知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明細書の従来技術を主引例とするときの反論の機会

2006-12-29 09:40:24 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10262
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 中野哲弘

『2 取消事由1(手続違背-特許法159条2項の準用する同法50条違反)に
ついて
ア 証拠(甲1~9,21~24,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,原告による本件出願から審決に至る経緯は,次のとおりであったことが認められる。
・・・省略・・・
イ 上記認定事実によれば原告は,平成6年3月21日になした本願の明細書の発明の詳細な説明の冒頭において,刊行物1について言及し,同刊行物に記載された内容が公知である旨述べているが,その後平成13年6月12日付けでなされた特許庁審査官からの拒絶理由通知書(甲7)には刊行物1についての言及は一切なく,これに対して原告が提出した平成13年11月26日付けの意見書(乙1)にも刊行物1について触れる記載はなく,平成14年1月7日付けでなされた拒絶査定(甲8)も,前記拒絶理由通知を引用したものであったこと,そして,平成18年1月30日になされた本件審決において刊行物1が主引用例とされ,前記拒絶理由通知書(甲7)及び原告の意見書(乙1)で取り上げられた刊行物2は周知技術を示す一例とされたことが,それぞれ認められる。
そこで,以上の事実認定に基づき原告主張の取消事由1について判断する。』

『ア 前記認定のとおり,平成18年1月30日付けでなされた本件審決は,刊行物1を主引用例とし,刊行物2を補助引用例として,本願発明について進歩性の判断をして,進歩性を否定したものであるが,主引用例に当たる刊行物1(西ドイツ特許出願公開明細書DE3707032号。甲2。なお,刊行物1に係る出願を基礎とするパリ条約による日本国への優先権主張出願の公開公報は,特開昭63-230039号公報〔甲3〕)は,拒絶査定の理由とはされていなかったものである上,これまでの審査・審判において,原告に示されたことがなかったものであることが認められる。
 そうすると,審判官は,特許法159条2項が準用する同法50条により,審決において上記判断をするに当たっては,出願人たる原告に対し,前記内容の拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならなかったものということができる。したがって,原告に意見を述べる機会を与えることなくされた審決の上記判断は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものであり,その程度は審決の結論に影響を及ぼす重大なものというべきである。』

『まず被告は,本願明細書の記載内容及び刊行物1の構成等を考慮すれば,原告は「DE3707032号明細書」(刊行物1,甲2)に記載の技術的内容について本願発明の出願時点からこれを熟知していたから,審決を取り消すべき手続上の違法性はない,と主張する。
 しかし,仮に被告主張のような本願明細書の記載内容及び刊行物1の構成等を考慮することにより原告が刊行物1に記載の技術内容について熟知していたといえるとしても,主引用例に当たる刊行物1が,拒絶査定の理由とはされておらず,審査・審判において原告に示されたことがなかったものであることに変わりはないのであって,なお原告は,審判官から,本願発明を従来発明と対比することにつき意見書を提出する機会を与えられるべきであったと解するのが相当である。』

『次に被告は,審決が刊行物1から従来発明として引用したものは「水中で長期間安定であり,水に不溶性で,かつ水質を損わない押出物の形態であり,8%の残量水分,2~8重量%の結合剤(Zement)を含む観賞魚の休日用魚餌」。という技術的事項に止まるから,その旨を改めて拒絶理由として通知されなくても,原告は十分認識できていたと主張する。
 しかし,審決は,刊行物1を,発明のもつ技術的な意義を明らかにするなどのために出願時の技術常識や周知技術として参酌したものではなく,刊行物1を主引用例とし刊行物2を補助引用例として,本願発明について進歩性の判断をし,進歩性を否定したものと認められる。
 このように,審決は,拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしたものである以上,主引用例に当たる刊行物が異なるにもかかわらずこれを技術的事項に止まるものであるとして,原告に意見を述べる機会を与える必要がないということはできない
。』

『次に被告は,拒絶理由通知の理由は,その適用条文として「特許法第29条第2項」を示したものであって,本願発明が刊行物2に記載された発明であるという特許法29条第1項第3号をその適用条文として示しているものではない,と主張する。
しかし,前記のとおり,審決は,拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしたものであって,そうである以上,主引用例に当たる文献が異なるにもかかわらず,拒絶査定と根拠法条が同じであるというのみで,原告に意見を述べる機会を与える必要がないということはできない。』

次に被告は,本願発明は刊行物1(DE3707032号明細書)と比べて改良された部分に特徴があるとして刊行物2に関する拒絶理由通知が提示されたのは明らかであり,原告も刊行物1を念頭におき,従来の長期飼料として刊行物1に記載された飼料を前提としてそれと比べて改良された部分に特徴があると判断して反論をしているのは明らかであるから,再度刊行物1を含む拒絶理由通知書を提示したとしても,それは単に形式的なものに過ぎず,拒絶理由通知書の趣旨としては平成13年6月12日付けの拒絶理由通知書(甲7)と同じ内容のものとなってしまい意味がないことになる,と主張する。
 しかし,本願発明の技術的特徴がどこにあるにせよ,本件における審決の判断が,拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしていることに変わりはなく,再度刊行物1を含む拒絶理由通知書を提示したとしても同じ内容のものとなってしまうとして原告に意見を述べる機会を与える必要がないということはできない。
なお,意見書(乙1)の記載内容をみても,原告は,拒絶査定の理由とされた刊行物2を主引用例と認識して意見を述べていることが明らかであり,刊行物1を主引用例と認識して意見を述べていると認めることができる箇所は見当たらない。』

最近の次の二つ判決も同趣旨を言う。

事件番号 平成17(行ケ)10395
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

事件番号 平成18(行ケ)10102
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

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