知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

出願人の別件特許出願を副引例から主引例に置き換えた場合

2008-04-08 07:03:13 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10074
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年03月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義


『・・・以上のとおり,審決は,拒絶査定において主たる引用例とされていた甲2刊行物ではなく,甲1刊行物を主たる引用例として,補正発明4と対比し,判断したものである。

(4) 一般に,出願に係る発明と対比する対象である主たる引用例が異なれば,一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる進歩性の判断の内容も異なることになる。したがって,審決において,拒絶査定における主たる引用例と異なる刊行物を主たる引用例として判断しようとするときは,原則として,特許法159条2項で準用する50条本文の定めに従い,拒絶理由を通知して,出願人に対し意見書を提出する機会を与えるべきであり,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り,通知を懈怠してされた審決の手続は違法である

 本件においては,審決における主たる引用例(甲1刊行物)は,拒絶査定における主たる引用例(甲2刊行物)と異なる刊行物であり,甲1刊行物については,出願人(原告)に対して拒絶理由通知がされていない。そこで,上記の特段の事情の有無を検討することにする。

(5) 被告は,上記の特段の事情として,①甲1発明は,甲2発明とともに,空気の浄化を行う装置である点で補正発明4と同一の技術分野に属し,補正発明4との一致点及び相違点はその記載から容易に判断することができること,②甲1刊行物は原告本人による特許出願に係る刊行物であり,原告はその技術を熟知している上,平成18年4月10日付け意見書(甲第18号証)及び審判請求における請求の理由(甲第24号証)中で,甲1発明と補正発明4との相違点を指摘していることからみて,周知例としてであっても甲1刊行物が通知されているから,原告は,甲2発明のみならず,甲1刊行物に記載された技術内容についても検討を行い,意見を述べる機会があったと主張する。

ア まず,補正発明4と甲1発明及び甲2発明の属する技術分野が同一であっても,甲1発明と対比するか,甲2発明と対比するかによって一致点及び相違点は異なり得ることは明らかである。また,主たる引用例は,その性質上,同一又は類似の技術分野のものであることは当然であり,技術分野が同一であることから,直ちに一致点及び相違点の認定が「容易に判断」されるものではない。したがって,被告の主張する①の事情は,特段の事情となり得るものではない。

イ 被告は,甲1刊行物が原告本人による特許出願に係る刊行物であることを挙げるが,発明の内容を熟知しているからといって,直ちに審判官の視点に立って甲2刊行物を主たる引用例とした場合の一致点及び相違点の違いまで認識することができるとする根拠はない

 また,被告は,原告が甲第18及び第24号証において甲1発明と補正発明4との相違点を指摘していることを挙げる。しかし,甲第18及び第24号証によれば,原告は,いずれの機会においても甲2刊行物との対比判断に対する意見を中心にして検討していることは明らかであり,甲1刊行物についての意見は付随的なものにすぎないものと認められるのであって,主たる引用例記載の発明と周知技術の組合せを検討する場合に,周知例として挙げられた文献記載の発明と補正発明4との相違点を検討することはあり得るから,甲1発明と補正発明4との相違点を指摘しているからといって,甲1刊行物を主たる引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない
したがって,被告の主張する②の事情も,特段の事情といえるほどのものではない。

ウ以上のとおり,本件において,拒絶理由通知の懈怠があっても,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。』

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