知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

拘束力に反する認定、周知例を主引例にすげ替え

2006-07-11 22:16:49 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10683
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年06月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 中野哲弘

(拘束力に反する認定)
『特許に関する審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理・審決をするが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理・審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
そして,前記のとおり,平成16年4月1日になされた第1次審決は,平成17年5月12日の知財高裁による第1次判決により取り消され同判決は確定したのであるから,本件審決を担当する審判官は第1次判決の有する拘束力の下で判断しなければならないこととなる。』
『本件審決は,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについて,①ICカードの残高を読み取り,処理をした後に,ICカードに残高に書き戻すか,②センターの残高ファイルから残高を読み込み,処理をした後に,ICカードに残高を書き込むか,のいずれであるかであると認定している。
 しかし,第1次判決は,前記のとおり,「刊行物1のICカードを銀行カードとして用いるのであれば,ICカードから『残額』を読み取り,出金後にこれを更新するという動作をしているものではないといわなければならない。」,「銀行口座の真の残高をICカードに記憶させることがあると認めることはできない。」と認定しており,刊行物1のICカードから「残高」を読み取ったり,「(真の)残高」をICカードに記載することはない旨の認定をしているということができるから,本件審決の上記認定は,①はもとより,②も,第1次判決の認定に反するものといわざるを得ない。
 したがって,本件審決における刊行物1発明のICカードを用いたシステムについての上記認定は,第1次判決の上記認定と抵触し,同判決の拘束力に反するものであって,許されないものである。
 そして,本件審決は,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについての上記認定に基づいて,本願発明と刊行物1発明との「本願発明が,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された情報を処理して,新たな情報を情報記憶カードに記憶させる第4の工程を有するのに対し,刊行物1にはその点についての記載がない点」という相違点(相違点2)について容易に発明することができたとの判断をしているのであるから,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについての上記認定が本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。』


(反論の機会の有無)
『(1) 原告らは,本件審決の「判断その2」は,原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされたから,特許法159条2項で準用する同法50条に違反すると主張するので,以下,検討する。
(2) 審判官は,拒絶査定不服審判において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項で準用する同法50条)。
(3) 本件審決の「判断その2」は,特開昭63-79170号公報(甲7の1)に記載された技術は,周知技術であるとして,これを本願発明を対比して,一致点,相違点を認定し,相違点については,刊行物1に記載の技術に基づいて当業者が容易になし得たなどと判断したものである(前記第3の1(3)イ参照)。
この判断は,本件審決書の記載によれば,特開昭63-79170号公報(甲7の1)に記載された技術を「周知技術」と称しているものの,その実質は,特開昭63-79170号公報(甲7の1)を主引用例とし,刊行物1を補助引用例として,本願発明について進歩性の判断をして,進歩性を否定したものと解される。そして,甲10,11及び弁論の全趣旨によると,主引用例に当たる特開昭63-79170号公報(甲7の1)は,拒絶査定の理由とはされていなかったものである上,これまで,審査,審判において,原告らに示されたことがなかったものであることが認められる。
そうすると,審判官は,本件審決の「判断その2」をするに当たっては,原告らに対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならなかったものということができる。したがって,原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされた本件審決の「判断その2」は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものであり,その程度は審決の結論に影響を及ぼす重大なものである。
(4)アこれに対し,被告は,本件審決は,特許法29条2項違反を理由とするものであるから,拒絶査定と根拠法条が同じであること,出願時の技術常識や周知技術を認定するに当たって,原告らに意見を述べる機会を与える必要はないことからすると,原告らに意見を述べる機会を与えなかったとしても違法ではないと主張する。
しかし,本件審決の「判断その2」は,上記のとおり拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしたものである。
このように主引用例に当たる文献が異なるにもかかわらず,拒絶査定と根拠法条が同じであるというのみで,原告らに意見を述べる機会を与える必要がないということはできない。もっとも,発明の持つ技術的な意義を明らかにするなどのために出願時の技術常識や周知技術を参酌した場合には,それらについて特許出願人に意見を述べる機会を与える必要がないが,本件審決の「判断その2」は,そのような場合に当たらないことは明らかである。』

最新の画像もっと見る