知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

数値限定の技術的意義と臨界的意義

2008-04-09 06:37:42 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10298
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年03月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

『イ 審決が上記周知技術として引用するところによれば,鉄心の断面が長円形状のものを用いたソレノイドにおいても,コイル巻数,コイル一巻きの巻数の平均長さ,コイル巻線の断面積,鉄心の断面積を等しくすれば,短幅や吸引力を等しくすることができることについては周知技術であると認められる。

 しかし,本願発明は,上記のとおりコイルにおける短軸側の巻外径Wを一定にした場合に,固定鉄心及び可動鉄心の断面形状は円よりも長円または略長方形にしたほうが同じ鉄心断面積であっても吸引力が大きくなる点に注目し,その観点から相違点1に係るd=(0.4~0.8)Wとの式を求めたものであるから,この点に関し上記引用例には記載も示唆もされていないことからして,上記周知技術の内容から本願発明の相違点1に係る構成を容易に想到できたとすることはできないというべきである。
・・・
 したがって,本願発明は,長円にした際に,単に吸引力を発揮することを目的としたものではなく,コイルの巻外径Wが一定であることを前提として,かつ同じ鉄心断面積であっても円よりも吸引力が大きくなるようにしたものであり,単に鉄心の断面形状を円から長円にしたものではなく,また①d=(0.4~0.8)Wとの点,②1.3≦a/b≦3.0との点のいずれの数値限定についても,既に検討したとおりそれなりの技術的意義を有するものであるから,単に臨界的意義を見出すことができないとのみすることは妥当ではない。』

『(2) 上記2で検討したとおり,本願発明は,「・・・」(特許請求の範囲)ことを特徴とするものである。
 すなわち,・・・を特定するものである。

 そして,このような構成とすることにより,コイル巻外径Wが一定のもとで,鉄心断面積を変更せずに,投下コストを増大させることなく吸引力を増大させたものである。上記「d=(0.4~0.8)Wの関係」の数値はコイル巻外径Wが一定のもとで鉄心断面積を変更しないことを規定するためのものであり,また「1.3≦a/b≦3.0」の数値はコイル巻外径Wが一定のもとで鉄心断面積を変更しないことを前提に投下コストを増大させることなく吸引力を増大させる範囲を定めるための数値であり,これらは,その数値範囲の内外における臨界的現象から数値を規定したものではない

 したがって,上記「1.3≦a/b≦3.0」の数値限定について臨界的意義を見出せないとし,また「ソレノイドの断面形状としての長円であれば,かかる数値限定の範囲に属する長円は普通に実施されているというべきものであり,その数値限定の範囲が格別のものともいえない」(審決5頁13行~15行)として,相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到できたとする審決の判断は誤りというべきである。』

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