知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

阻害要因があるとされた事例

2008-03-16 12:17:22 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10095
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年03月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『取消事由4(相違点1の容易想到性判断の誤り)について
(1) 原告は,引用発明の構成における接着剤層(5)を着色することは容易想到であるとした審決の判断は誤りである旨主張するので,この点について検討する。

 前記3(1)ウに述べたとおり,引用発明は再帰反射シート,中でも交通標職や電飾サイン装置等の表示又は装飾装置に用いる再帰反射シートに関するものであるが,引用発明の構成は,従来技術においては光反射層が全面に設けられているため前方側から光を照射したときにのみ効果があり,光反射層の後方側から光を照射した場合には前方からこの光を観察し得ないという課題を踏まえ,これを解決するための技術的特徴を備えるものであって,具体的には,光反射層の前方からの再帰反射光及び後方からの透過光をいずれも観察できるように,光反射層(例えばアルミニウム層)に所定パターン(例えば市松模様)の光透過部分を形成する点に技術的特徴を有するものである。

 したがって,このような引用発明の意義ないし技術的特徴に鑑みれば,引用発明における光透過部分は光を透過し得るものであることを必須の構成とするものである
 なお,引用発明は,光透過部分の光透過率は光透過部分の幅及び光反射層の幅を適当に選択することでコントロールすることができるものとされ・・・,上記光透過部分の幅の調整や付加的構成を前提としても光透過部分の光透過率がなくなることは想定されていないというべきである。

 これに対し本願発明は,前記2(3)に述べたとおり,典型的には高速道路の建設及び補修作業者並びに消防士により着用される衣服において使用される再帰反射製品であり,従前,蛍光の地色部分と再帰反射機能を有する部分とを個別に作製して縞形態に貼り合わせることによって着用者の存在を目立たせていた従来技術に対し,再帰反射縞(第1セグメント)と着色セグメント(第2セグメント)とを2種の異なるセグメントを含む単一の構築物として形成することによって,第1セグメントの再帰反射領域が離層ないし基材から分離しないとか,より少ない層で済むため衣服の総重量を減らしその柔軟性を高めるとか,第2セグメントは,第1セグメントと同程度に再帰反射性ではないものの,上記従来製品の非再帰反射性の蛍光色部分よりも高い再帰反射性を有するなどといった効用を図ったものである。

 このような本願発明の意義ないし技術的特徴に鑑みれば,相違点1に係る本願発明における着色バインダー層の構成は,蛍光色を典型とする目立つ色で着色されることを予定しており,しかも第2セグメント部分において従来技術のものよりも高い再帰反射性を有することが期待されていることからすれば,少なくとも着色バインダー層が透明ないし光透過性のものであることは予定されていないと認められる。

 そうすると,引用発明の光透過部分を本願発明の着色バインダー層のように蛍光色を典型とする目立つ色で着色し,光透過性でないものにすることは,引用発明の必須の構成である光透過部分の光透過性を喪失させることにほかならないから,相違点1の構成を引用発明から容易想到ということはできない。』

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