知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

歴史的事実を素材として叙述されたノンフィクション作品の保護の対象

2010-02-07 11:07:16 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)1586
事件名 著作権侵害差止等請求反訴事件
裁判年月日 平成22年01月29日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎


1 争点1(被告らによる原告の複製権又は翻案権侵害の成否)について
 原告は,
 別紙対比表1の各原告書籍記述部分(下線部分)はそれぞれが表現上の創作性を有する著作物であり,同対比表の各被告書籍記述部分(下線部分)は上記各原告書籍記述部分と表現上の同一性又は類似性を有し,また,
 別紙対比表2,3,仙之助及び正造を主人公とした章全体の各原告書籍記述部分とこれらに対応する各被告書籍記述部分は,歴史的事実が共通するのみならず,表現方法,事実の取捨選択,配列等の創作的部分において同一性又は類似性を有し,
 しかも,被告書籍は原告書籍に依拠して執筆されたものであるから,上記各被告書籍記述部分は,上記各原告書籍記述部分を複製又は翻案したものである旨主張する。


 ところで,原告書籍のように,歴史的事実を素材として叙述されたノンフィクション作品においては,基礎資料からどのような歴史的事実を取捨選択し,その歴史的事実をどのように評価し,どのような視点から,どのような筋の運び,ストーリー展開,言い回し,語句等を用いて具体的に叙述したかといった点に筆者の個性が現れるものといえるが,著作権法は,思想又は感情の創作的表現を保護するものであり(同法2条1項1号参照),思想,感情又はアイデア,事実又は事件など表現それ自体でないものや,表現であっても,表現上の創作性がない部分は保護の対象とするものではないから,ノンフィクション作品においても,叙述された表現のうち,表現上の創作性を有する部分のみが著作権法の保護の対象となるものであり,素材である歴史的事実そのものや特定の歴史的事実を取捨選択したことそれ自体には著作権法の保護が及ぶものではないものと解される。

 そして,複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により著作物を有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号参照),また,言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解されるから(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照),被告書籍記述部分がこれに対応する原告書籍記述部分の複製又は翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,被告書籍記述部分において,原告書籍記述部分における創作的表現を再製したかどうか,あるいは,原告書籍記述部分の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある

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