:52:35 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)9300
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年02月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(2) 社交ダンスの振り付けの著作物性について
ア 社交ダンスが,原則として,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを自由に組み合わせて踊られるものであることは前記(1)アのとおりであり,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップは,ごく短いものであり,かつ,社交ダンスで一般的に用いられるごくありふれたものであるから,これらに著作物性は認められない
 また,基本ステップの諸要素にアレンジを加えることも一般的に行われていることであり,前記のとおり基本ステップがごく短いものでありふれたものであるといえることに照らすと,基本ステップにアレンジを加えたとしても,アレンジの対象となった基本ステップを認識することができるようなものは,基本ステップの範ちゅうに属するありふれたものとして著作物性は認められない

 社交ダンスの振り付けにおいて,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れることがあることは前記(1)アのとおりであるが,このような新しいステップや身体の動きは,既存のステップと組み合わされて社交ダンスの振り付け全体を構成する一部分となる短いものにとどまるということができる。このような短い身体の動き自体に著作物性を認め,特定の者にその独占を認めることは,本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することになりかねず,妥当でない

 以上によれば,社交ダンスの振り付けを構成する要素である個々のステップや身体の動き自体には,著作物性は認められないというべきである。

イ 前記(1)アのとおり,社交ダンスの振り付けとは,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを組み合わせ,これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すことである。このような既存のステップの組合せを基本とする社交ダンスの振り付けが著作物に該当するというためには,それが単なる既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であると解するのが相当である。
 なぜなら,社交ダンスは,そもそも既存のステップを適宜自由に組み合わせて踊られることが前提とされているものであり,競技者のみならず一般の愛好家にも広く踊られていることにかんがみると,振り付けについての独創性を緩和し,組合せに何らかの特徴があれば著作物性が認められるとすると,わずかな差異を有するにすぎない無数の振り付けについて著作権が成立し,特定の者の独占が許されることになる結果,振り付けの自由度が過度に制約されることになりかねないからである。このことは,既存のステップの組合せに加えて,アレンジを加えたステップや,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを組み合わせた場合であっても同様であるというべきである。

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