知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

サポート要件の判断事例(無鉛はんだ合金事件 第3次無効審判請求)

2009-10-04 18:31:18 | 特許法36条6項
事件番号 平成20(行ケ)10484
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(4)  本件特許の請求項1に記載の「金属間化合物の発生を抑制し,流動性が向上した」ことについて,本件訂正後の明細書(甲3)の「発明の詳細な説明」には,上記(2)ウ(ウ)~(カ)のとおり,無鉛はんだ合金の構成を「Snを主とし,これに,Cuを0.3~0.7重量%,Niを0.04~0.1重量%加えた」ものとすることによって,「金属間化合物の発生が抑制され,流動性が向上した」ことが記載されており,その理由として,CuとNiは互いにあらゆる割合で溶け合う全固溶の関係にあることが記載されているから,特許請求の範囲に記載された「金属間化合物の発生を抑制し,流動性が向上した」発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であって,かつ発明の詳細な説明の記載により当業者が上記の本件発明1の課題を解決できると認識できるものであると認められる。

(5) 被告らは,本件訂正後の明細書(甲3)の「流動性が向上」という記載は,一般的な溶融状態のはんだの性質以上の,これを発明特定事項とするはんだの性質を把握・理解し,評価する根拠とはならないと主張する

 しかし,上記の「流動性が向上」については,「金属間化合物の発生を抑制する」というその意義が記載されている
 そして,甲5(・・・)に・・・と記載されているように,本件特許出願前から,はんだ付け作業における金属間化合物の発生については広く知られていたものと認められる(甲5,16は,「無鉛はんだ」について述べたものではないが,そうであるとしても,はんだ付け作業における金属間化合物の発生について知られていたことの証拠とはなり得るものである)。
 そうすると,上記の「流動性が向上」という記載は,はんだ付け作業時に必要とされるはんだの性質を特定したものであって,はんだの性質を把握・理解し,評価する根拠となるものであるということができる

(6) もっとも,本件訂正後の明細書(甲3)の「発明の詳細な説明」には,「金属間化合物の発生を抑制し,流動性が向上した」ことについての具体的な測定結果は記載されていない。

 確かに,数値限定に臨界的な意義がある発明など,数値範囲に特徴がある発明であれば,その数値に臨界的な意義があることを示す具体的な測定結果がなければ,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できない場合があり得る

 しかし,本件全証拠によるも,本件優先権主張日前に「Snを主として,これに,CuとNiを加える」ことによって「金属間化合物の発生が抑制され,流動性が向上した」発明(又はそのような発明を容易に想到し得る発明)が存したとは認められないから,本件発明1の特徴的な部分は,「Snを主として,これに,CuとNiを加える」ことによって「金属間化合物の発生が抑制され,流動性が向上した」ことにあり,CuとNiの数値限定は,望ましい数値範囲を示したものにすぎないから,上記で述べたような意味において具体的な測定結果をもって裏付けられている必要はないというべきである。

(7) そして,本件特許出願前から,CuとNiは互いにあらゆる割合で溶け合う全固溶の関係にあることは広く知られていたと認められる(・・・)から,NiがCuのSnに対する反応を抑制する作用を行わしめるものであると考えることは,「Snを主として,これに,CuとNiを加える」ことによって「金属間化合物の発生が抑制され,流動性が向上した」理由の説明としては不合理ではない。

 したがって,本件訂正後の明細書(甲3)の記載において,従来の金属間化合物発生等で生じた流動性の問題がなく,フローめっき(噴流めっき)に適していることが,Cu-Sn系から出発したNiの添加の場合も,Ni-Sn系から出発したCuの添加の場合も確認されており,その原因については,NiとCuの全固溶関係という上記技術常識及びCuSn金属間化合物が生じた場合は流動性に問題を生じるという上記技術常識を考慮すれば,NiがCuのSnに対する反応を抑制する作用を行わせることの裏付けとしてはなされているというべきである。

(8) 以上述べたところからすると,本件発明1についての本件訂正後の明細書(甲3)は特許法旧36条6項1号に適合するというべきであるから,これに反する審決の判断には誤りがあるというべきである。そして,本件発明2~4は,いずれも本件発明1を引用したものであるから,本件発明1と同様に特許法36条6項1号に適合しないとした審決の判断にも誤りがあることになる。

<同一特許に対する判決 結論はいずれも逆>
平成20年9月8日になされた第2次無効審判に関する審決取消訴訟の判決

平成20年3月3日になされた大阪地裁判決(第2次無効審判請求に関連する民事訴訟)
(上記2裁判では特許権者側の証拠は優先権日後の実験結果であった。)

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