知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

事実・見解の表明と著作権による排他権の成立、不法行為の成否

2012-07-14 09:00:31 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)13060
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年07月05日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 谷有恒

  ・・・
イ このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との間に,外形的表現としての同一性が認められることが必要で,さらに,同一性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(著作権法2条1項1号)。そして,「創作的」に表現されたというためには,筆者の何らかの個性が表現されたものであれば足り,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることまでは必要ないが,文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,これを創作的な表現ということはできない。

ウ 本件において,原告は,被告による被告著作物部分の記述又は発言は,P3の浮世絵についての独自の研究成果を盗用したものであるとして,複製又は翻案に当たる旨主張する。
 しかしながら,前述のとおり,原告記述部分と被告著作物部分とを対比して同一又は類似するといえる部分があるとしても,それが思想又は感情の創作的表現の同一性の問題ではなく,表現から抽出される又は表現が前提とする,思想,発想又はアイデアにおける同一性,あるいは事実又は事件における同一性の問題にすぎないときは,当該被告著作物部分の記述又発言は,複製又は翻案に該当するとはいえない。また,原告記述部分が何らかの歴史的事実に言及し,これに対する見解を述べるものであったとしても,そのような事実,見解自体について,排他的権利が成立するものではなく,これと同じ事実,見解を表明することが,著作権法上禁止されるいわれはない
 ・・・

2 争点2(一般不法行為の成否)について
(1) 原告は,原告の祖父P3は,長年の調査・研究により,・・・ユニークな結論にたどりついたところ,被告は,上記P3の労苦にただ乗りして,名声を上げ,かつ経済的利益を上げたことから,不法行為が成立すると主張する。

(2) この点,著作権法は,著作物の独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしているが,同法下では,思想又は感情を創作的に表現したものについて,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利が認められる一方,何びとかが,何らかの歴史的事実及びそれに対する見解を公表した後に,それと同一の事実について同一の見解を表明することは禁止されていない。
 このような著作権法の規定に鑑みると,ある著作物の中に,先行著作物と何らかの歴史的事実及びそれに対する見解を共通にする部分があったとしても,創作的な表現としての同一性が認められないのであれば,著作権法が規律の対象とする権利あるいは利益とは異なる法的に保護された利益を違法に侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。

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