知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明確性を否定した事例

2012-06-03 23:30:24 | 特許法36条6項
事件番号 平成24(行ケ)10021
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2 取消事由2(明確性の要件に係る判断の誤り)について
(1) 本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13の明確性について
・・・
 本件審決は,本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13が前の請求項を引用していないため,これらの請求項に記載された「真円ロータリーエンジン」がどのような構造を有しているか不明確である旨を説示している

 そこで検討すると,本件出願日当時の技術常識によれば,「真円ロータリーエンジン」とは,・・・いわゆる「ロータリーエンジン」のうち,ロータ室の形状が繭型ではなく真円であるもの」を指すものと解されるが,それ以上に,何らかの特定の構成を備えており,あるいは上記の各構成が特定の形状に限定されていることを積極的に意味するものとは認められない。

 以上の本件出願日当時の技術常識から明らかとされる真円ロータリーエンジンを前提として本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13に記載をみると,そこに記載の「真円ロータリーエンジン」は,それぞれ燃焼室,排気弁室及び排微出入(請求項2),前微出入及び吸弦前部(請求項3),後微出入及び吸弦後部(請求項4),吸微出入,通気部及び袖部(請求項5),前微出入及び排弦前部(請求項6),後微出入及び排弦後部(請求項7),排微出入,通気部及び袖部(請求項8),燃焼室及び前微出入(請求項9),吸入回転弁枠,燃焼室及び混合ガスを送り込む手段(請求項11)並びにプラグ濡れ防止枠(請求項13)との構成が,何らかの基本的な構成に付加されたものと理解できる。
 そして,これらの付加された構成の意義は,一義的に明らかではないから,本件補正明細書等の発明の詳細な説明及び図面を参酌すると,これらの構成は,いずれも本件補正発明1という特定の構成を備えた「真円ロータリーエンジン」を前提としたうえで,これに付加された構成であることが明らかであって,本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13が請求項1を引用していない以上,単に本件出願日当時の技術常識から明らかとされる,上記認定の,ロータ室の形状が繭型ではなく真円であるもの以上に,何らかの特定の構成を備えており,あるいはエンジン内部の各構成が特定の形状に限定されていることを積極的に意味するものとは認められない真円ロータリーエンジンにそのまま適用できるものではない

 したがって,本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13において「真円ロータリーエンジン」に付加される各構成は,これらの請求項が請求項1を引用していない以上,それ自体では意義が明らかであるとはいえず,本件出願日当時の技術常識から明らかとされる上記真円ロータリーエンジンにそのような構成を適用することもできないから,本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13は,いずれも,そこに記載の発明が明確ではないというほかない。

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