知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

発明特定事項の効果を含めた用語の解釈をした事例

2010-02-27 10:04:04 | 特許法70条
事件番号 平成21(行ケ)10139
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年02月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2) 上記(1)の記載によれば,
本件補正後の請求項1における
「ウェハに第1の圧力を与えながら,平坦化を行なうために表面を化学機械研磨するステップと,前記研磨スラリーの窮乏領域を減じるように化学機械研磨の間第1の圧力を第2の圧力へ断続的に複数回減じてパルス状の圧力を作り出すステップ」
の技術的意義は,
「ウェハの表面を高速の材料除去速度で均一に平坦化するために,化学機械加工処理の間,ウェハに与えた第1の圧力を第2の圧力へ断続的に複数回減じてパルス状の圧力を作り出して,該パルス状の圧力によって,『研磨スラリーを研磨パッドに塗布するステップ』により塗布された研磨スラリーを研磨パッド上のスラリー窮乏領域に行き渡らせるように移動させ,ウェハの表面を平坦化する」
ものであると認められる。

 そして,本願発明において,研磨スラリーを研磨パッド上のスラリー窮乏領域に行き渡らせるように移動させる作用効果は,第1の圧力から第2の圧力へ減じることを断続的に繰り返すことによってもたらされるものと解される

 なお,研磨スラリーの供給については,上記請求項1には「研磨スラリーを研磨パッドに塗布するステップ」という記載しかなく,図3に記載されている装置も,典型的なCMP装置の例として記載されているにすぎないから,本願発明において研磨スラリーの供給方法は特定されていないというべ
きである。
・・・

4 取消事由1(本願発明の要旨認定の誤り)について
(1) 前記2認定のとおり,本願発明は,
「ウェハの表面を高速の材料除去速度で均一に平坦化するために,化学機械加工処理の間,ウェハに与えた第1の圧力を第2の圧力へ断続的に複数回減じてパルス状の圧力を作り出して,該パルス状の圧力によって,『研磨スラリーを研磨パッドに塗布するステップ』により塗布された研磨スラリーを研磨パッド上のスラリー窮乏領域に行き渡らせるように移動させ,ウェハの表面を平坦化する」
ものである。
 したがって,本件補正後の請求項1の「パルス状の圧力を作り出す」という用語は,第1の圧力を第2の圧力へ断続的に減じることでパルス状の圧力を積極的に作り出して研磨スラリーに作用させ,研磨パッド上に研磨スラリーを行き渡らせるようにするものであると解することができるから,その旨の原告の主張を認めることができる。

(2) 被告は,上記請求項1の「パルス状の圧力を作り出す」という用語は,単に「第1の圧力を第2の圧力へ断続的に複数回減じ」てパルス状に変化する圧力を作り出すことを意味していることは明確であると主張するが,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,特許出願に関する一件書類に含まれる発明の詳細な説明の記載や図面をも参酌して,その技術的意義を明らかにした上で,技術的に意味のある解釈をすべきである
 そうすると,上記請求項1の「パルス状の圧力を作り出す」という用語は,上記のとおり解釈することができるのであって,「研磨パッド上に研磨スラリーを行き渡らせるようにする」ことは,「パルス状の圧力を作り出す」ことの結果として起きる現象であるとしても,それを用語の解釈に含めることができないという理由はない

最新の画像もっと見る