知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

阻害要因を認めつつ組み立て論理を変更し容易性を肯定した事例

2007-10-07 12:21:57 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10211
事件名 審決取消当事者参加事件
裁判年月日 平成19年10月02日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『3 取消事由2について
(1) 当事者参加人は,刊行物2の記載は,平成10年11月改訂の防護柵の設置基準に適合する,橋梁・高架などの構造物上に設置されるビーム型防護柵に限定される技術であり,また,ビームの材料は鋼材,ステンレス鋼材,アルミニウム合金製に限られるから,本願発明と刊行物1発明との相違点2に関連する各ビームの位置関係を道路に直接設置する木製防護柵である刊行物1発明に適用したとしても,防護柵の設置基準に適合するものにならないから,刊行物2記載の技術を刊行物1発明に適用する動機付けがなく,・・・想到容易でないと主張するので以下この点について判断する。

(2) 刊行物2(甲2)は,「防護柵の設置基準・同解説」(平成10年11月30日,日本道路協会発行)であるところ,その96頁には「別添2」との小見出しと共に,「橋梁用ビーム型防護柵設計方法」との表題が付され,以下の記載がある。
・・・
(6) しかし,刊行物1発明は,木材ビームを用いた木製防護柵であるところ,ビームの径や構造,材質自体の強度などにも影響されるものの,木材ビームと,上記「2.1)」で規定する「断面が丸または四角型の閉断面になっている,鋼材(球状黒鉛鋳鉄品を含む),ステンレス鋼材,アルミニウム合金材製の横梁」とでは,例えば「付表-1・1」で規定される「横梁の極限曲げモーメント」など,その強度に大きな違いがあることは明らかである
 そうすると,少なくとも横梁が上記「2.1)」に該当するものであることを前提とし,「横梁の極限曲げモーメント」を含む当該設計諸元を満足しなければならないと位置付けられた,甲2の「付表-1・1 設計諸元」及びこれを満足する一例として示される「付図-18」に記載された各数値データについて,「横梁の極限曲げモーメント」などの強度を抜きにして,そのまま刊行物1発明に適用したとしても,いかなる性能が得られるのか,当業者であっても予測の限りでないというべきである

 しかるに,刊行物1発明にあっても,安全基準に適合させるかどうかはさておき,木材ビームの高さ,間隔など木製防護柵の設計に際しては,当業者であれば,搭乗者や車両等が衝突時に受ける衝撃を回避又は緩和するために所望の性能を得ることを重要な観点として設計するものというべきところ,刊行物2の各数値データをそのまま刊行物1発明に適用したとしても,いかなる性能が得られるのか予測の限りでないことに照らせば,刊行物1発明に刊行物2記載の技術を適用する動機付けがあるとはいえない。』


『(9) しかし,以下に検討するように,上記取消事由1に関する誤りも含め,審決の上記誤りは,結論を左右するものではない
 上記のとおり,刊行物1発明にあっても,木材ビームの高さ,間隔など木製防護柵の設計に際しては,当業者であれば,搭乗者や車両等が衝突時に受ける衝撃を回避または緩和するために所望の性能を得ることを重要な観点として設計するものというべきところ,刊行物2(甲2)及び甲6は,平成10年11月30日,日本道路協会発行(同年改訂版第1刷)の「防護柵の設置基準・同解説」であって,同基準は,搭乗者や車両等が衝突時に受ける衝撃を回避又は緩和するための所望の性能について規定するものであり(甲6,15頁~17頁),これは,同基準の内容について当業者に広く知らしめる性格の刊行物と解されることからすれば,同基準,すなわち,安全基準は,本願出願前に,当業者にとって周知のものであったといえる(ちなみに,本願明細書〔甲3〕の段落【0005】【0006】においても,同基準について言及がされ,本願発明の前提として位置付けられていることが明らかである。)。
そうすると,刊行物1発明について,所望の性能を得るべく,木材ビームの高さ,間隔など木製防護柵を設計するに際して,同基準,すなわち,安全基準に適合させるとの観点を念頭におくことは,当業者として当然考慮して然るべきことであり,刊行物1発明は路側部に設置する木製防護柵であるところ,刊行物2には,防護柵の一種である橋梁用ビーム型防護柵の設計諸元として,ブロックアウト量(支柱の最前面から横梁最前面までの距離),主要横梁上面高さ,下段横梁中心高さが規定されていることからすれば,上記設計に際して,相違点2において本願発明が規定する,路面から最下段木材ビーム下面までの高さ,各木材ビーム間の間隔(主要横梁の高さと下段横梁の高さから導き得るものである。),路面から最上段木材ビーム上面までの高さ,及び,木材ビームの支柱から道路側への張り出し寸法を考慮すべき要素とすることにも,格別の困難を要するものとは認められない。』

(所感)
 審決をみると、刊行物2の数値をそのまま刊行物1に適用するように論理が構成されている。たしかにその論理付けには無理があると思う。

 動機付けについては、このところ各判決において丁寧に判示されており判例の蓄積が進んでいる。
 これまでの判例は、動機付けに当たっては各刊行物の個別事情が考慮されるが、その個別事情とは刊行物の具体的認定に対応した個別事情である、ということに一般化できるように思う。考え方として妥当だと思う。

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