事件番号 平成14(行ケ)370
裁判年月日 平成15年09月29日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美
『1 取消事由1(除斥期間の経過)について
(1) 本件審判請求及びその後の審判手続の経緯は,次のとおりである(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)。
ア 被告は,商標法47条所定の5年の除斥期間が経過する直前である平成8年11月28日(本件商標権の設定登録日は平成3年11月29日),本件審判請求をした。
イ その審判請求書には,「請求人」として被告の名称及び住所が,「被請求人」として原告の名称及び住所がそれぞれ特定して記載されているほか,「請求の趣旨」として「商標登録第2357409号の登録は無効とする。」と記載されるとともに,証拠として,本件商標に係る商標公報及び商標登録原簿の写し(甲2の1,2,審判甲1,2)が添付されていたが, 「請求の理由」については,「本件登録第2357409号商標(以下「本件商標」という)は甲第一号証及び第二号証に示すとおりのもので商標法第4条第1項第8号,同法第4条第1項第11号及び同法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから,同法第46条の規定により,その登録は無効とされるべきものである。なお,詳細な理由及び証拠は追って補充する。」とのみ記載されていた(乙1)。
ウ 本件審判請求事件を担当する特許庁審判長(以下,単に「審判長」という。)は,平成9年1月10日付け「手続補正指令書(方式)」により,被告に対し,同指令書発送の日(同月24日)から30日以内に,請求の理由を記載した適正な審判請求書を提出すること等を命じた(乙2)。
エ 被告は,同年2月18日,手続補正書(方式)により,請求の理由を更に具体的に記載して補正し,証拠として審判甲3~14を添付した審判請求書を提出した(乙3)。
・・・』
『(2) 商標法56条1項において準用する特許法131条1項3号は,審判を請求する者は,請求の趣旨及びその理由を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないと規定し,商標法46条1項は,柱書前段において,商標登録が次の各号の一に該当するときは,その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができると規定し,1号ないし5号において,無効理由を列挙している。他方,商標法47条は,商標登録が同法4条1項8号若しくは11号に違反してされたとき,又は同項15号に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)は,その商標登録に係る無効審判は,商標権の設定登録の日から5年を経過した後は請求することができない旨規定する。
この除斥期間の定めは,上記のような私益的規定に違反して商標登録がされたときであっても,一定の期間無効審判の請求がなく経過したときは,その既存の法律状態を尊重し,当該商標登録の瑕疵を争い得ないものとして,権利関係の安定を図るとの趣旨に出たものであるから,上記の私益的規定の違反を無効理由とする無効審判の請求人が商標法47条の規定の適用を排除するためには,除斥期間の経過前に,各無効理由ごとに1個の請求として特定された請求の趣旨及びその理由を記載した請求書を特許庁長官に提出することを要するものというべきである(なお,最高裁昭和58年2月17日第一小法廷判決・判例時報1082号125頁参照)。』
『(3) 本件において,無効審判の請求人である被告が除斥期間経過前である平成8年11月28日に提出した本件審判請求の審判請求書(以下「当初請求書」という。)には,本件商標の商標登録を無効にするとの請求の趣旨が記載され,無効審判の対象となる登録商標が特定されるとともに,請求の理由において,本件商標は商標法4条1項8号,同項11号,同項15号の各規定に違反して登録された旨の記載はあったものの,具体的な無効理由を構成する事実の主張は記載されておらず,もとより,それを裏付ける証拠も一切提出されていなかったものであるから,少なくとも,同項8号及び11号の規定に基づく無効理由に関する限り,当初請求書が提出された時点で,各無効理由ごとに1個の請求として特定された無効審判請求の定立があったものと認めることはできない。したがって,被告が,手続補正書(方式)により,具体的な無効理由を記載した審判請求書を提出した平成9年2月18日の時点で,新たに同項8号及び11号に基づく新たな無効審判の請求を定立したものとみるほかはないが,その時点では,本件商標の商標登録について無効審判請求の除斥期間は既に経過していたことが明らかであるから,結局,補正による新たな無効審判請求の定立は許されないというべきである。
(4) しかしながら,商標法4条1項15号の規定に基づく無効理由については,後記3及び4で判示するとおり,被告がその業務に係る商品に使用する表示が我が国のファッション関連分野における取引者,需要者の間で周知であったとの事情等をも参酌すべきである。すなわち,当初請求書においては,上記(1)イのとおり,請求人である被告の「バレンチノ グローブ ベスローテン フェンノートシャップ」との名称が記載され,請求の理由として,本件商標は商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものである旨,換言すれば,本件商標が他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標である旨が記載されていたのであって,後記3(2)のとおり,被告がその業務に係る商品に使用していた「VALENTINO」,「Valentino」,「valentino」,「ヴァレンティノ」又は「バレンチノ」との表示が,我が国の婦人服,紳士服等のファッション関連分野における取引者,需要者にとって周知であること,本件商品の指定商品と被告の業務に係る商品とが極めて密接な関連性を有しており,当初請求書が提出された当時においても,取引者の一人である被請求人の原告においては上記表示を当然に知っていたと認められること(弁論の全趣旨),被告の社名に上記「バレンチノ」の語が含まれていること等の事情に照らせば,上記のような当初請求書の記載は,本件商標につき,請求人である被告が,その業務に係る商品に使用する上記の表示との関係で混同を生ずるおそれがある商標である旨の無効理由を記載して主張しているのと同視し得るものというべきであって,このように解しても,原告の防御や法的安定性に欠けるところはない。そうすると,商標法4条1項15号の規定に基づく無効理由については,当初請求書により,実質的に1個の請求として特定された無効審判の請求が定立されていたとみることができるから,当該無効理由に関する限り,本件審判請求は,同法47条の規定による除斥期間を徒過したものとはいえないと解するのが相当である。
(5) 以上によれば,本件無効審判請求は,除斥期間内に請求されたものであって,その請求を却下すべきものではないとした審決の判断は,商標法4条1項15号の規定に基づく無効理由に関する限り,結論において相当であり,かつ,審決は,上記第2の3のとおり,同号違反を理由として本件商標の登録を無効としたものであるから,結局,原告の取消事由1の主張は理由がない。』
裁判年月日 平成15年09月29日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美
『1 取消事由1(除斥期間の経過)について
(1) 本件審判請求及びその後の審判手続の経緯は,次のとおりである(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)。
ア 被告は,商標法47条所定の5年の除斥期間が経過する直前である平成8年11月28日(本件商標権の設定登録日は平成3年11月29日),本件審判請求をした。
イ その審判請求書には,「請求人」として被告の名称及び住所が,「被請求人」として原告の名称及び住所がそれぞれ特定して記載されているほか,「請求の趣旨」として「商標登録第2357409号の登録は無効とする。」と記載されるとともに,証拠として,本件商標に係る商標公報及び商標登録原簿の写し(甲2の1,2,審判甲1,2)が添付されていたが, 「請求の理由」については,「本件登録第2357409号商標(以下「本件商標」という)は甲第一号証及び第二号証に示すとおりのもので商標法第4条第1項第8号,同法第4条第1項第11号及び同法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから,同法第46条の規定により,その登録は無効とされるべきものである。なお,詳細な理由及び証拠は追って補充する。」とのみ記載されていた(乙1)。
ウ 本件審判請求事件を担当する特許庁審判長(以下,単に「審判長」という。)は,平成9年1月10日付け「手続補正指令書(方式)」により,被告に対し,同指令書発送の日(同月24日)から30日以内に,請求の理由を記載した適正な審判請求書を提出すること等を命じた(乙2)。
エ 被告は,同年2月18日,手続補正書(方式)により,請求の理由を更に具体的に記載して補正し,証拠として審判甲3~14を添付した審判請求書を提出した(乙3)。
・・・』
『(2) 商標法56条1項において準用する特許法131条1項3号は,審判を請求する者は,請求の趣旨及びその理由を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないと規定し,商標法46条1項は,柱書前段において,商標登録が次の各号の一に該当するときは,その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができると規定し,1号ないし5号において,無効理由を列挙している。他方,商標法47条は,商標登録が同法4条1項8号若しくは11号に違反してされたとき,又は同項15号に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)は,その商標登録に係る無効審判は,商標権の設定登録の日から5年を経過した後は請求することができない旨規定する。
この除斥期間の定めは,上記のような私益的規定に違反して商標登録がされたときであっても,一定の期間無効審判の請求がなく経過したときは,その既存の法律状態を尊重し,当該商標登録の瑕疵を争い得ないものとして,権利関係の安定を図るとの趣旨に出たものであるから,上記の私益的規定の違反を無効理由とする無効審判の請求人が商標法47条の規定の適用を排除するためには,除斥期間の経過前に,各無効理由ごとに1個の請求として特定された請求の趣旨及びその理由を記載した請求書を特許庁長官に提出することを要するものというべきである(なお,最高裁昭和58年2月17日第一小法廷判決・判例時報1082号125頁参照)。』
『(3) 本件において,無効審判の請求人である被告が除斥期間経過前である平成8年11月28日に提出した本件審判請求の審判請求書(以下「当初請求書」という。)には,本件商標の商標登録を無効にするとの請求の趣旨が記載され,無効審判の対象となる登録商標が特定されるとともに,請求の理由において,本件商標は商標法4条1項8号,同項11号,同項15号の各規定に違反して登録された旨の記載はあったものの,具体的な無効理由を構成する事実の主張は記載されておらず,もとより,それを裏付ける証拠も一切提出されていなかったものであるから,少なくとも,同項8号及び11号の規定に基づく無効理由に関する限り,当初請求書が提出された時点で,各無効理由ごとに1個の請求として特定された無効審判請求の定立があったものと認めることはできない。したがって,被告が,手続補正書(方式)により,具体的な無効理由を記載した審判請求書を提出した平成9年2月18日の時点で,新たに同項8号及び11号に基づく新たな無効審判の請求を定立したものとみるほかはないが,その時点では,本件商標の商標登録について無効審判請求の除斥期間は既に経過していたことが明らかであるから,結局,補正による新たな無効審判請求の定立は許されないというべきである。
(4) しかしながら,商標法4条1項15号の規定に基づく無効理由については,後記3及び4で判示するとおり,被告がその業務に係る商品に使用する表示が我が国のファッション関連分野における取引者,需要者の間で周知であったとの事情等をも参酌すべきである。すなわち,当初請求書においては,上記(1)イのとおり,請求人である被告の「バレンチノ グローブ ベスローテン フェンノートシャップ」との名称が記載され,請求の理由として,本件商標は商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものである旨,換言すれば,本件商標が他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標である旨が記載されていたのであって,後記3(2)のとおり,被告がその業務に係る商品に使用していた「VALENTINO」,「Valentino」,「valentino」,「ヴァレンティノ」又は「バレンチノ」との表示が,我が国の婦人服,紳士服等のファッション関連分野における取引者,需要者にとって周知であること,本件商品の指定商品と被告の業務に係る商品とが極めて密接な関連性を有しており,当初請求書が提出された当時においても,取引者の一人である被請求人の原告においては上記表示を当然に知っていたと認められること(弁論の全趣旨),被告の社名に上記「バレンチノ」の語が含まれていること等の事情に照らせば,上記のような当初請求書の記載は,本件商標につき,請求人である被告が,その業務に係る商品に使用する上記の表示との関係で混同を生ずるおそれがある商標である旨の無効理由を記載して主張しているのと同視し得るものというべきであって,このように解しても,原告の防御や法的安定性に欠けるところはない。そうすると,商標法4条1項15号の規定に基づく無効理由については,当初請求書により,実質的に1個の請求として特定された無効審判の請求が定立されていたとみることができるから,当該無効理由に関する限り,本件審判請求は,同法47条の規定による除斥期間を徒過したものとはいえないと解するのが相当である。
(5) 以上によれば,本件無効審判請求は,除斥期間内に請求されたものであって,その請求を却下すべきものではないとした審決の判断は,商標法4条1項15号の規定に基づく無効理由に関する限り,結論において相当であり,かつ,審決は,上記第2の3のとおり,同号違反を理由として本件商標の登録を無効としたものであるから,結局,原告の取消事由1の主張は理由がない。』