知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

先に出願した背信的悪意者に特許を受ける権利を対抗できるとした事例

2010-02-27 10:27:16 | Weblog
事件番号 平成21(ネ)10017
事件名 特許を受ける権利の確認等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年02月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

5 争点(5)〔被控訴人は背信的悪意者であるので本件特許を受ける権利の取得を控訴人に対抗できないか〕について
・・・
(2) 被控訴人は,控訴人において,本件特許を受ける権利につき特許出願を経ていないから,本件特許を受ける権利の承継を被控訴人に対抗することができない(特許法34条1項)旨を抗弁するのに対し,控訴人は,被控訴人において,Aからの本件特許を受ける権利の譲受けにつき背信的悪意者である旨主張するので,この点を検討する。

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イ上記の事実関係を踏まえて検討すると,控訴人のもとで平成15年8月23日に完成した本件発明は,被控訴人においてそのままの形で平成16年6月14日に特許出願がされたということができる。
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 そうすると,Aは,控訴人との秘密保持契約に違反して,本件発明に関する秘密を被控訴人に開示したということができる。
 そして,上記アの事実からすると,被控訴人の代表者であるFは,平成16年6月14日までの間に(ただし,Aから被控訴人への譲渡証書[乙21]は平成16年7月2日付け)被控訴人がAから本件発明の特許を受ける権利の譲渡を受けた際,同発明について特許出願がされていないこと及び本件発明はAが控訴人の従業員としてなしたものであることを知ったというべきである。
 そして,Fは,Aから本件発明について開示を受けてそのまま特許出願しかつ製品化することは,控訴人の秘密を取得して被控訴人がそれを営業に用いることになると認識していたというべきであり,さらに,本件発明はAが控訴人の従業員としてなしたものであることからすると,通常は,控訴人に承継されているであろうことも認識していたというべきである。

 このように,被控訴人の特許出願は,控訴人において職務発明としてされた控訴人の秘密である本件発明を取得して,そのことを知りながらそのまま出願したものと評価することができるから,被控訴人は「背信的悪意者」に当たるというべきであり,被控訴人が先に特許出願したからといって,それをもって控訴人に対抗することができるとするのは,信義誠実の原則に反して許されず,控訴人は,本件特許を受ける権利の承継を被控訴人に対抗することができるというべきである。
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エ 以上のとおり,被控訴人が先に特許出願したからといって,それをもって控訴人に対抗することができるとするのは,信義誠実の原則に反し許されないというべきであり,控訴人は,自ら特許出願をしなくとも,本件特許を受ける権利の承継を被控訴人に対抗することができるというべきである。

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